2022年の東大地理第3問設問B(4)では、「2002年以降、日本のりんごの輸出量が増加している理由」を2行(≒60字)で説明する記述問題が出題されました。
本記事では、図3-6の棒グラフや地理的背景をもとにしてりんごの輸出量増加の要因を解説します。
特に、以下の点に注目します。
- 気候
- 日本産農産物の輸出拡大
- アジア諸国の経済成長
- 台湾の貿易体制の変更
資料の読み取り:図3-6
図3-6は1990年から2018年までの日本のりんご輸出量と輸出先を示しています。
このデータから以下の特徴が読み取れます。
輸出量の動向
日本のりんご輸出量は2002年を境に顕著に増加しています。
主な輸出先
台湾・香港・タイが主要な輸出先となっており、特に台湾向けの輸出量が突出しています。
上位の輸出先である台湾・香港・タイはいずれも温暖な気候を持つ国・地域であり、冷涼な気候を好むりんごの自国生産が難しいと考えられます。
講義:台湾や香港向けに日本産りんごの輸出が拡大する理由
1:気候要因
温暖な気候はりんごの栽培に不向き
りんごは冷涼な気候を好む作物であり、温暖な気候の国・地域では生産が難しいです。
台湾や香港などは温暖な気候であるため、りんごの自国生産がほとんど行われていません。
日本の冷涼な地域でのりんご栽培
日本には東北地方や中央高地など冷涼な気候を持つ地域があり、これらの地域ではりんご栽培が盛んです。
特に青森県や長野県などでは品質の高いりんごが生産されており、これが輸出向けの商品として選ばれる要因になっています。
2:日本産農産物の輸出拡大
①日本産農産物の輸出戦略
国内市場の飽和状態を受け、農家や生産者は輸出市場に活路を見出しました。
ブランド果物などの付加価値の高い農産物の輸出が積極的に行われています。
そうしたなかで日本食ブームや「食の安全」に対する関心が高まり、輸出先の富裕層のあいだで安全で高品質な日本産農産物が人気となっています。
②日本産りんごの高品質と高評価
日本産のりんごは、高い糖度や見た目の美しさ、輸送後の鮮度の維持などにより高品質で知られています。
青森県産りんごをはじめとする国産りんごは、台湾や香港などで贈答品や高級果物として需要が拡大しています。
3:アジア諸国の経済成長と需要の増加
①アジアNIEsの急成長
台湾や香港はアジアNIEs(新興工業経済地域)の一部として急速に経済成長を遂げました。
アジアNIEsとは、発展途上国の中で工業製品の輸出を主軸に20世紀後半から工業化を進めた国や地域の総称です。
- 特徴:政府主導の輸出指向型工業化
- 具体例:輸出加工区の整備、繊維工業や機械工業の発展
②台湾の経済発展
台湾は1960年代以降、安価な労働力を生かし軽工業品や電子製品の輸出を中心に経済発展を遂げました。
現在では、パソコンや集積回路(IC)、液晶パネル、半導体などの製造で世界的な競争力を持っています。
③経済成長と農産物需要の拡大
経済成長により台湾や香港の国民の所得が向上しました。
これに伴い、高品質な果物や高級農産物への需要が拡大しています。
特に「食の安全」「品質への信頼」からりんごなどの日本産の農産物が高い評価を受けています。
④地理的利点と輸送コストの抑制
台湾や香港は日本からの距離が近いため、低い輸送コストで品質を保ったまま日本産りんごを輸入することが可能です。
4:台湾の貿易体制の変更
①WTO加盟がもたらした変化
台湾は2002年にWTO(世界貿易機関)に加盟しました。
それにより、以下のような貿易体制の変化がありました。
- 農産物輸入の自由化:農産物輸入の数量規制が緩和され、自由に輸入できるようになった。
- 関税率の引き下げ:農産物の輸入関税が下がり、輸入品の価格競争力が向上した。
②WTOの役割
1995年に発足したWTOは、世界貿易の自由化を促進するために設立されました。
主な目的は以下の通りです。
- 貿易障壁(関税、数量規制など)の緩和。
- 公正な貿易ルールの策定と実施。
- 各国間の貿易摩擦の解決。
解答例
WTO加盟後の台湾を中心とする経済成長が著しく温暖な気候のアジア諸国で、日本の冷涼な地の高品質なりんごの需要が増加した。(59文字。「WT」は2文字で1文字換算。)