2022年の東大地理第2問設問Bでは、ブラジルの北部・北東部・南東部・南部・中西部の5つの地域における経済開発や経済発展の状況が問われました。
これらの地域の地理的特徴や産業構造を理解することで経済の状況を把握しておきましょう。
この記事では、以下のテーマごとに詳しく解説します。
- ブラジル北部の経済開発・経済発展
- ブラジル北東部の経済開発・経済発展
- ブラジル南東部の経済開発・経済発展
- ブラジル南部の経済開発・経済発展
- ブラジル中西部の経済開発・経済発展
講義
1:ブラジル北部の経済開発・経済発展
自然環境
・アマゾン川
世界最大の流域面積と流量を誇り、全長はナイル川に次いで世界第2位です。
流域にはアマゾン盆地が広がり、交通の要所としても重要な役割を果たしています。
・アマゾン盆地
世界最大の熱帯雨林(セルバ)に覆われており、天然ゴムの原産地でもあります。
しかし、ほとんどの地域が未開発で人口密度が非常に低いです。
主要な経済開発
①マナオス自由貿易地区
・背景と目的
1967年に指定されたマナオス自由貿易地区では輸出入にかかる税が免除され、多国籍企業の進出が促進されました。特にオートバイや家電製品の生産が発展しています。
・ビジネスモデル
主に海外から部品を輸入し、国内向けの製品を組み立てる形態が取られています。
これにより、地域の経済が活性化しています。
②アマゾン横断道路と周辺開発
アマゾン横断道路(トランスアマゾニアンハイウェー)の建設を契機に、周辺地域で牧場や農地開発が進みました。
これによりセルバの一部が開発され、経済成長の局地的な進展が見られます。
③カラジャス鉄山
カラジャス鉄山は世界有数の鉄鉱石埋蔵量を誇る鉄山です。
ブラジル政府主導で開発が進められ、日本も資金協力や技術支援を行っています。
産出する鉄鉱石は主に輸出用であるため、カラジャス鉄山は港湾施設と鉄道で結ばれています。
課題
①環境問題
アマゾン熱帯雨林は地球規模の生態系維持において重要な役割を果たしていますが、経済開発が進むにつれて伐採や森林破壊が深刻化しています。
②他地域との格差
ブラジル北部は経済成長が著しいですが他地域と比較して開発が遅れ、GDPは低水準となっています。
2:ブラジル北東部の経済開発・経済発展
歴史と産業構造
①植民地時代の影響
ブラジル北東部は16世紀にポルトガル人が最初に入植し、植民地化された地域です。
そのため開発の歴史が古く、当時の産業構造が現在も色濃く残っています。
植民地時代からの大土地所有制が今なお続いており、農業経済を支配しています。
②プランテーション農業
・主な作物:さとうきび、綿花、カカオ
大農園(ファゼンダ)によるプランテーション農業が主流で、これらの作物を中心に農業が営まれています。
・砂糖産業の中心地
北東部はブラジルの主要な砂糖生産地域であり、サトウキビの栽培が特に重要な役割を担っています。
現在の経済状況
①一人あたりGDPが低い
貧困層が大半を占めており、経済発展が遅れています。
工業化や産業高度化が進んでいないため、他地域との格差が大きいです。
貧困層が多いのは、農業以外の産業が育っていないことと干ばつが頻発する農業脆弱地帯であり生産性が低いことが原因です。
②バイオエタノール生産の拡大
サトウキビを原料としたバイオエタノールが自動車燃料として注目されており、需要が増加しています。
それによりサトウキビの生産量は増加しているものの、それだけで地域全体の経済発展を支えるには限界があります。
課題
①産業が高度化できていない
古い産業構造が残存しているため、工業化や先端技術産業の導入が遅れています。
それにより、一人あたりGDPも他の地域と比べて低くなっています。
②気候リスク
干ばつが頻発し、農業生産に大きな影響を与えています。
これも一人あたりGDPが他の地域と比べて低い理由です。
水資源の管理が地域の課題です。
3:ブラジル南東部の経済開発・経済発展
産業の発展と経済的特徴
①資源の豊富さと工業の発展
南東部は鉄鉱石などの豊富な資源を背景に、鉄鋼業を中心とした重工業が発展しています。
ミナスジェライス州は鉄鋼業の中心地であり、イタビラ鉄山やウジミナス製鉄所(日本・ブラジル合弁)が有名です。
リオデジャネイロ沖の海底油田開発も進み、エネルギー資源の活用が経済成長を支えています。
②大都市の存在
南東部には大都市が集中しています。
・サンパウロ
ブラジル最大の都市で、コーヒーの集散地として発展しました。
ラテンアメリカ最大の工業都市であり、商業・金融の中心地でもあります。
・リオデジャネイロ
観光・保養都市であり、「世界三大美港」の一つとしても知られます。
1960年までブラジルの首都でもありました。
③高いGDP水準
