2024年の東大地理第2問設問B(3)では、中国とインドの「人口変化率の推移にみられる差異とその背景」を2行(約60字)以内で説明する問題が出題されました。
この問題を解くには、中国とインドそれぞれの人口抑制策とその効果についての知識が重要です。
この記事では以下のポイントについて詳しく解説します。
- 中国の人口変化率の推移とその背景
- インドの人口変化率の推移とその背景
この記事を読み進めることで、中国とインドの人口増加率に生じた違いと、その背景について理解が深まります。
ぜひ参考にしてください。
資料の読み取り
表2-1では、2020年時点で人口が1億人を超える世界14カ国の2020年の人口規模(A:10億人以上、B:2億~3億人台、C:1億人台)と、1960年から2020年までの20年ごとの人口変化率が示されています。
この表からは以下の情報が読み取れます。
人口規模
- 表2-1のア~セのうち、人口規模が10億人を超えるのは「カ」と「シ」の2カ国のみです。
- よって、「カ」と「シ」は中国とインドのいずれかと推定されます。
人口変化率の推移の比較
- 「カ」は1960年~2000年までの人口変化率が50%台を維持している。
- 一方で、「シ」は1960~1980年が50%台、1980~2000年は20%台、2000~2020年には10%台と急激に人口変化率が低下している。
このことから、1980年以降に一人っ子政策によって人口抑制が実施された「シ」が中国であると判断できます。
そのため、「カ」がインドであると結論づけられます。
講義
中国の人口変化率の推移とその背景
1960年代の中国では国力向上を目的に出産が奨励されていたため、人口が急増しました。
しかし、急激な人口増加は食糧不足や住宅不足、失業者の増加を招き経済発展の障害となるとされて人口抑制策がとられるようになります。
1970年代後半の抑制政策への転換
当初は晩婚や少産を奨励するにとどまっていましたが、1979年からは一人っ子政策が本格的に導入されて各夫婦が産み、育てることのできる子どもの数が1人に制限されました。
この政策では一人っ子には教育や医療などの優遇措置が与えられる一方で、2人目以降の出産には罰金が科されるなど、厳しい人口抑制が行われました。
この政策により出生率と人口増加率は大幅に低下し、他の発展途上国と比較しても中国の人口増加率は非常に低い水準に抑えられました。
一人っ子政策の影響と転換
一人っ子政策の影響で若年層の割合が低下し、急速な高齢化や労働力不足といった問題が顕著となりました。
また、過保護で育てられるケースが増え、「小皇帝(わがままな子ども)」のような社会現象も問題視されました。
こうした社会問題を受けて一人っ子政策は2015年に廃止されました。
出生率を上げるための奨励策に転換され、出産促進への取り組みが進められています。
インドの人口変化率の推移とその背景
インドでも急激な人口増加が経済発展の障害となるとして、1950年代から人口抑制策が導入されました。
しかし、こうした取り組みは広く浸透せず、高い出生率が続いていました。
人口抑制の取り組みと農村社会の影響
1960年代に入るとインド政府は家族計画の普及に力を注ぎ、1970年代後半には不妊手術も実施されました。
都市部では「子どもは2人まで」といったスローガンが掲示されて一定の効果を上げたものの、人口の6割以上が暮らす農村部では子どもを労働力として見なす考えが根強く、抑制策が浸透しませんでした。
農村部では家族経済を支える児童労働が必要とされており、加えて、ヒンドゥー教の宗教観や伝統的に女性の地位が低いことも家族計画の理解浸透を妨げる要因でした。
都市化による影響と近年の変化
農村から都市部への人口流入も進み、デリー、ムンバイ、コルカタなどの大都市ではスラムの拡大が進み、都市問題も深刻化しています。
一方で、近年は経済成長が進むとともに家族計画が普及し、女性の識字率向上も加わり出生率は鈍化しています。
特に貧困層では多産と貧困の連鎖が課題となっていますが、教育の普及と女性の社会進出が進むことで人口増加率の抑制が期待されています。
解答例
シ国は一人っ子政策で1980年代以降人口変化率が急減したがカ国は人口抑制策が浸透せず人口変化の低下は2000年代以降となった。
(59文字 ※「19」「80」「20」「00」は2文字で1文字にカウントしています。)