2022年の東大地理第1問設問A(3)では、「南アジア・東南アジアから東アジアにかけての地域が人獣共通感染症発生の高リスク地域となっている理由」をこの地域の自然環境と生業の観点から3行(≒90文字)で説明する問題が出題されました。
この記事では、人獣共通感染症発生の高リスク地域とされている南アジア・東南アジア・東アジアについて以下のことについて解説します。
- 自然環境の特徴
- この地域での生業(農業)
- 自然環境と生業がもたらす感染症リスク
講義
南アジア・東南アジア・東アジアで人獣共通感染症の発生リスクが高い理由
自然環境
①気候
この地域は季節風(モンスーン)の影響を強く受けており、特に夏季に高温多雨な気候が広がっています。
夏の季節風は低緯度の海洋から湿った空気を運び込み、雨季をもたらします。
一方、冬季には乾燥した季節風が陸地から海洋に向かって吹き、乾季が形成されます。
②地形
大河川の下流域に沖積平野を中心とした肥沃な土地が広がり、稲作や畜産が活発に行われています。
沖積平野は河川の堆積作用で形成される低湿地で、特に南アジアや東南アジアではガンジス川やメコン川の流域が有名です。
生業
①農業人口の多さ
南アジア・東南アジア・東アジアは世界で最も農業人口が多い地域です。
農業の集約的な形態が、この地域の高い人口密度と密接に結びついています。
②集約的稲作農業
年間降水量が1000mm以上となる沖積平野で主に行われています。
モンスーン気候(夏に高温多雨)を利用した集約的な稲作が特徴で、世界の米生産の9割をこの地域が担っています。
農村の人口密度が非常に高く、狭い耕地に多くの労働力が投入される労働集約的農業が主流です。
③集約的畑作農業
年降水量が500~1000mmの地域で行われる自給的な畑作農業。
小規模経営で、主に小麦、雑穀、大豆などの作物が栽培されます。
乾燥地域では、外来河川や湧水を利用したオアシス農業が営まれます。
④畜産業の発展
稲作地帯では、牛、豚、鶏などの家畜が農地付近で飼育されることが多いです。
経済成長に伴い、動物性タンパク質への需要が増加して家畜の飼育が盛んになっています。
自然環境と生業の人獣共通感染症の発生リスク拡大への影響
南アジア・東南アジア・東アジアでは、自然環境や生業により人と人との接触や人と動物や昆虫との接触機会が多くなっています。
以下で具体的に説明します。
①夏季の高温多雨な気候:媒介生物の発生しやすさ
南アジア・東南アジア・東アジアのモンスーン気候による夏季の高温多雨は、感染症の媒介生物(例:蚊、ダニ)の繁殖を促進します。
これにより、人と媒介生物の接触機会が増加し、人獣共通感染症の発生リスクが高まります。
②労働集約的な稲作:人口密度の高さ
沖積平野で行われる労働集約的な稲作では多くの労働者が狭い耕地の周辺に集中するため、人口密度が非常に高い状況を生み出します。
この過密な農村環境は人と人、あるいは人と動物の接触機会を増加させ、感染症が拡大しやすい条件を作り出します。
③水田付近の農業経営:人と媒介生物の接触
稲作地帯では、水田付近の豊富な水資源が媒介生物の生息に適した環境を提供します。
このような地域での農業活動は人間が媒介生物と直接接触する機会を増大させ、感染症のリスクを高めます。
④畜産の盛んな地域:動物と人の接触
この地域では農地の近くで家畜(牛、豚、鶏など)が多く飼育されており、動物と人間の接触機会が頻繁にあります。
家畜の密集飼育は、動物間で感染症が拡大するだけでなく、人間への感染リスクも増大させます。
解答例
季節風の影響で夏に高温多雨で媒介生物が発生しやすく、沖積平野での稲作や乾燥・冷涼な地域での畑作が労働集約的に行われていて人口密度が高い。畜産も盛んで、動物との接触機会が多い。
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