2022年の東大地理第1問設問B(1)では、「1784年~1863年において、船の航路が赤道付近や中緯度に集中する傾向があった理由」を、当時の船の構造も考慮して2行(≒60文字)で説明する問題が出題されました。
この記事では、以下のポイントを中心に解説します。
- 蒸気船普及以前の帆船での航海
- 貿易風を利用した航海
- 偏西風を利用した航海と航空
- 季節風を利用したアジアの航海
講義:蒸気船普及以前の大洋航海
帆船での航海
18世紀から19世紀半ばの蒸気船が普及する以前の時代において、大洋を横断する航海では主に帆船が利用されていました。
帆船はエンジンなどの自前の動力を持たず、風力を利用して航行しました。
そのため、航海は風の吹く方向や安定性に大きく依存していました。
船の航路は風向に合わせて計画され、貿易風や偏西風などの一定の方向に安定して吹く風を利用できる航路が採用されました。
風の利用による航路の形成
①貿易風
貿易風は蒸気船普及以前の帆船航海において重要な役割を果たした風であり、帆船で大洋を横断する際の主要な動力となっていました。
貿易風の特徴
項目 | 説明 |
緯度帯 | 赤道付近 (緯度30度付近の亜熱帯高圧帯から赤道低圧帯に向かう風) |
方向 | 北半球:北東風 南半球:南東風 |
安定性 | 年間を通じて一定方向に吹き、風速や風向の変化が少ない |
貿易風を利用した帆船の航海
貿易風は赤道付近で西向きに航行する帆船の主な動力源となりました。
例えば、ヨーロッパの船舶は大西洋を東から西へ移動する際に貿易風を活用して新大陸(アメリカ大陸)やアフリカの西岸に向かいました。
航海の利便性
貿易風は亜熱帯高圧帯から赤道周辺に向けて安定的に吹き、風向や風速が変動しにくいため帆船での西向きのスムーズな航海を可能にしました。
天気の良い地域が多いという気候条件の安定性も加わり、貿易風が吹く赤道付近は帆船の主要な航路となりました。
②偏西風
偏西風の特徴
項目 | 説明 |
緯度帯 | 中緯度地域 (緯度30度付近の亜熱帯高圧帯から緯度60度付近の亜寒帯低圧帯に向けて吹く風) |
方向 | 北半球:南西風 南半球:北西風 |
安定性 | 大洋上では風向きが一定 (大陸上では地形や天候の影響を受け、風向きが変わりやすい。) |
偏西風を利用した帆船の航海
偏西風は中緯度地域で吹く風で、特に大洋上では安定しているため中緯度地域で東向きに航行する帆船の主要な動力源となりました。
例えば、ヨーロッパの船舶は新大陸からヨーロッパへ帰還する際に偏西風を利用しました。
ジェット気流
対流圏と成層圏の境界(上空10キロメートル以上)に吹く速い偏西風をジェット気流といいます。
ジェット気流は航空機の飛行に大きな影響を与えます。
追い風として利用する場合は飛行時間が短縮され、燃料消費量を抑えることができます。
向かい風となる場合は飛行時間が延び、燃料消費量が増えます。
③季節風
季節風の特徴
項目 | 説明 |
主な発生地域 | 東アジア、東南アジア、南アジア |
風向 | 夏季:海洋から大陸へ 冬季:大陸から海洋へ |
季節風を利用した帆船の航海
①夏の季節風を利用して、以下の航路が形成されました。
- 北アフリカ⇒インド
- インド⇒東南アジア
- 東南アジア⇒東アジア
②冬の季節風を利用して、逆方向の航路が形成されました。
- 東アジア⇒東南アジア
- 東南アジア⇒インド
- インド⇒北アフリカ
解答例
内部に動力源をもたず風を動力とする帆船での航行であり、赤道付近で吹く貿易風や中緯度で吹く偏西風を利用して移動したから。
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