2021年の東大地理第3問Aでは、25歳~34歳の女性の労働力率や管理職に占める女性の割合に注目し、各国の特徴を読み取り、その背景や原因を考察する問題が出題されました。
この記事では、スウェーデン、日本、トルコ、イスラエル、フィリピンにおける女性の社会進出の状況について、それぞれの背景や特徴を解説します。
この問題を通じて、社会の構造的な違いや文化的背景が女性の働き方にどのような影響を与えるかを深く学びましょう。
資料の読み取り
表3-1では、2002年と2017年時点の25歳から34歳の女性の労働力率および管理職に占める女性の割合が示されています。
これを基に各国の特徴を解説します。
A:スウェーデン
- 2017年の女性の労働力率が85.4%と、表中の国で最も高い。
- 管理職に占める女性の割合も38.9%とフィリピンに次ぐ2位。
- 北欧諸国では男女平等が進んでおり、育児休暇制度や保育施設が充実しているため、働きながら子育てをする環境が整っています。
B:トルコ
- 2017年の女性の労働力率が46.9%と表中で最も低い。
- 管理職に占める女性の割合も15.0%とワースト2位。
- イスラーム文化圏では宗教的な慣習により女性の社会進出が制約されることが多く、男女格差が顕著です。
C:日本
- 2017年の女性の労働力率は78.4%と比較的高いが、管理職に占める女性の割合は13.2%で最も低い。
- 女性が結婚や出産を契機に離職する「M字カーブ」が課題となっており、管理職への登用も進んでいません。
講義:各国の女性の社会進出の状況とその背景
スウェーデンにおける女性の社会進出の状況とその背景
スウェーデンは、北欧諸国の中でも特に女性の社会進出が進んでおり、男女間の格差が比較的小さい国の一つです。政府が長年にわたり社会福祉制度を充実させ、男女平等を促進する政策を積極的に推進してきたことが、この状況を支えています。
社会福祉制度の充実
スウェーデンでは、育児休暇制度や託児所の整備が充実しており、女性が働きながら子育てを行える環境が整備されています。
例えば、男女ともに取得可能な育児休暇制度が普及しており、出産後も女性が職場に復帰しやすい仕組みが整っています。
また、手頃な価格で利用できる保育施設の普及により、子育て世代の家庭負担を軽減しています。
女性の管理職登用
社会全体で男女平等の価値観が浸透しているため、管理職に占める女性の割合も高いのが特徴です。
女性の高等教育進学率が高く、労働市場での活躍が広く認められているスウェーデンでは管理職への女性の登用が進んでおり、女性のリーダーシップを発揮できる環境が整っています。
結論
スウェーデンの女性労働力率と管理職に占める女性の割合の高さは、充実した社会福祉制度と男女平等を尊重する文化が基盤となっています。
これにより、女性が仕事と家庭の両立を可能にし、社会のあらゆる分野で活躍できる仕組みが整えられています。
日本における女性の社会進出の状況とその背景
日本においては、女性の労働力率が若年層で高い一方で、結婚や出産を契機に離職する女性が多いことが特徴です。女性の社会進出を阻む制度的・文化的な要因が根強く、他の先進国と比較して課題が多い状況にあります。
若年女性の労働力率の高さ
日本では、20代から30代前半の女性の労働力率が高いことが特徴です。
この年齢層の女性は高い就業意欲を持ち、職場での活躍も目立ちます。
しかし、結婚や出産などのライフイベントを迎えると、仕事と家庭の両立が難しくなるため、労働力率が急激に低下する傾向があります。
この労働力率の変化は、「M字カーブ」として知られ、日本の労働市場における構造的な課題を象徴しています。
育児と仕事の両立の困難さ
育児支援制度や保育施設の整備が不十分であること、さらに長時間労働が一般的な働き方となっていることが女性が育児と仕事を両立する上での大きな障壁となっています。
育児を理由に職場を離れる女性が多く、その結果、キャリアの中断や職場復帰の難しさに直面するケースが多く見られます。
男女間の賃金の格差
日本では、給与水準において男女間の格差が依然として大きいです。
特に管理職や高収入の職種において男性の占める割合が高く、女性の昇進やキャリア形成の機会が制限されています。
この賃金格差は、女性が仕事を続ける動機を削ぎ、出産や育児を理由に離職する一因となっています。
管理職に占める女性の割合の低さ
先進国の中で、日本は管理職に占める女性の割合が非常に低いです。
女性が昇進しにくい職場文化や女性のキャリア中断が多いことなどがこの状況を助長しています。
結論
日本における女性の社会進出は、若年層では一定の進展が見られるものの、結婚や出産を契機に多くの女性が離職する現状があります。
育児支援制度や働き方改革をさらに推進し、職場でのジェンダー平等を進めることが日本の社会全体で求められています。
女性が長期的に活躍できる社会の構築が今後の大きな課題です。
トルコにおける女性の社会進出の状況とその背景
トルコを含む西アジアのイスラーム文化圏では、女性の社会進出は他地域に比べて遅れています。
その背景には、宗教的、社会的な要因が複雑に絡み合っています。
宗教的な影響
イスラーム教の教義や伝統に基づく生活様式が、女性の社会進出を制限する要因となっています。
特に保守的な地域では、女性の教育や職業選択が制限されることが多く、女性が自立して働く機会が限定されています。
女性の就業や管理職への登用に関しては、宗教的観念が障壁となりやすい状況です。
文化的・社会的な課題
トルコ社会では近代的価値観と伝統的価値観が共存しており、都市部と農村部の間で女性の社会進出に関する状況が大きく異なります。
