2019年の東大日本史第1問設問Aでは、10世紀から11世紀前半の上級貴族に求められた能力について、1行(約30字)以内で記述する問題が出題されました。
本記事では、上級貴族に求められた能力を具体的な歴史背景とともに解説し、正確な記述ができるようにサポートします。
資料の読み取り
文章(1)
9世紀後半以降、朝廷で行われる年中行事は「年中行事」として整備され、手順や作法に関する先例が蓄積されていたことが示されています。
文章(2)
上級貴族は、朝廷の諸行事を執り行う責任者(上卿)としての役割を担っていたことが述べられています。
文章(3)・文章(4)
文章(3)では、儀式において手順や作法を誤ると「前例と違う」として低評価を受けることが示されています。
文章(4)では、長年にわたり儀式や政務の先例に通じた貴族が高く評価されて「賢人右府」と称されるなど、先例の知識が重視されたことがわかります。
資料の読み取りのまとめ
以上の内容から、上級貴族には朝廷の年中行事を主導する責任者として先例を熟知し、それに則った手順や作法を正確に守りながら行事を円滑に遂行する能力が求められていたことがわかります。
講義:摂関政治の時代における中央貴族社会の特徴
摂関政治の時代(10世紀後半~11世紀中頃)、天皇およびこれを代行・補佐する摂政・関白と太政官が中心となって政治が運営されました。
皇族や摂関(藤原北家)をはじめとする上級貴族に権力が集中しました。
特徴1:藤原北家による摂関独占
- 天皇の外戚となることで、藤原北家が摂政・関白の地位を独占。
- 藤原基経が関白に就任して以降、藤原道長・頼通の時代に最盛期を迎えた。
特徴2:天皇の権威の形骸化
- 幼少の天皇を即位させ、外戚が摂政・関白として実権を握る。
- 天皇は形式的な存在となり、政治の実権は上級貴族に集中。
特徴3:上級貴族による人事権掌握
- 摂関が位階の授与や官職の任命に大きな権限を持ち、公卿らも官吏を推挙する権利を有した。
特徴4:貴族層の家柄や上下関係の固定化
- 高位官職(大臣・大納言など)が特定の家系に世襲され、「家職化」が進行。
特徴5:荘園を基盤とする経済力の集中
- 貴族たちは地方の荘園を拡大し、荘園領主として経済基盤を強化。
- 国司(受領)と結びつき、自らの荘園を国免荘とすることで経済基盤を拡充。
- 経済的な利権の大きい受領の地位を希望する者からの貢献物により、莫大な富が集中。
特徴6:下級貴族や地方勢力の抑圧
- 下級貴族(中級官人)は昇進の機会が制限され、上級貴族層との格差が拡大。
- 上級貴族が人事権を握ったことで氏族の家柄が固定され、特定の官職を世襲的に受け継ぐことが増加。
上級貴族に求められた能力とその背景
上級貴族が人事権を掌握したことで官職の世襲が進み、氏族ごとに特定の役職を継承する仕組みが確立されていきました。
その結果、摂関政治の時代には朝廷の儀式や行事を先例に従って遂行することが貴族の最も重要な職務と認識されるようになりました。
朝廷の儀式(年中行事)は政治の一環として重視されました。
9世紀後半に制度化されたのち、10世紀後半には先例が蓄積されて厳格に運営されるようになりました。
そのため、上級貴族には、政務や儀式の先例を正確に把握し、それに則って年中行事を円滑に遂行する能力が不可欠とされました。
解答例
年中行事を責任者として先例どおりに滞りなく執り行う能力。(28文字)