【東大地理2021】日本の農林漁業、生産工程、サービス職業、販売に従事する女性の増減とその理由|第3問設問B(1)(2)

東大地理2021第3問設問B(1)(2) 日本の女性の農林漁業、生産工程、サービス職業、販売の職業別就業者数の増減 東大地理

2021年の東大地理第3問B(1)(2)では、日本における女性の職業別就業者数(農林漁業、生産工程、サービス職業、販売)の増減に関する問題が出題されました。
この問題では、各職業の就業者数の変化を資料から読み取るだけでなく、その背景にある社会的・経済的要因を理解することが求められます。

本記事では、それぞれの職業の変化の特徴を解説し、その背後にある日本の産業構造や技術革新、社会の変化について詳しく説明します。

執 筆 者
諏訪孝明

東京大学経済学部卒
1浪・東大模試全てE判定・センター7割台の崖っぷちから世9割、日8割、数2割で文科Ⅱ類に合格。
これまでに1000人以上の受験生を指導。 
直近2年で偏差値70超の学校への合格率が90%を超えている。

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資料の読み取り:表3-2の分析

ア:サービス職業

サービス職業に従事する女性の就業者数は、2010年から2015年にかけて北海道を除くすべての地方で増加しています。
この増加は、日本の経済が製造業などの第二次産業からサービス業を中心とする第三次産業へと移行していることを反映しています。
特に大都市圏では商業や観光業、医療・福祉などの分野での雇用需要が拡大しており、それが女性の就業機会の増加につながっています。

一方、北海道では女性のサービス職業への従事者数が減少しています。
これは北海道における人口減少や高齢化の進展により、地域内でのサービス業需要が縮小したことが原因と考えられます。
また、若年層の人口が都市部へ流出していることも、この傾向を強めています。

イ:農林漁業

農林漁業に従事する女性の就業者数は、すべての地方で減少しています。
しかし、次に述べる「ウ:生産工程」に比べると、その減少幅は小さいのが特徴です。

この背景には、農林漁業が生活に直結する第一次産業であるため、完全には需要が消失しないという事情があります。
さらに、農林漁業は1950年代から就業者数が減少しており、2010年~2015年の減少は限定的なものだったと考えられます。

ウ:生産工程

生産工程に従事する女性の就業者数はすべての地方で減少しており、その減少幅は「イ:農林漁業」と比較して大きいのが特徴です。

この背景には、製造業の構造変化が大きく影響しています。
円高や賃金水準の上昇によって製造業の生産拠点が安価な労働力を求めて海外に移転し、国内では「産業の空洞化」が進行しました。
また、ロボットやAI技術の導入による製造工程の自動化が進み、人手による労働が減少しています。

さらに、景気変動の影響を受けやすい製造業では景気悪化時に非正規雇用が削減される傾向が強く、女性の雇用機会が特に減少しやすいと考えられます。
これらの要因が複合的に重なり、生産工程における女性の従事者数が大幅に減少したといえます。

講義:各職業の従事者の特徴と変化の背景

農林漁業の従事者の特徴と変化の背景

農林漁業に従事する女性の就業者数は減少傾向が続いています。
この減少は1950年代から始まっており、現在でも継続していますが、その減少幅は他の産業と比較すると相対的に小さいという特徴があります。

歴史的背景と減少の要因

戦後直後の1950年には、第一次産業人口の割合が最も高く、農業が日本経済の中心でした。
この時期の農業就業人口は全体の45.4%を占めていました。

1955年以降の高度経済成長期において工業化が急速に進展し、第二次産業・第三次産業が発達しました。
これにより、農林漁業との所得格差が拡大し、農業から他の産業へ労働力が流出しました。

農業における機械の導入や省力化が進み、人手を必要としなくなったことも減少の一因です。
これにより、家族経営や個人経営が可能になり、雇用の機会が減少しました。

現在の減少傾向の特徴

農林漁業は生活に密着した産業であるため、近年でも一定数の労働力が確保されています。
しかし、地域社会の高齢化の影響で就業者不足が深刻化しています。

生産工程の従事者の特徴と変化の背景

生産工程に従事する女性の就業者数は、すべての地方で減少しています。
この減少は、第二次産業の歴史的な変遷や経済の構造的変化によるものであり、特に1990年代以降に急激に進んでいます。

歴史的背景と就業者数の推移

高度経済成長期には工業化が進展し、第二次産業の人口割合が急速に高まりました。
製造業の拡大に伴い、国内の生産活動に多くの労働力が投入されました。

1970年代に入ると、円高や賃金水準の上昇により国内製造業の競争力が低下しました。
この影響で工場の海外移転が進み、生産拠点が国外にシフトする「産業の空洞化」が顕著になりました。
特に、自動車工業などの輸出産業では、貿易摩擦緩和のために現地生産が加速しました。