都市部では教育を受けた女性の社会進出が進む一方、農村部では保守的な価値観が根強く、女性が職業を持つことに対する抵抗感が高いです。
この都市と農村の格差が、トルコ全体で女性の社会進出を阻む要因となっています。
結論
トルコにおける女性の社会進出は、イスラーム文化に根ざした伝統的価値観や宗教的な制約によって大きな影響を受けています。
近代化の進展とともに都市部では女性の社会進出が進む兆しもありますが、全体としては依然として低い水準にとどまっており、特に管理職への女性の登用が課題となっています。
社会全体でジェンダー平等を実現するためには、宗教的価値観を尊重しつつ、女性の権利を保障する取り組みが求められています。
イスラエルにおける女性の社会進出の状況とその背景
イスラエルでは、周辺のアラブ諸国と比較して女性の労働力率が高く、社会進出も進んでいます。
この背景には、宗教や歴史的要因、社会的環境の違いが影響しています。
女性の労働力率が高い背景
イスラエルはユダヤ教徒を主体とする国であり、周辺のアラブ諸国とは異なり、女性に対する宗教的な抑圧が比較的少ないです。
さらに、イスラエルはヨーロッパ各地から移住してきたユダヤ人によって建国された歴史を持ち、その過程でヨーロッパ的な価値観が社会に浸透しました。
これにより、男女平等や個人の自由が重視される社会が形成され、女性の社会進出が進みやすい環境が整っています。
法制度と教育の充実
イスラエルでは、男女平等が法的に保障されており、女性も男性と同等の権利や義務を持つと宣言されています。
このため、女性の教育水準が高く、大学など高等教育への進学率も上昇しています。
教育を通じたスキルや知識の向上が女性の労働力率を押し上げ、管理職などの社会的地位向上にもつながっています。
軍事的背景と女性の役割
イスラエルは、周辺諸国との軍事的緊張が続く中、性別にかかわらず社会への貢献が求められる風潮があります。
この国特有の特徴として、女性にも兵役義務が課されており、若年層から社会参画への意識が高まります。
兵役経験は、労働市場での評価やキャリア形成にも影響を与えるため、女性の社会進出を後押しする要因の一つとなっています。
結論
イスラエルにおける女性の社会進出は、ユダヤ教を基盤としながらも欧米的価値観を取り入れた社会環境や、法制度、教育水準の高さによって支えられています。
また、軍事的な特殊事情も女性の労働力率向上に寄与しています。
他の中東諸国とは異なる背景を持つイスラエルでは、女性が多くの分野で活躍しやすい社会が形成されています。
フィリピンにおける女性の社会進出の状況とその背景
管理職に占める女性の割合が高い背景
フィリピンでは管理職に占める女性の割合が高い点が特徴的です。
この背景には、旧宗主国であるアメリカ合衆国の影響が強く関係しています。
フィリピンはアメリカの影響を受け、男女同権的な教育システムが早期に導入されました。
その結果、都市部では女性の高学歴化が進み、社会進出も加速しています。
都市部に住む富裕層の女性は大学進学率が高く、専門的なスキルを身に付けた後、キャリアアップを重ね、管理職に就くケースが多く見られます。
女性の労働力率が低い理由
一方で、女性全体の労働力率はあまり高くありません。
その理由の一つとして、フィリピン国内の貧富の差が挙げられます。
農村部に住む貧困層の女性は十分な教育を受けられない場合が多く、早婚や多産により家事や子育てに専念せざるを得ない状況に置かれています。
このような女性たちは、他人の家庭の家事手伝いなどのインフォーマルセクターで働くことが多いですが、これらの労働は統計に反映されないため、労働力率の数値を押し下げる要因となっています。
移民労働者としての女性の割合
また、フィリピンでは多くの女性が移民労働者として海外に出稼ぎに出ています。
国民の約10人に1人が国外で働いているとされ、その中でも女性の割合が高いです。
家族の収入を支えるため、特に看護師や介護福祉士として日本を含む先進国で働く例が顕著です。
例えば、2009年に日本とフィリピンが締結した経済連携協定(EPA)を通じて、看護師や介護福祉士の候補者として来日する女性が増加しました。
しかし、このような海外就労も統計上の労働力率には含まれないため、女性の労働力率の低さに影響しています。
格差と社会進出の課題
フィリピンの女性における社会進出は、都市部と農村部、富裕層と貧困層の間で大きな格差が見られます。
都市部では高学歴を背景に管理職に就く女性が増えていますが、農村部や貧困層の女性は早婚や家事労働、海外出稼ぎなどの影響で、国内での正規雇用にはつながりにくい状況にあります。
このように、女性の社会進出は一部で進んでいるものの、格差の解消が今後の大きな課題となっています。
結論
フィリピンでは、都市部の富裕層を中心に女性の管理職進出が進んでいますが、農村部や貧困層の女性の社会進出は進んでおらず、教育や雇用の格差が顕著です。
また、海外出稼ぎ労働者として働く女性が多いことも、国内での労働力率の低さに影響を与えています。
こうした格差を埋め、女性全体の社会進出を促進することが重要な課題といえるでしょう。
解答例
(1)
Aースウェーデン、Bートルコ、Cー日本。
(2)
周辺のイスラーム教国が女性の社会進出に制約を課すのに対し、欧州等から移住のユダヤ人が建国し男女平等が浸透しているから。(59文字)
(3)
貧富の差が教育機会格差を生んでおり、都市部の高等教育を受けた女性が管理職に登用されやすい一方でそれ以外の女性はインフォーマルセクターへの従事や海外への出稼ぎを余儀なくされるから。(89文字)