2022年の東大地理第2問設問Aでは、アメリカ合衆国の五大湖周辺やカリフォルニア州、アリゾナ州、アイオワ州、フロリダ州の各地域がもつ経済や社会の特徴についての理解が問われました。
この記事では、以下のテーマごとに詳しく解説します。
- カリフォルニア州の経済・社会
- アリゾナ州の経済・社会
- アイオワ州の経済・社会
- フロリダ州の経済・社会
- アメリカ中西部の五大湖周辺の経済・社会
講義
1:カリフォルニア州の経済・社会
①シリコンバレーを中心とする先端技術産業
カリフォルニア州は、シリコンバレーを中心に世界有数の先端技術産業が集積しています。
ここでは、半導体工場やコンピュータソフトウェア産業、AIやクラウドコンピューティングなどのICT産業が活発です。
さらに、ロサンゼルス周辺では宇宙産業やエレクトロニクス産業が盛んで、州全体として製造品出荷額がアメリカ合衆国の中でも非常に高い水準を誇ります。
②早期の経済発展と人口動態
カリフォルニア州はサンベルト地域の中でも早い時期から発展しました。
以下にその歴史をまとめます。
時期 | 内容 |
19世紀中頃 | ゴールドラッシュを契機に本格的開発が始まる |
1920年代 | 油田開発と精油工業 |
太平洋戦争前後 | 航空機産業などの軍需産業が発展 |
第二次世界大戦後 | 半導体産業やIT・ICT産業が発展 |
こうした経済発展に伴い、都市部を中心に人口が飽和しています。
シリコンバレー周辺地域に高所得者が多く住むようになった結果、地価・住居費・生活費の高騰が顕著となって中・低所得層が郊外へ追いやられています。
また、これによりカリフォルニア州全体の人口増加のペースが鈍化しています。
これには、人口増加率を計算する際の分母となる元の人口規模が大きいため人口が一定程度増えていても増加率は小さくなるという理由もあります。
③農業生産の中心地
カリフォルニア州は、地中海性気候を活かして付加価値の高い農産物を栽培しており、アメリカ最大の農業生産額を誇ります。
特にセントラルヴァレーでは、近代的な灌漑設備を活用して多様な農産物が生産されています。
- 北部:稲作が盛ん。高品質なカリフォルニア米が生産され、日本を含む海外に多く輸出されている。
- 南部:果物や野菜を中心にナッツ類、乳製品、綿花、牧草などの生産が盛ん。有機農産物の生産も増加。
④労働力の特徴
ヒスパニック系人口が多いことがカリフォルニア州の特徴の一つです。
その理由は
①メキシコとの国境沿いにある
②農業において収穫期に多くの労働力を必要とするため、低賃金で雇用されるメキシコ人が多く流入している
といったものです。
また、アジア系の人口も多いです。
中国人やインド人などのIT人材がシリコンバレーで活躍しており、地域経済を支えています。
2:アリゾナ州の経済・社会
①自然環境と一次産品
アリゾナ州は山地・高原と砂漠が多い地形が特徴で、乾燥した内陸地域に位置しています。
この地理的条件の下、銅や綿花といった一次産品の生産に依存する地域として発展してきました。
乾燥した内陸地域であるアリゾナ州にはネイティブアメリカンの保留地が多く、文化的な多様性も特徴の一つとなっています。
②先端技術産業の集積
1990年代以降、アリゾナ州では先端技術産業の立地が急速に進みました。
いち早く発展したカリフォルニア州の隣の州であり輸送や連携が容易であること、工場や研究施設の建設に適した広大な土地があったことなどが要因です。
州都フェニックス周辺にはエレクトロニクス産業やIT産業、ソフトウェア産業が集積し、「シリコンデザート」と呼ばれるようになっています。
この産業集積は雇用の増加をもたらし、地域経済の発展を支えています。
先端技術産業の進展により農業や一次産品依存から脱却しつつあり、州全体の産業構造が転換しつつあることが注目されています。
③人口増加とその要因
先端技術産業の発展に伴い、他州からアリゾナ州への移住者や労働者が増加しています。
アリゾナ州は内陸部に位置し、これまでの開発が他州に比べて遅れていたため人口受け入れ余力が大きい地域でした。
その結果、現在も人口増加率が高い傾向にあります。
これには、もとの人口規模(分母)が小さいために人口の多いカリフォルニア州などと比べて人口増加率が高く見えやすいという側面もあります。
3:アイオワ州の経済・社会
①混合農業の中心地
アイオワ州は、アメリカ合衆国のコーンベルト(とうもろこし地帯)の中核を担う農業地域です。
ここでは、トウモロコシや大豆を主体とした輪作と豚の飼育や肉牛の肥育を組み合わせた混合農業が発展しています。
トウモロコシは主に家畜の飼料として利用されていますが、近年はバイオエタノールの原料としても利用されて需要が増加しています。