1990年代以降、IT化やグローバル化の影響で第二次産業に従事する労働力は急速に減少しました。
国内の製造業の縮小が進み、生産工程の就業者数も大幅に減少しました。

産業の空洞化と技術革新の影響

①産業の空洞化
円高やグローバル競争の激化により国内の製造業が海外移転を進めたことで、国内の生産工程における労働力需要が低下しました。
特に、安価な労働力を求める企業がアジア諸国に工場を設置する傾向が強まりました。

②ロボットやAI制御の導入
製造業では、ロボットやAIを活用したオートメーション化が進みました。
これにより、生産工程における人手不足が解消される一方で、人的労働力の需要が大幅に減少しました。
作業の自動化は、生産効率の向上やコスト削減を実現する一方で、従事者数の減少を加速させました。

景気の変動による影響

生産工程における就業者数は、円高・円安といった為替の変動や景気の影響を受けやすい産業の一つです。
景気が悪化すれば工場の稼働率が下がり、労働需要が減少します。

サービス職業の従事者の特徴と変化の背景

サービス職業とは

サービス職業には、商業、医療・福祉、宿泊業・飲食業、運輸業、公務、情報・通信業、金融・保険業など、モノの生産に直接関与しない産業が含まれます。
これらの職業は、現代の日本において第三次産業を支える重要な役割を担っています。

サービス職業の就業者数の増加

日本では、サービス職業に従事する女性の数は全国的に増加しています。
この傾向は特に1990年代以降顕著であり、現在では第三次産業の人口割合が最も高い状態となっています。

日本の経済は、製造業中心からサービス業中心へと構造が転換しています。
これは経済のサービス化と呼ばれる現象で、第三次産業が産業全体の中で占める比重が増大することを意味します。
これは、主に以下のような要因によって発生しました。

  • 生活水準の向上に伴うサービス需要の多様化
  • 情報通信技術の発展
  • 核家族化や高齢化による保育・介護などの需要の増加

この動きにより、特に大都市圏を中心にサービス職業従事者が増加しています。

地域別の特徴

①東京都
東京都は日本の首都であり、行政機関や金融機関、大企業の本社などの中枢管理機能が集積しています。
さらに、人口が多いため、商業やサービス業に従事する人々が非常に多くなっています。
このため、東京都ではサービス職業従事者が他地域よりも多い傾向があります。

②沖縄県
沖縄県は豊かな自然環境を背景に観光業が盛んです。
さらに、米軍基地が多数存在するため、基地関係のサービス業に従事する人も多くなっています。
観光産業と基地経済が沖縄のサービス職業を支える二本柱となっています。

現代の傾向

サービス職業は女性が活躍する場としても重要な役割を果たしています。
医療・福祉分野をはじめとする多くのサービス業は人手不足が続いており、女性の労働力が不可欠となっています。また、宿泊業や飲食業といった観光関連分野でも、女性の雇用が拡大しています。

販売職の従事者減少とその背景

販売職の現状

日本における販売職に従事する女性の数は、近年減少傾向にあります。
この減少は全国的に見られ、地方ごとの違いはあるものの、全体的な流れとして明確です。

販売職の減少要因

①電子商取引や通信販売の拡大
インターネットの普及により、ネットショッピングやオンラインショッピングが急速に拡大しました。
多くの消費者がインターネット上で商品を購入するようになり、実店舗での販売が減少しています。
これにより、従来の店舗で働く販売職の需要が低下しました。

②店舗運営の自動化
実店舗においては、セルフレジやキャッシュレス決済の普及が進み、人手を必要としない仕組みが増えています。
これにより、対面で販売業務を行う従業員の役割が縮小し、販売職の減少を招いています。

  • セルフレジ:スーパーやコンビニでは、顧客が自分で会計を済ませるセルフレジが一般化しています。
  • キャッシュレス決済:電子マネーやQRコード決済の利用が増え、現金を管理する人員が減少しました。

今後の課題と展望

販売職の減少は、社会全体のデジタル化や自動化の進展と密接に関係しています。
この動きは今後も続くと予想されますが、一方で消費者と直接対話する接客スキルが必要な業務には一定の需要が残ると考えられます。
特に高級品や専門商品を扱う店舗では、対面販売の重要性が維持される可能性があります。

解答例

(1)
アーサービス職業、イー農林漁業、ウー生産工程。

(2)
ウは拠点の海外移転や工程の自動化によって減少した。販売はインターネット上での取引増加や決済の省力化・自動化で減少した。(59文字)

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