2020年の東京大学地理 第3問B(3)では、1990年代初め以降に生じた東京圏内部における人口分布の空間構造の変化について2行で説明する問題が出題されました。
本問は、東京の都市構造の変化を示す「ドーナツ化現象」と「都心回帰」という2つの重要な都市問題に関連しています。
これらの現象は、経済状況の変化や都市政策の影響を受けて生じたものです。
本記事では、東京都特別区部の転入超過人口の推移をもとにしてその変化の背景と要因を詳しく解説します。
資料の読み取り:東京都特別区部の転入超過人口の推移
図3-2は、三大都市圏と東京都特別区部の転入超過人口の推移を示した折れ線グラフです。
このグラフから、東京都特別区部の転入超過人口の動向には以下のような大きな変化が見られます。
1960年代中頃~1990年代中頃の動向
この時期、東京都特別区部の転入超過人口はマイナスとなり転出超過の状態が続きました。
つまり、東京都心部からの人口流出が進んで特別区部の人口が減少していたことを示しています。
1990年代中頃以降の動向
1990年代中頃を境に東京都特別区部の転入超過人口はプラスへと転じ、転入超過の状態に変化しました。
これにより特別区部では人口が増加し、都心回帰の傾向が見られるようになりました。
講義:東京都特別区部の人口動態の変化
1960年代中頃~1990年代中頃の東京都特別区部の人口動態
1960年代中頃から1990年代中頃にかけて東京都特別区部ではドーナツ化現象が進行し、人口の流出が顕著になりました。
ドーナツ化現象とは、大都市の中心部において地価の上昇や生活環境の悪化などの要因により住民が郊外へと転出し、都心部の人口が減少する現象を指します。
この時期、東京都心では住宅価格の高騰や商業・業務機能の集中による居住環境の悪化が進み、多くの住民が埼玉・千葉・神奈川などの周辺地域へと移動しました。
その結果、東京都特別区部では転出超過の状態が続き、人口が減少しました。
このような都心部の空洞化は都市構造の変化だけでなく、モータリゼーションの進展や鉄道網の拡充とも関連しています。
郊外には大規模な住宅団地やニュータウンが次々と開発され、都心に通勤する労働者層を中心に郊外への移動が加速しました。
このようにして、1960年代中頃から1990年代中頃までの東京都特別区部では周辺地域への人口流出が継続し、転出超過の状態が続いたのです。
1990年代中頃以降の東京都特別区部の人口動態
1990年代中頃以降、東京都特別区部では転入超過の状態へと転じ、人口が増加しました。
この背景には、規制緩和とバブル崩壊後の地価の大幅な下落があります。
バブル崩壊により都心部の地価が大きく下落したことで、それまで高騰していた住宅価格が下がって都心部での居住が現実的な選択肢となりました。
この地価下落を受けて都市再開発が進行し、高層マンションの建設などにより住宅供給が増加しました。
これによりマンション一戸あたりの販売価格が下がったことで比較的高所得の若年層を中心に都心回帰の動きが加速しました。
都心部には公共交通機関の利便性、商業施設の充実、医療機関の整備などの生活環境が整っているため、特に単身世帯や共働き世帯にとって魅力的な居住地となりました。
こうした要因が相まって東京都特別区部では人口の流入が増加し、転入超過の状態が続くようになりました。
この変化は都心回帰現象と呼ばれ、現在の東京一極集中を理解する上で重要なポイントとなっています。
解答例
ドーナツ化現象で特別区部の人口減少が続いたがバブル崩壊での地下下落で都心再開発が進み住宅供給が増加して人口が増加した。(59文字)