2021年の東大地理第2問設問A(1)では、国連の公用語や総会・安全保障理事会で用いられる言語、それ以外の世界の主な言語に関する問題が出題されました。
本記事では、国連の公用語を中心に、世界で使用される主な言語の特徴と背景を詳しく解説します。
講義:世界の主な言語
国連憲章で定められた国連の公用語
国連では、総会や安全保障理事会で使用される公用語が国連憲章によって定められています。
これらの言語は第二次世界大戦の戦勝国を中心に選ばれ、国際社会での影響力や歴史的背景を色濃く反映しています。
ここでは、それぞれの言語の特徴と選出の背景について詳しく解説します。
①英語
・国際言語
英語は話者人口で世界第3位に位置する国際語であり、現在では最も広範囲に普及している言語の一つです。
国際連合の公用語としても採用され、多くの国際的な場面で標準的に使用されています。
・歴史的背景
もともとはイングランドで話されていた言語であり、イギリスの世界進出と植民地支配を背景にその使用範囲が大きく広がりました。
大英帝国の植民地政策によって、北アメリカ(アメリカ・カナダ)、オーストラリア、ニュージーランド、インド、ケニア、南アフリカなど、世界各地で公用語または準公用語として位置づけられるようになりました。
・国際語としての役割
英語は、国際ビジネス・科学技術・学術研究・インターネットなどの幅広い分野で国際標準語として利用される言語となっています。
②スペイン語
・話者人口の多い国際言語
スペイン語はラテン系民族であるスペイン人の言語であり、世界第2位の話者人口(約5億人)を持つ国際言語です。英語を上回る話者数を有することが、国連の公用語に採用される理由の一つとなっています。
・歴史的背景
スペイン語の大きな特徴は、その普及範囲がスペイン本国を超えて中南アメリカの広範な地域にわたる点です。
これはスペインの大航海時代に始まる植民地支配が背景にあります。
16世紀以降にスペインは中南アメリカを中心に広大な植民地帝国を築き、この地域にスペイン語が定着しました。
・スペイン語を公用語とする国
スペイン、中南アメリカ諸国のほとんど(ブラジルを除く)。
・国際語としての役割
スペイン語は国際連合の公用語として採用されるとともに、国際的な場面でも重要な役割を果たしています。
特に、中南アメリカにおける地域協力や貿易、文化交流の分野で不可欠な言語となっています。
また、アメリカ合衆国でもヒスパニック系移民の増加により、スペイン語が影響力を持つようになっています。
③中国語
・世界で最も話者の多い言語
中国語は世界で最も話者数の多い言語であり、その数は約13億人に達します。
この膨大な話者数が、中国語が国連公用語に選ばれた主要な理由の一つです。
中華人民共和国の国際的影響力の拡大も、中国語の公用語としての地位を確立する背景となっています。
・多様な話し言葉
漢字を用いるため、書き言葉では中国全土でほぼ共通のコミュニケーションが可能です。
話し言葉では、広東語、上海語、福建語、客家語など、地域による大きな違いがあります。
中国本土では、北京語(普通話)が標準語に指定されています。
・中国語の国際的な役割
中国語の使用は中国本土に留まらず、シンガポール、マレーシア、インドネシアなど華人が多く住む国々でも重要な役割を果たしています。
また、経済的な観点からも、世界中で中国語の学習需要が増大しており、第二言語として学ぶ人々の数も急増しています。
④フランス語
・主要な国際語
フランス語はラテン系民族であるフランス人の言語であり、英語とともに世界で最も広く用いられる国際語の一つです。
中世から近代にかけて、フランスはヨーロッパにおいて文化・政治・外交の中心地としての地位を確立しており、その影響力からフランス語は国際的な場面での共通言語として重要視されてきました。
・植民地政策とフランス語の普及
フランス語は旧フランス植民地で広く使用されており、公用語または外交用語としての役割を果たしています。
主な地域は以下の通りです。
- アジア: インドシナ半島(ベトナム、ラオス、カンボジア)
- 北アメリカ: カナダのケベック州やニューブランズウィック州
- アフリカ: セネガル、コートジボワール、コンゴ民主共和国など
