【東大地理2021】シンガポール、マレーシア、インドネシアの華人社会の日常生活で広く用いられる中国語の方言とその歴史的背景|第2問設問A(4)

東大地理2021第2問設問A(4)シンガポール、マレーシア、インドネシアの華人社会の日常生活で広く用いられる中国語の方言とその歴史的背景 地理

2021年の東大地理第2問設問A(4)では、シンガポール、マレーシア、インドネシアの華人社会で日常的に使用される中国語の方言とその背景について2行(≒60文字)で説明する問題が出題されました。

本記事では、以下のことについて詳しく解説します。

  • 華僑・華人の特徴
  • 華僑の東南アジア移住の歴史
  • 現在の東南アジア諸国における華人問題
執 筆 者
諏訪孝明

東京大学経済学部卒
1浪・東大模試全てE判定・センター7割台の崖っぷちから世9割、日8割、数2割で文科Ⅱ類に合格。
これまでに1000人以上の受験生を指導。 
直近2年で偏差値70超の学校への合格率が90%を超えている。

諏訪孝明をフォローする
公式LINEでは、国公立大学2次試験の世界史・日本史・地理の論述を攻略するために必須な超有益情報を発信しています。ぜひ友達追加してください!

講義

華僑・華人の特徴

華僑とは

華僑とは、中国本土から海外に移住した中国系移民を指します。
以下の特徴が挙げられます。

・移住の背景
人口過剰・政情不安・貧困といった理由から、主に中国南部(福建省・広東省など)から中国人が移住しました。

・移住先
タイ、マレーシア、インドネシアなどの東南アジア諸国を中心に、世界各国へ移住しました。
移住先では鉱山や農園労働、商業に従事しました。

・「僑」の意味
「僑」という文字は「仮住まい」を意味し、移住先において一時的な生活基盤を築くことを指します。多くの華僑は一時的な出稼ぎの意識を持ちながら移住していきました。

華人とは

華人とは、華僑の次世代で、移住先の国で国籍を取得して定住した中国系住民を指します。
特徴は以下の通りです。

・国籍と定住
華僑が移住先で国籍を取得して定住すると華人と呼ばれるようになりました。

・経済活動への貢献
勤勉で蓄財に優れた華人は現地で商業や経済分野で活躍し、東南アジア諸国の経済を支える重要な役割を果たしました。

・言語と文化の保持
福建省や広東省出身者を中心に、現地で広東語・福建語・客家語などの方言を使用し続けました。
同郷のコミュニティ内で助け合いをし、それを通じて言語や文化を保持しました。

コミュニティ形成と経済活動

華僑・華人は移住先でお互いに助け合いながら地域コミュニティを形成しました。
その過程で、次のような特徴が見られました。

・中華街の形成
華僑は移住先の都市で中華街(チャイナタウン)を形成し、一定の範囲内に集住しました。
これにより、同郷者同士が自然と助け合う相互扶助の経済活動が発展しました。

・同郷ネットワークの活用
同じ出身地の華僑どうしで強い絆を築き、ネットワークを活用して商業活動を展開しました。
それにより地域内の経済的結びつきを強化し、現地経済で成功する基盤を作りました。
同郷の人的ネットワークを活用するため、移住先でも出身地の方言が日常的に使用されました。
同郷意識を強く持ち、方言や文化を大切にしてきたため、現地で出身地の方言が引き続き使用される基盤となりました。

華僑の東南アジア移住の歴史

東南アジアにおける華人社会の形成は、以下の3つの主要な段階を経て発展してきました。

①移住の第一波:16世紀~19世紀初め

・移住の背景と特徴
16世紀後半以降の中国本土では人口増加と経済発展が進みました。
それに伴い、商人を中心とした移住が東南アジア各地で活発化しました。
この時期の移住は、中国南部における人口増加・経済成長と貿易拠点としての東南アジアの魅力によって促進されました。

・中国本土と東南アジアの関係
17世紀末に江戸幕府が対中貿易を制限したことにより、中国は南洋(東南アジア)貿易をより重要視するようになりました。
その結果、福建省のアモイなどの港からマニラ(フィリピン)、バタヴィア(現在のインドネシア・ジャカルタ)、ベトナム、タイといった地域への貿易船の往来が増加しました。

18世紀半ばに南洋貿易は最盛期を迎え、福建省や広東省から多くの中国人が商業活動を目的に東南アジアに渡航しました。
これにより、東南アジアとの人的・経済的つながりが深まり、移住者が増加しました。

・移住の推進要因
海外移住者の多くは福建省や広東省出身であり、彼らの活動は現地の経済発展にも寄与しました。
福建省や広東省は山がちな地形のため農地が限られているため人口過剰が進行し、経済的選択肢として海外移住が現実的な道となりました。
東南アジアは気候が温暖で農業が盛んな地域であったため、多くの中国人が移住しました。