②農業依存による課題
アイオワ州では農業が地域経済の中心を占めていますが、新たな雇用の創出が乏しい状況が続いています。
その結果、若年層はより高い賃金水準や多様な雇用機会を求めて他州へ流出しているのが現状です。
これにより州全体の高齢化が進行しています。
4:フロリダ州の経済・社会
①温暖な気候を活かした観光業と移住
フロリダ州は、北中部が亜熱帯、南部が熱帯という温暖な気候を持ち、この特性を背景にした観光業と高齢者の移住が特徴です。
・観光業
マイアミなどのリゾート地やウォルト・ディズニー・ワールドなどのテーマパークが多くの観光客を集める一大観光地です。
・高齢者の移住
温暖な気候を求めて、アメリカ北部のリタイア後の富裕層(主に白人の高齢者)が移住してきます。
これにより、州全体で75歳以上人口の比率が高いのが特徴です。
②ヒスパニック系人口の多さとその背景
フロリダ州は、中南米諸国と直接国境を接していないにもかかわらずヒスパニック系人口の比率が高い地域です。
主な要因は南方のカリブ海に位置するキューバとの地理的な近接性です。
1950年代のキューバ革命以降、社会主義国となったキューバから多くの亡命者がフロリダ州に流入しました。
亡命者の多くは反共産主義者であり、富裕層や医師・企業家・軍人などの知識層・専門職が含まれており、フロリダ州の経済発展にも寄与しています。
③園芸農業の発展
フロリダ州は、大都市から距離があるものの輸送技術の進化(特にトラック輸送・冷蔵輸送の発達)によって農業も発展しています。
温暖な気候を活かして促成栽培が行われており、特にグレープフルーツやオレンジの栽培が有名です。
④航空宇宙産業の集積
フロリダ州では観光業や農業だけでなく、航空宇宙産業の集積が進んでいます。
ケネディ宇宙センターなどの航空宇宙関連施設が集まることで、航空宇宙産業が発展しています。
フロリダ州は宇宙産業の研究・開発拠点として、全米でも重要な位置を占めています。
5:中西部の五大湖周辺の経済・社会
①地域概要
中西部とはグレートプレーンズの東側、アメリカ合衆国中央北部をさす地域名です。
ミシシッピ川流域北部、オハイオ川以北、五大湖地方(オンタリオ湖を除く)を含みます。
そこに含まれる五大湖周辺地域にはかつてアメリカ合衆国の工業の中核を担った工業都市が多く存在します。
②重工業の発展と衰退
五大湖周辺地域では、メサビの鉄鉱石とアパラチアの石炭を五大湖の水運で結びつける形で鉄鋼業を中心とした重化学工業が発展しました。
代表的な工業都市
・ピッツバーグ:鉄鋼業が盛ん
・デトロイト:自動車産業の中心地
しかし、1960年代以降、重化学工業が斜陽化しました。
その主な原因は以下のとおりです。
・ヨーロッパや日本の工業化による競争激化
・生産設備の老朽化
・労働コストの上昇
その結果工場の閉鎖や移転が相次ぎ、失業率が上昇しました。
それによりデトロイトをはじめとする都市は税収が減少し、財政難に直面しました。
五大湖周辺の工業地帯はスノーベルト・フロストベルト・ラストベルトと呼ばれるようになりました。
③インナーシティ問題
工業衰退により、五大湖周辺の中心都市ではインナー・シティ問題が深刻化しました。
発生した社会問題は以下のとおりです。
・基幹産業の衰退による富裕層の流出
・失業率の上昇による貧困層の増加
・税収減少による公共サービスの縮小
・治安や衛生環境の悪化
例えば、デトロイトでは自動車産業の衰退により雇用が失われ、失業者が増加しました。
その後リーマンショックの影響もあり2009年にゼネラルモーターズやクライスラーが経営破綻すると2013年の財政破綻により公共サービスの縮小を余儀なくされ治安が悪化しました。
④再開発と復興の事例
近年は五大湖周辺の一部の都市で再開発が進み、新たな産業構造への転換が図られています。
例えばピッツバーグは都市再開発に成功し、先端機械産業を中心としたハイテク都市になりました。
優れた大学や研究機関が立地し、医療機関も充実させて優秀な人材が集まる環境を整備しました。
また、デトロイトにも若い企業家が集まり始め、徐々に活気を取り戻しつつあります。
解答例
(1)
アはICT産業発展により生活費が高騰し人口流入が抑制され、イは近年の先端技術産業集積による雇用創出で人口流入が続いた。(59文字)
(2)
ウは農業が産業の中心で、若年層が雇用機会を求めて他州の都市へ流出した。エは温暖な気候を求めて退職後の高齢者が流入した。(59文字)
(3)
失業率上昇による貧困層増加と税収減による行政サービス縮小。(29文字)
(4)
革命で社会主義国となったキューバから亡命者が多かったから。(29文字)