・国際語としての役割
フランス語は、英語に次いで多くの国際機関で公用語として使用されている言語です。
国際連合や国際オリンピック委員会がその具体例です。
⑤ロシア語
・歴史と文字の起源
ロシア語は、スラブ系民族であるロシア人が話す言語であり、国連の公用語の一つに採用されています。
その文字体系であるキリル文字は、9世紀にビザンツ帝国の宣教師であったキュリロスがギリシャ文字を基に作成されたグラゴール文字をもとに発展したものです。
東スラブ地域における正教会の普及とともに、ロシア語は広く使用されるようになりました。
・ロシア語の広がり
ロシア語はスラブ語派の中でも最大の話者数を誇り、特に旧ソビエト連邦の地域で広く使用されています。
ロシア連邦をはじめ、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンなど旧ソ連諸国で広く使われ、これらの地域の共通語的役割を果たしています。
・国際的な影響力
ロシア語は、冷戦時代の影響もあり、国際社会で重要な役割を果たしてきました。
以下はその具体例です。
①国連での地位
ロシア語は国連の公用語として、安全保障理事会や総会の議論で使用されています。
これは、ソビエト連邦が第二次世界大戦後の国際秩序の形成において重要な役割を果たしたことに起因しています。
②旧ソ連圏での使用
独立後の旧ソ連諸国でも、ロシア語は依然として教育やビジネス、外交で使用されています。
③文化的影響
ロシア語はトルストイやドストエフスキーなどの文学、クラシック音楽、バレエなどの芸術分野でも強い影響力を持っています。
公用語以外で国連の総会や安全保障理事会で用いられる言語
アラビア語
・アラビア語の広がり
アラビア語は、世界で使用人口第4位(約4億人)を誇る言語です。
もともとアラビア半島で発展した言語ですが、現在では北アフリカから西アジアに至るまで20カ国以上の国で公用語として使用されています。
・歴史的背景
①通商用語としての広がり
アラビア語は、古代から中世にかけて西アジアと北アフリカの交易圏で通商用語として用いられてきました。
イスラームの拡大に伴い、南ヨーロッパや南アジアにまでその影響が及びました。
②文化的影響
中世におけるイスラーム文化の発展とともに、アラビア語は科学や化学・数学などの学問分野において多くの言葉を生み出し、今日の世界に残る多くの用語に影響を与えています。
・国連での採用と背景
アラビア語は、1973年に国連での使用が認められました。
その背景には、第一次石油危機と資源ナショナリズムがあります。
1973年に発生した第一次石油危機では、産油国であるアラブ諸国が国際社会で圧倒的な影響力を持つようになりました。
この時期、アラブ諸国が結束して石油の供給制限を行って世界経済に大きな影響を与えたことで、アラブ諸国の存在を無視できなくなりました。
・宗教的影響
アラビア語はイスラーム教の聖典『クルアーン(コーラン)』の言語であり、世界中のイスラーム教徒にとって宗教的に重要な役割を果たしています。
このため、非アラブ圏のイスラーム教徒の間でも宗教用語として広く使われています。
国連で用いられる言語以外の主な言語
国連の公用語以外にも、幅広い地域において重要な役割を果たしている言語があります。
以下では、それらの言語について詳しく解説します。
①スワヒリ語
・スワヒリ語の広がり
アフリカ東部における地域共用語としての性格を持ち、共通語・商用語として広く用いられる。
スワヒリ文化圏を形成し、ケニアやタンザニアでは国語、ウガンダやルワンダでも公用語となっている。
【コラム】国語と公用語の違い
・国語:その国の文化や国民のアイデンティティを象徴する言語。日常会話で用いられる。
・公用語:行政、法律、教育などの公式な場面で使用することが法的に定められている言語。
・特徴
スワヒリ語は多くの民族が共通して使用する言語であるため、第1言語として話す人よりも第2言語として話す人が多い。
・歴史的背景
スワヒリ語の発展は、東アフリカと南アジアの間で行われた季節風貿易に大きく影響を受けた。
季節風を利用した帆船の往来による貿易が盛んで、交易を担っていたのはアラブのイスラム商人だった。
