2023年の東大地理第2問設問A(1)では、韓国、ベトナム、チリの養殖業の特徴に関する問題が出題されました。
この設問では各国の養殖業の特色を理解することが問われており、それぞれの国で異なる水産業の発展背景や特色に基づいて答える必要があります。
この記事では、次のポイントを詳しく解説します。
- 韓国の水産業の特徴
- ベトナムの水産業の特徴
- チリの水産業の特徴
この問題を解くために必要な知識のみならず、それに関連した各国の水産業の特徴を理解しておきましょう。
資料の読み取り:表2-1
表2-1では、水産業が盛んないくつかの国について、1990年と2020年の生産量とその比、2020年の生産量の水域別の割合、2020年の生産量に占める水生植物(主に海藻類)の割合が示されています。
アの特徴
- 淡水域と汽水域での養殖が盛ん
- 1990年から2020年にかけて生産量の増加率が高い
⇒ ベトナム
ベトナムは、メコン川デルタの豊かな水資源を背景に淡水域および汽水域での養殖が非常に盛んです。
1986年のドイモイ政策により市場経済が導入されて以降、生産意欲の向上によってエビなどの水産養殖業が急成長しました。
この政策のもとで輸出産業としての水産業が拡大し、日本などにも多く輸出されています。
イの特徴
- 1990年から2020年の生産量増加率が低い
- ほぼすべてが海水域での養殖
- 水生植物(海藻類)の割合が高い
⇒ 韓国
韓国では、海苔やワカメといった海藻類の養殖が古くから発展しており、海水域での養殖が中心です。
韓国は1990年時点で養殖生産量が高く、その後の生産量増加率は緩やかであったため、すでに成熟した養殖産業を持っていることが示唆されます。
日本同様、海藻の消費が多く、養殖された海藻類は国内で広く消費されています。
ウの特徴
- ほぼすべてが海水域での養殖
- 生産量増加率が高い
⇒ チリ
チリでは、フィヨルドの入り江を利用したサケやマス類の養殖が盛んです。
特に、サケは輸出向けに養殖されていて日本への輸出量も多く、重要な輸出産業となっています。
講義:韓国・ベトナム・チリの水産業の特徴
この記事では、韓国・ベトナム・チリの水産業の特徴を解説します。
これらの国々では、地理的条件・経済政策・自然環境に応じて異なる養殖・水産業が発展しています。
韓国の水産業の特徴
韓国は、日本と同様に魚介類の消費が多く、沿岸地域で水産業が非常に盛んな国です。
韓国の水産業の発展には周辺の地理的な条件が大きく関わっており、太平洋北西部漁場を中心に水産業が発展しています。
以下、韓国の水産業について詳しく見ていきましょう。
太平洋北西部漁場と好漁場の形成
韓国の水産業は、日本列島を中心とした周辺海域、特に日本海で行われています。
この地域には、大和堆(やまとたい)や武蔵堆(むさしたい)といったバンク(海底の隆起部)が点在しており、これらが好漁場の形成に寄与しています。
バンクとは、大陸棚にある比較的高まりのある隆起部のことです。
浅海域となっているため、太陽光がよく届きます。
この光がプランクトンの成長を促進し、それによって小魚が集まり、さらに大型魚類も多く生息するようになるため、好漁場が形成されるのです。
また、暖流の日本海流と寒流の千島海流が交わる場所には潮目(プランクトンが豊富なエリア)が生じ、栄養分が豊富で魚の産卵場や棲家として適しているため、この地域では漁業が盛んです。
沿岸地域での水産業と海苔養殖
韓国の主要な漁港として、プサン(釜山)やインチョン(仁川)が挙げられます。
これらの漁港では、沿岸漁業や養殖が行われています。
特に海苔やワカメといった海藻類の養殖が発展しており、海苔は韓国料理に欠かせない食材となっています。
国内での魚介類消費量の多さ
韓国は日本と同様に、魚介類の消費量が非常に多い国です。
沿岸部の魚市場には豊富な魚介類が並び、海産物が日常生活に深く根付いています。
韓国では、漁業は韓国の食文化を支える基盤ともなっています。
ベトナムの水産業の特徴
