2021年の東大地理第2問設問Bでは、マレーシア、韓国、インドから英語圏先進国(オーストラリア、カナダ、イギリス、アメリカ)への留学の特徴について問われました。
これらの国々では、それぞれの社会的背景や政策、経済構造が若者の留学動向に大きく影響しています。
また、留学先としての英語圏先進国も、地理的条件や教育環境、多文化主義といった要因で選ばれることが多いです。
本記事では、各国の留学動向の違いや背景要因を解説しつつ、英語圏先進国の特徴についても詳しく解説します。
資料の読み取り:20~24歳人口1万人あたりの留学者数
Aの特徴
・1万人あたり留学者数がBやCに比べて極めて少ない
→ このデータから、Aは他の国と比べて圧倒的に人口が多い国であると推測できます。
→ 人口が多い国では「1人あたり〇〇」や「1万人あたり〇〇」といった比率は小さくなりやすいという法則がある
→ Aはインドと考えられます。
Bの特徴
・(3)の問題文から、B国は学歴社会となっていることがわかる
⇒韓国が学歴社会であることは有名な事実である
⇒Bは韓国と考えられます。
Cの特徴
イギリスやオーストラリアへの留学者数が多い
→ マレーシアと判断できます。
→ ブミプトラ政策による非マレー系学生の制約が原因で、留学先として旧宗主国イギリスや距離的に近いオーストラリアが選ばれやすい特徴が見られます。
講義:アジア諸国から英語圏先進国への海外留学
国別の特徴
マレーシアの特徴
マレーシアでは多数派であるマレー系住民を優遇し、社会的・経済的な格差を是正するためのブミプトラ政策が採用されています。
この政策により公立大学への入学や奨学金の取得においてマレー系住民が優遇される一方で、非マレー系住民である華人やインド系の学生は進学の機会において不利な状況に置かれています。
その結果、非マレー系学生にとって国内の進学が難しい状況が、海外留学を目指す動機となっています。
留学先としては、かつての宗主国であり教育制度などの面で親和性の高いイギリスが選ばれることが多く、また地理的に近く渡航費や生活費を抑えやすいオーストラリアも人気があります。
オーストラリアは多文化主義を採用しており、アジアからの留学生にとって社会的に受け入れられやすい環境を整えている点も重要な要因です。
韓国の特徴
韓国では、経済力がソウル首都圏に集中し、特に財閥と呼ばれる大企業グループが経済の中心的役割を果たしています。
一方で中小企業が十分に発展していないため、多くの若者が財閥系企業への就職を目指しています。
そのため、良い大学への入学が必要とされ、過度な学歴社会が形成されています。
この背景から、韓国では教育熱が非常に高く、受験産業が盛んであり、高等教育への進学率も非常に高い傾向があります。
さらに、財閥系企業への就職では英語力や海外経験が重視されることから、英語圏への海外留学が就職活動での有利な条件となっています。
特に、韓国の国内市場は規模が小さく、輸出依存型の産業構造で国際競争が激しいため、企業は語学力や国際経験を備えた人材を求めています。
このような状況が、英語圏への留学を促進しています。
留学先としては、アメリカへの留学が特に多いのが特徴です。
これは、朝鮮戦争や米韓相互援助条約などを通じて、韓国とアメリカの間に深い政治的・経済的な結びつきがあるためです。
また、韓国社会ではアメリカの教育システムや学位の評価が高いため、アメリカの大学に進学することが大きなメリットと考えられています。
しかし、教育熱心な社会の影響で子どもの教育費が家計に重い負担となり、出生率の急速な低下を招いていることが課題です。
韓国では、高い教育水準を維持する一方で、社会的・経済的なバランスをいかに取るかが重要な課題となっています。
インドの特徴
インドでは、英語が補助公用語として広く使用されており、幼少期から英語を学ぶ機会が増加しています。
この英語教育の普及により、国際的なコミュニケーション能力を持つ人材が増え、英語圏の国々への留学が視野に入れられるようになっています。
特にインドではICT産業が急速に発展しており、この分野への志向が非常に強い傾向があります。
アメリカ合衆国はICT分野で世界をリードする国であるため、インドからの留学者はアメリカを主要な留学先として選ぶことが多く見られます。
インドのICT関連人材は、シリコンバレーをはじめとするアメリカの技術産業において重要な役割を果たしています。
一方で、インド国内では人口に占める貧困層の割合が高く、大学進学率が低いのが現状です。
そのため、20~24歳人口に対する留学者数は非常に小さい値にとどまっています。
これは、国内の経済格差や教育へのアクセスの制限が原因と考えられます。
このような背景の中で、限られた富裕層や高学歴志向を持つ層がアメリカなどへの留学を選択しているのが特徴です。
留学先としての英語圏先進国の特徴
オーストラリアの特徴
オーストラリアは、欧米の他の英語圏先進国と比較してアジアとの地理的な距離が近く、渡航費を抑えやすい点が留学先としての大きな利点です。