スワヒリ語はバントゥー諸語の一つであるが、アラブ系商人との交易のなかで語彙においてアラビア語の影響を強く受けている。
そのため、スワヒリ語はアフリカの言語でありながら、商業や文化の領域でアラビア語の語彙を多く含む。
②ヒンディー語
・特徴
ヒンディー語は世界で5番目に話者数が多い言語です。
インド憲法で定められた連邦公用語の一つですが、話者のほとんどがインド国内に限定されていて国際的な広がりには乏しいです。
・インド国内での状況
インドでは地域ごとに異なる言語が使用されており、ヒンディー語は全国的な共通語にはなっていません。
インド政府はヒンディー語を全国的に普及させる政策を進めていますが、南インドのタミル語圏などでそれに対する反発が大きくなっています。
③インドネシア語・マレー語
・兄弟語としての関係
インドネシア語とマレー語はマレー・ポリネシア語派に属し、文法や語彙が非常に似通っています。
そのため、「兄弟語」と呼ばれるほど類似しており、両言語の話者は基本的に相互に意思疎通が可能です。
・共通の歴史的背景
両言語の起源は古代マレー語にさかのぼります。
東南アジアでの貿易言語として発展し、アラビア語、オランダ語、ポルトガル語などの外来語の影響を受けています。
・インドネシア語
インドネシア語は、インドネシア全土で公用語として使用されています。
インドネシアは700以上の民族・言語が存在する多民族国家であるため、国民統合のための共通語として採用されました。
・マレー語
マレー語は、マレー半島やその周辺地域で広く話されています。
特に、マレーシア、シンガポール、ブルネイで国語や公用語として使用されています。
④ドイツ語
・ドイツ語の広がり
ドイツ語は、ヨーロッパの以下の地域で話されています。
- ドイツ
- オーストリア
- スイス(ドイツ語圏は国民の約6割以上)
- フランスのアルザス・ロレーヌ地方
- イタリアの南チロル地方
その他、ベルギーやルクセンブルクの一部地域でも使用されています。
・国際的な地位
ドイツ語は、ヨーロッパ連合(EU)内で話者数が最も多い言語です。
したがって欧州でのビジネスや科学技術、教育、文化分野で重要な役割を果たしています。
・文化的・学術的意義
①文学・哲学
ドイツ語はゲーテやカフカといった文学作品の原語であると同時に、カントやニーチェといった哲学者の著作にも使用されてきました。
②科学・医学分野
日本を含む多くの国々で、19世紀から20世紀前半にかけて、ドイツ語は医学や化学、物理学といった科学分野での主要言語として使用されてきました。
日本の医学用語には現在でもドイツ語由来のものが多く残っています。
⑤ポルトガル語
・ポルトガル語の広がり
ポルトガルをはじめ、旧ポルトガル植民地であるブラジルやアンゴラ、モザンビークなどで広く使用されています。
話者人口の約80%はブラジル人です。
⑥イタリア語
・起源と歴史
古代ローマの言葉であるラテン語から派生した言語の一つで、現存する言語の中でラテン語に最も近い言語とされます。
・使用地域
主にイタリア国内で使用されますが、その他にも以下の地域で話されます。
- スイス南部(ルガーノ地方): スイスの公用語の一つ。
- フランス領コルシカ島: 歴史的にイタリア語の影響を受けた地域
- バルカン半島のアドリア海沿岸: 特にクロアチアやモンテネグロ沿岸部など
・文化的影響力
イタリアルネサンス時代の美術や建築、文学作品を通じて文化的な影響力が拡大しました。
特にオペラやクラシック音楽において、イタリア語は国際的な標準言語です。
例えばソプラノ、アルト、テノールといった音楽用語はイタリア語由来です。
講義まとめ
国連の公用語:英語、中国語、スペイン語、ロシア語、フランス語
※1973年以降はアラビア語も用いられる。
言語別の話者人口ランキング
順位 | 言語 | 話者人口 |
---|---|---|
1位 | 中国語 | 約13億人 |
2位 | スペイン語 | 約5億人 |
3位 | 英語 | 約4億人 |
4位 | アラビア語 | 約4億人 |
5位 | ヒンディー語 | 約3.5億人 |
6位 | ポルトガル語 | 約2.5億人 |
解答
アー中国語、イーアラビア語、ウースワヒリ語