ベトナムの水産業は、1986年のドイモイ政策以降に大きな成長を遂げました。
この政策は、社会主義経済から市場経済への転換を目指したものです。
これによって生産意欲が向上し、水産業でも生産量が急速に増加しました。
ここでは、ベトナムの水産業の特徴とその発展の背景について詳しく見ていきましょう。
ドイモイ政策と水産業の発展
ドイモイ政策によってベトナムは市場経済に移行し、外国資本や技術の導入が進みました。
これにより農業や水産業の効率が向上し、生産量の増加が顕著となりました。
特に水産業はベトナムの主要な輸出産業の一つとなり、経済成長を支える柱となっています。
メコン川流域での養殖業
ベトナム南部を流れるメコン川流域は豊富な水資源と肥沃な土壌に恵まれており、水産業が盛んに行われています。メコン川デルタ地帯では淡水域での養殖が活発で、淡水魚やエビの養殖が行われています。
メコン川の淡水域は川魚やエビに適した生息環境を提供しており、地元の漁業者にとって重要な資源となっています。
エビ養殖と輸出産業
ベトナムでは、メコンデルタを中心にエビの養殖が盛んです。
淡水域や汽水域(海水と淡水が混じる場所)でのエビ養殖は輸出用として重要な役割を果たしています。
この地域ではタイガーシュリンプやブラックタイガーといったエビの品種が養殖され、国際市場へ輸出されています。
日本にとってもエビの主要な輸入相手国となっています。
チリの水産業の特徴
チリの水産業は、豊かな自然環境と冷たいペルー海流による好漁場を背景に発展してきました。
特に太平洋南東部漁場はチリの水産業の中心的なエリアとなっており、アンチョビーなどの小型魚類を中心に多様な水産物が漁獲されています。
また、近年ではサケ・マス類の養殖も盛んになり、日本など海外市場に向けた輸出が増加しています。
ここでは、チリの水産業の特徴について詳しく解説します。
太平洋南東部漁場と湧昇流
チリ沿岸は、太平洋南東部漁場として知られる好漁場です。
この海域には南極から流れてくるペルー海流(フンボルト海流)が流れ込み、海面付近の水温を低く保っています。この寒流の影響で沿岸部では湧昇流が発生しやすくなっています。
湧昇流とは、栄養塩類を多く含む深層水をかき混ぜて表層付近まで送る垂直方向の海水の流れです。
深層に存在する栄養塩類を表層まで引き上げることで、プランクトンの増殖を促進します。
このプランクトンを餌とする小型魚類が豊富に生息し、漁業の基盤となっているのです。
エルニーニョ現象と漁業への影響
この地域の漁業はエルニーニョ現象やラニーニャ現象によって影響を受けやすいです。
エルニーニョ現象とはペルー沖合の海水温が平年よりも上昇する現象で、チリ沿岸の湧昇流が弱まり、栄養豊富な水が表層に供給されにくくなります。
この結果、プランクトンの量が減少し、アンチョビーやサバなどの漁獲量が大幅に低下することがあります。
一方、ラニーニャ現象では海水温が低くなるため、湧昇流が強まり漁獲量が増加する傾向があります。
こうした気候変動により、チリの漁業生産量は年によって変動が大きく、不安定な面もあります。
サケ・マス類の養殖業
チリ南部のフィヨルド地帯はサケ・マス類の養殖に適した環境です。
冷涼な水温と入り組んだ地形を利用して、トラウトサーモンやアトランティックサーモンなどの養殖が盛んに行われています。
近年、この地域の養殖業は日本からの技術協力により大きく発展しました。
えさの改良や病気対策の技術が導入され、生産効率が向上したことで養殖サーモンの生産量が急速に増加しました。
日本への輸出と国際市場
チリ産のサケ・マス類は、日本にとっても重要な水産輸入品の一つです。
日本はサケ・マス類の消費が多く、その多くをチリからの輸入に頼っています。
日本での消費量を支えるため、チリでは品質管理や生産体制が整備され、国際市場においても高い競争力を持っています。
チリ産サーモンは鮮度や品質が評価され、日本市場を中心に世界各地に輸出されています。
解答例
アーベトナム、イー韓国、ウーチリ