・華僑のネットワーク
移住した中国人は、現地で相互扶助を基盤とするコミュニティを形成しました。
このネットワークは以下のような特徴を持っています。

  • 長距離貿易と現地経済の橋渡し役として重要な役割を果たしました。
  • 経済的成功の基盤となり、商業活動を通じて現地社会での地位を確立しました。
  • 同郷者とのつながりを重視し、言語や文化を共有することで移住先での孤立を防ぎ、助け合いながら生活を築いていきました。

これらのネットワークは東南アジア各地での華僑社会形成の土台となり、後の経済的成功と地域社会への影響力の基盤となりました。

② 移住の第二波:19世紀半ば~20世紀前半

・移住の背景
19世紀半ば、中国はアヘン戦争(1840~1842年)の敗北により清朝が開国を余儀なくされ、多くの中国人が自由に海外に出国できるようになりました。
この自由化により、移住が活発化しました。

同時に、欧米列強による植民地開発が進展し、東南アジアでは労働力不足が深刻化していました。
これにより、中国人労働者の需要が急増しました。

・労働力としての移住
東南アジアでは、錫鉱山やゴム農園などの植民地経済を支える産業で、安価な労働力として多くの中国人が雇用されました。
特にマレー半島やインドネシアでは、欧米列強が労働力を必要とする大規模な開発プロジェクトを進めており、中国南部の広東省や福建省からの移住者が労働者として流入しました。

・華僑の成功と送金
当初は農業や鉱業の労働者として働く人が大多数でしたが、その一部は商業や金融分野で成功を収め、現地社会での地位を高めました。
労働者や成功者を問わず、多くの移住者が故郷への送金を行い、中国本土の経済に大きく貢献しました。
これにより、華僑ネットワークが中国本土との経済的結びつきをさらに強固にしました。

・政治的関与
この時期、華僑は中国国内の政治変動にも積極的に関与しました。
特に辛亥革命(1911年)を支援し、清朝打倒を目指す革命運動に多大な貢献をしました。
華僑は海外に移住しながらも民族意識が強く、中国本土との結びつきを維持していました。
辛亥革命に際しては、資金提供や情報提供、時には政治的運動への参加を通じて、現地から中国の近代化を支援しました。

③定住と華人社会の形成:20世紀半ば以降

・東南アジア諸国のナショナリズムと華僑の定着
第二次世界大戦後、東南アジア諸国ではナショナリズムの高まりとともに独立運動が進み、多くの国が独立を果たしました。
この流れのなかで、東南アジアに移住していた華僑たちは現地社会に定着し始めました。
「華僑」という一時的な居住者の意味合いから、現地で国籍を取得して代々居住する「華人」という呼称が一般的となりました。

・現地社会への同化と華人アイデンティティ
現在でも、多くの東南アジア華人が家族観念や道教信仰といった伝統的な文化を通じて華人としてのアイデンティティを保っています。
現地の文化や言語を取り入れつつも、華人コミュニティ内では中華文化が根強く残り、結婚式や葬儀などの伝統的な儀礼に反映されています。

・社会的地位の向上と現代の華人の役割
華人は、歴史的に商業や経済分野で重要な役割を果たしており、現在でも多くの華人が現地の経済界で成功を収めています。
東南アジアの華人は、現地社会への同化が進むなかでも中国本土との経済的つながりを維持しています。
また、中国経済の台頭に伴い、華人ネットワークを通じて中国と現地社会との経済的な橋渡し役を果たしています。

現在の東南アジア諸国における華人問題

・華人の分布と経済的影響力
東南アジア全域で華人の総人口は2000万人を超え、多くが商業・金融・流通業で成功を収めており、経済的に影響力を持っています。
華人がその国の経済活動の中心を担うことが多く、現地多数派民族との間に摩擦が生じる要因ともなっています。
また、シンガポールでは人口の4分の3を華人が占め、華人社会が社会・経済の中心を担っています。

・主要国の国別の華人問題

①マレーシア
華人の経済力の高さから、政府は多数派であるマレー人を優遇する「ブミプトラ政策」を採用しています。
ブミプトラ政策では教育や雇用の場でマレー人を優遇し、華人との経済格差を是正しようとしていますが、これが民族間の軋轢を生む原因にもなっています。

②インドネシア
総人口の5%程度を占める華人が流通業や商業で重要な役割を果たしています。
華人の経済的成功が多数派である現地住民との間に緊張を生むことがあり、特に経済危機時には反華人感情が高まる例も見られます。

③タイ
華僑・華人が米の流通を支配し、タイを世界有数の米輸出国に押し上げた実績があります。
華人が経済的に成功している一方で、現地社会との文化的・経済的な摩擦も時折生じています。

・文化・経済問題の複雑な絡み合い
華人は商業活動に従事する割合が高く、都市部に集中して生活する傾向があります。
一方、多数派民族は農村部に多く、都市と農村の経済格差が民族間の軋轢を深める原因となっています。
それによる華人の経済的成功に対する羨望や反発は、政治的な制約や文化的排除といった形で現れることがあります。

解答例

広東語。広東省など華南地方から東南アジアへ鉱山や農園の労働力として中国人が大量に移住し出身地域への帰属意識を維持した。(59文字)

タイトルとURLをコピーしました