さらに、時差も小さいため、留学生にとって心理的な負担が軽減される環境が整っています。
1979年には人種差別的な「白豪主義」を撤廃し、代わりに多文化主義を採用しました。
この政策転換により、オーストラリアはアジア・太平洋地域に開かれた多民族共存の社会を形成してきました。
その結果、様々な民族に対して寛容な姿勢が社会に根付いており、外国人留学生を受け入れる土壌が発展しています。
特にアジア・太平洋圏の国や地域との経済的結びつきが強化される中で、オーストラリアは留学生受け入れを重要なビジネスの一環として位置づけています。
アジアからの留学生に対する教育サービスは、オーストラリア経済における収益源としても大きな役割を果たしており、そのため留学生を積極的に受け入れる政策が推進されています。
イギリスの特徴
イギリスは、歴史的な背景や高い教育水準により、留学先として世界中の学生に人気のある国です。
特にイギリスは世界で最も古い大学制度の1つを持ち、オックスフォード大学やケンブリッジ大学をはじめとする名門大学が多く存在します。
これらの大学は、国際的に認められた高い学術水準と研究実績を誇り、留学生にとって魅力的な学習環境を提供しています。
また、イギリスはかつて広大な植民地を持っていたことから、旧植民地との歴史的・文化的なつながりが強く、英語が国際共通語として広く普及するきっかけを作った国でもあります。
そのため、旧植民地であるマレーシアなどの国々から留学先として選ばれることが多く、これらの国々とイギリスの教育制度との互換性も高い点が特徴です。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国は、世界で最も多くの留学生を受け入れている国であり、その多様性と教育の質の高さから、留学先として非常に人気があります。
特に、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)など、世界トップレベルの大学が数多く存在しており、最先端の研究施設や学術的なネットワークを活用できる点が魅力です。
これらの大学は、科学技術、ビジネス、医学など、幅広い分野で国際的に高い評価を得ています。
アメリカは、ICT(情報通信技術)産業の世界的リーダーであり、シリコンバレーをはじめとするハイテク産業の拠点が多いことも、留学生を惹きつける要因です。
特にインドなどの国々からは、アメリカでのキャリア形成を目指す学生が多く、ICT分野やSTEM(科学・技術・工学・数学)の学位取得を目指す留学生が急増しています。
また、アメリカは、多民族国家として非常に多様性に富んだ社会を形成しており、留学生に対して比較的寛容な文化が根付いています。
奨学金制度や研究助手(RA)・教育助手(TA)として働く機会が豊富であり、留学生が学費を賄いながら学業に専念できる仕組みが整っています。
さらに、大学のカリキュラムは柔軟で、学生が自分の興味やキャリア目標に合わせて授業を選択できる点も特徴的です。
アメリカはまた、経済規模が世界最大であり、国際ビジネスや研究活動の中心地としての地位を占めています。
そのため、グローバルな視野を持つ人材を育成する環境が整っており、留学生にとってキャリア形成やネットワーク構築の絶好の場となっています。
カナダ
カナダは質の高い教育と安全な生活環境、多文化的な社会が特徴で、留学先として非常に人気があります。
特に、トロント大学やブリティッシュコロンビア大学(UBC)など国際的に評価の高い大学が多く、留学生に幅広い学問分野での学習機会を提供しています。
カナダは世界でも治安が良い国として知られており、犯罪率が低く、留学生にとって安全な生活環境が整っています。
また、医療制度が充実しており、留学生も特定の条件下で手頃な費用で医療サービスを受けることが可能です。
カナダは多文化主義を国是としており、さまざまな文化や宗教的背景を持つ人々が共存しています。
この寛容な社会は、留学生が異文化に触れながら快適に生活しやすい環境を提供します。
特にトロントやバンクーバーといった大都市では、世界中からの留学生や移民が多く、多国籍な環境での生活が可能です。
カナダは英語とフランス語の二言語が公用語であり、特にケベック州ではフランス語が主に使われています。
このため、英語だけでなくフランス語も学びたいと考える学生にとっては理想的な環境です。
解答例
(1)
A-インド、B-韓国、C-マレーシア。ブミプトラ政策で非マレー系学生が国内大学に進学しづらく、代替手段として旧宗主国イギリスや近距離のオーストラリアという身近な国への留学が多い。(89文字)
(2)
他の英語圏先進国と比べてアジアとの距離が近く渡航費用を抑えられる。多文化主義をとっておりアジア人にも寛容な社会である。(59文字)
(3)
財閥系企業が採用候補者の学歴を重視して学歴社会となり、小さい国内市場より国際競争が重要なため海外経験を重視するから。(58文字)