【東大地理2021】地球温暖化が北極圏の海や陸に及ぼすと考えられる影響|第1問設問A(1)

東大地理2021第1問設問A(1)温暖化が北極圏の陸と海に及ぼすと考えられる影響 地理

2021年の東大地理第1問設問A(1)では、「航路」「資源」「地盤」「生態系」の語句を用いて「地球温暖化が北極圏の海や陸に及ぼすと考えられる影響」を3行(≒90字)で説明する記述問題が出題されました。

本記事では、地球温暖化が北極圏に与える影響について、徹底解説します。

執 筆 者
諏訪孝明

東京大学経済学部卒
1浪・東大模試全てE判定・センター7割台の崖っぷちから世9割、日8割、数2割で文科Ⅱ類に合格。
これまでに1000人以上の受験生を指導。 
直近2年で偏差値70超の学校への合格率が90%を超えている。

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資料の読み取り

図1-1:地球の平均気温が2℃上昇する場合の影響

図1-1では、地球の平均気温が2℃上昇するときに気温の変化が特に顕著である地域を示しています。
これによると、北極圏およびその周辺地域が大きな気温変化を受けることが予想されています。

具体的には以下の地域が該当します。

  • 北極圏全域(北極海を中心とする地域)
  • シベリア(ロシア東部)
  • 極東地域
  • カナダ北東部 

これらの地域は気温の上昇幅が他の地域よりも大きくなると予測されています。

図1-2:地球の平均気温上昇による降水量の変化

図1-2では、地球の平均気温が2℃上昇するときに降水量が特に変わる地域を示しています。
この図からは、以下のことが読み取れます。

  • 図1-1で示された北極圏やその周辺地域が含まれています。

降水量の変化の背景として、気温の上昇に伴う水の蒸発量の増加が挙げられます。
このことから、北極圏では降水量の増加が予想される地域がある一方で、蒸発量の増加が降水量を上回る場合には乾燥化が進む可能性も考えられます。

講義:地球温暖化が北極圏に及ぼす影響

陸での影響

1:永久凍土の融解

地球温暖化により北極圏の永久凍土が融解することで、以下のような影響が予測されます。

①温室効果ガスの放出

永久凍土が融解すると凍土内に閉じ込められていたメタンガスや二酸化炭素が放出され、温暖化がさらに加速します。
メタンは二酸化炭素の約25倍の温暖化効果を持つため、大きな影響を及ぼします。

②地盤沈下

凍土の融解により地盤が不安定化し、建物・道路・パイプラインなどが破壊される可能性が高まります。
これにより交通網の寸断や建物の倒壊など、インフラに深刻な影響が及びます。

③凍土中の病原菌やウイルスの放出

永久凍土には病原菌やウイルスが閉じ込められています。
融解によりこれらが外部に露出し、新たな健康リスクが生じる可能性があります。

④地下資源の開発可能性の高まり

凍土の融解により、これまでアクセスが困難であった地下資源(石油や天然ガスなど)の開発が容易になります。

2:陸域生態系の変化

北極圏の陸域生態系は、気温上昇により大きな影響を受けます。

①動物の生息域への影響

北極圏の代表的な資源動物であるトナカイやその他の動物の生息域が縮小します。

②植物分布の変化

温暖化によりツンドラ地帯が縮小し、樹木が北上する可能性があります。

③先住民の生活への影響

トナカイの放牧や狩猟などを生活基盤とする北極圏の先住民にとって、生態系の変化は生活様式そのものを脅かします。

海での影響

1:氷の融解による生態系の変化

北極海の氷が融解することで、氷上生物や海域生態系に深刻な影響が及びます。

生息域の喪失

ホッキョクグマ・ホッキョククジラ・セイウチなど、氷上や極地海域に依存する動物の生息域が縮小します。
氷上生物の減少は生態系全体に悪影響を与え、北極圏の海域生態系の崩壊を招く恐れがあります。

2:氷の融解による海底資源開発可能性の高まり

地球温暖化により北極海の氷が融解すると、これまでアクセスが困難だった海底資源の開発が容易になります。
北極海には大量の原油や天然ガスが埋蔵されていると推定されています。
氷の融解によりこれらの資源へのアクセスが可能になり、資源開発が活発化しています。

国際的な領有権問題

資源開発を巡ってロシア・デンマーク・カナダなどが北極海の海嶺などの領有権を主張し、国際的な緊張が高まっています。
例えばロシアはロモノソフ海嶺を自国領と主張し、海底に国旗を立てるなどの動きを見せています。

3:氷の融解による新航路の開発

氷の融解によって、北極海航路の利用が進展しています。

①北極海航路の開発

北極海航路はヨーロッパとアジアを結ぶ最短経路であり、輸送距離やコストを大幅に削減できます。
温暖化に伴う海氷減少により、特に夏季に航路の利用が進んでいます。

②経済的・戦略的メリット

北極海航路の利用は、従来のスエズ運河経由に比べて輸送時間を削減できるため経済的メリットが大きいです。
新たな海上輸送ルートとして、国際的な注目を集めています。

注意事項:海面上昇への影響

北極海の海氷が融解しても、直接的な海面上昇にはつながりません。
なぜなら、北極海の海氷はすでに海面上に浮いているため、融解しても水量に影響を与えません。
一方で、南極大陸やグリーンランドの陸上にある氷床が融解すると、海面上昇につながります。

講義のまとめ

「講義」の最後に、この記事のポイントをまとめます。

地球温暖化の北極圏への影響

●陸での影響
①永久凍土の融解
・温室効果ガスの放出
・地盤沈下
・凍土中の病原菌やウイルスの放出
・地下資源の開発可能性の高まり
②陸域生態系の変化
●海での影響
氷の融解
①生態系の変化
②海底資源開発可能性の高まり
③北極海航路の開発

解答例

陸では永久凍土融解に伴う地盤沈下で建物が倒壊するなどし、動植物の生息域が奪われ生態系が変化する。海では海氷減少に伴う北極海航路の利用や海底の原油などの資源開発の活発化がみられる。(89文字)

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