資源や工業化、サービス業の発展により南東部は地域別GDPの水準が最も高いです。
農業
サンパウロ州はブラジルのコーヒー生産の中心地です。
コーヒー栽培は、収穫期に乾燥する気候と肥沃なテラローシャ(玄武岩などが風化して生成された土壌)に支えられています。
大農園(ファゼンダ)で請負契約農民(コロノ)を雇用して効率的に生産されています。
社会問題と都市化の課題
①貧困層の流入
南東部の大都市には、農村から就業機会を求めて貧しい農民や小作人が流入しています。
農村では生産の機械化や合理化が進み、労働者が仕事を失うからです。
②スラム(ファベーラ)の形成
流入した貧困層の多くは都市部で十分な就業機会を得られず、路上の物売りやゴミ拾いなどのインフォーマルセクターで生計を立てています。
住居を確保できない低所得者層は都市の周辺部にある土地を不法占拠し、スラム(ファベーラ)を形成します。
ファベーラの住民は教育や福祉サービスを受けられないことが多く、子どもたちがストリートチルドレンとして過ごすケースもあります。
③犯罪と治安問題
ファベーラは犯罪率が高く、治安の悪化が都市の大きな課題となっています。
改善のための取り組み
ファベーラの拡大を防ぐため、家賃の安い公共住宅を都市の外縁部に建設する動きが見られます。
これにより、スラムの拡大や治安悪化を防止する効果が期待されています。
4:ブラジル南部の経済開発・経済状況
経済水準は高い
南部はブラジル南東部に隣接しており、比較的経済水準が高い地域です。
工業化の歴史が長いですが、近年の経済成長率は他地域と比較して低下傾向にあります。
工業化と発展の歴史
南部では早い時期から工業化が進み、機械産業や軽工業を中心に経済基盤が形成されてきました。
地域全体で工業の重要性が高く、南東部との連携を活かして工業生産を維持しています。
エネルギー供給の中心地
南部はブラジルにおける主要な水力発電地帯です。
特に、パラナ川上流に建設されたダム群は国内のエネルギー供給に重要な役割を果たしています。
パラナ川に位置するイタイプ発電所は、世界最大級の水力発電所の一つです。
5:ブラジル中西部の経済開発・経済発展
地理的背景
中西部はブラジル高原が広がる地域で、サバナ気候に属します。
サバナ気候下ではセラード(熱帯疎林)と呼ばれる植生が分布しており、開発前は酸性の赤土が広がる不毛地帯でした。
土地改良による農地開発
①日本の協力による土地改良
1979年以降、日本のODA(政府開発援助)を活用して酸性土壌の中和や灌漑整備が進められました。
これにより、セラード地帯が農地として利用可能となり、大豆生産が本格化しました。
②大豆生産の拡大
アメリカ合衆国の穀物メジャーが手掛けた遺伝子組み換え(GM)大豆の導入によって、除草剤使用や大型機械による大規模・合理的な栽培が可能になりました。
これにより、ブラジルは現在、世界最大の大豆生産・輸出国となっています。
③牧畜業の発展
セラードや草原の農地開発が進む一方で牧場開設が行われ、牛の粗放的放牧が拡大しました。
ブラジルは牛飼育頭数が世界最大であり、牛肉の生産はアメリカ合衆国に次ぐ規模で世界最大の牛肉輸出国です。
内陸部開発
1960年に建設された計画都市ブラジリアは、中西部の開発を象徴する都市です。
内陸部開発の拠点として、人口の分散と経済均衡の実現を目的に設計されました。
資料の読み取り:表2-2
表2-2の地域データから以下の地域の特徴を読み取ります。
ア
一人あたりGDPが高く、南東部や中西部と同水準です。
また、GDPの成長率は南東部の次に低い水準となっています。
したがって、古くから工業が発展しており直近の成長は鈍化している地域と考えます。
北部・北東部・南部のうちこの特徴にあてはまるのは南部です。
イ
人口が南東部に次いで二番目に多いです。
一人あたりGDPが五地域のなかで最も低くなっています。
以上から産業の中心が農業でありその生産性も高くない北東部であると考えます。
ウ
GDPは五地域のなかでもっとも低い水準となっています。
しかし、成長率は五地域のなかで最も高い水準です。
以上から、自由貿易地区マナオスの発展が著しい北部であると考えます。
解答例
(1)
アー南部、イー北東部、ウー北部
(2)
ウではアマゾン川流域のマナオスが自由貿易地区に指定され工業化が進展している。中西部ではサバナ気候のブラジル高原のセラードを開発して農地が増加し大豆の生産量や輸出量が増加している。(89文字)
(3)
南東部では工業やサービス業など産業の高度化が進んでおり所得水準が高いが、イ地域は大土地制の農業中心で所得水準が低い。(58文字)
(4)
農村から低所得層が流入するが仕事や住居が見つからず、物乞いなどのインフォーマルセクターに従事し、スラムを形成している。(59文字)