2020年の東京大学地理 第3問A(1)では、ドイツの主な国際河川・都市・工業地域の場所を問う問題が出題されました。
この問題では、ドイツの地理的特徴を踏まえ、それぞれの地域がどのような産業や都市構造を持つのかを理解することが求められます。
本記事では、
- ドイツの主要な国際河川(ライン川・ドナウ川・エルベ川)
- ドイツの経済・産業の中心となる都市
- ドイツの主要な工業地域(ルール工業地域)
について詳しく解説し、それらの地域がどのような役割を果たしているのかを整理していきます。
講義:ドイツの主な国際河川・都市・工業地域の解説
ドイツの主な国際河川
ライン川
ライン川はスイスのアルプス山脈に源を発し、ドイツ・フランス国境沿いを流れた後ドイツ国内を縦断し、オランダを経て北海にそそぐ国際河川です。
その全長は約1,233kmに及び、ヨーロッパで最も重要な水運ルートの一つとなっています。
この河川の流域には石炭や鉄鉱石の産地が広がり、19世紀以降に工業化とともに重化学工業地域が発展しました。
特にルール地方ではライン川の水運を利用して鉄鉱石や石炭が運ばれ、製鉄業や化学工業が集積しました。
この地域はかつてヨーロッパ最大級の工業地帯として知られ、現在でもドイツの重要な工業地域の一つです。
また、ライン川沿いには河港都市が発達し、貨物輸送の拠点となっています。
ロッテルダム港(オランダ)と結ばれることでドイツの工業製品や資源の輸出入にも大きく貢献しており、まさにヨーロッパの水上交通の大動脈として機能しています。
ドナウ川
ドナウ川はドイツ南部のシュヴァルツヴァルト(黒い森)に源を発し、オーストリア・ハンガリー・セルビア・ルーマニアなど10か国を流れるヨーロッパ最長の国際河川で、最終的に黒海にそそぎます。
全長は約2,850kmに及び、ライン川と並ぶヨーロッパの水上交通の大動脈となっています。
この河川の流域は肥沃な土壌に恵まれ、古くから農業が盛んな地域として発展してきました。
特に、小麦やトウモロコシなどの穀物生産が活発で、農産物の輸送路としての役割も果たしています。
また、ドナウ川沿いにはウィーン(オーストリア)、ブダペスト(ハンガリー)、ベオグラード(セルビア)などの歴史的な大都市が発展し、ヨーロッパの経済・文化の重要な拠点となっています。
エルベ川
エルベ川はチェコのボヘミア盆地に源を発し、ドイツを貫流して北海へとそそぐ国際河川です。
上流域は旧東ドイツ地域に属し、全長は約1,094kmに及びます。
エルベ川はドイツ東部を流れる主要な河川の一つであり、歴史的にも重要な交通路として利用されてきました。
この川の下流部にはドイツ最大の港湾都市であるハンブルクが位置し、エルベ川の水運を活かして発展しました。
ハンブルクは外洋航行船が遡行可能な地点にあり、国際貿易の拠点として機能しています。
ドイツの主な都市
ベルリン
ベルリンはドイツの首都であり、政治・文化の中心地としての役割を担う都市です。
第二次世界大戦後に東西冷戦の象徴となったベルリンの壁によって東西に分断されていましたが、1990年のドイツ再統一を経て再び統一ドイツの首都となりました。
現在ではドイツ政府の主要機関が集まり、国際政治の舞台としても重要な都市となっています。
フランクフルト
フランクフルトはドイツ中西部に位置する国際都市であり、経済・金融の中心地として発展しています。
この都市には欧州中央銀行(ECB)の本部が置かれており、EUの金融政策の中枢を担うヨーロッパ屈指の国際金融センターとなっています。
また、ドイツ最大の証券取引所であるフランクフルト証券取引所も立地し、多くの国際金融機関が集積しています。
交通面でもフランクフルトはヨーロッパ有数の交通の要衝であり、鉄道や高速道路の結節点となっています。
特にフランクフルト空港はヨーロッパ最大級のハブ空港であり、世界各国と結ばれた重要な航空拠点です。
ハブ空港とは、幹線航空路の中心として機能し、乗り継ぎ便を活用することで航空ネットワークの効率を高める空港を指します。
フランクフルト空港は特に欧州域内および国際線の乗り継ぎ拠点としての役割が強く、多くのビジネス客や観光客が利用しています。
ハンブルク
ハンブルクはドイツ北部にある港湾・工業都市で、エルベ川沿いに位置しています。
ドイツ最大の貿易港を有する都市として発展してきました。
エルベ川の水運を活かした物流拠点として古くからヨーロッパの海上貿易の要所となっており、現在もコンテナ取扱量はドイツ国内で最大規模を誇ります。
工業面では、特に港湾を活かした造船や海運関連産業が盛んです。
また、石油化学工業も発展しており、石油精製や化学製品の生産が行われています。
近年では従来の重工業中心の産業構造からの転換が進められ、航空機産業やバイオ産業などの先端技術分野が誘致されています。
特に、エアバス社の大規模な工場が立地しており航空機製造の重要な拠点となっています。
ミュンヘン
ミュンヘンはドイツ南東部にあるバイエルン州の州都であり、交通の要衝、工業・経済の中心地として発展してきました。
古くからアルプス地方とドイツ北部を結ぶ交易路の要所として機能し、現在も鉄道・高速道路・航空交通の結節点となっています。
工業面では、自動車産業や精密機械工業が発達しています。
また、エレクトロニクス産業やハイテク産業が発展し、世界的なIT企業や研究機関が集積しています。
さらに、ミュンヘンは伝統的なビール醸造の中心地としても知られています。
ドイツの主な工業地域
ルール地方
ルール地方はドイツ北西部に位置する工業地域で、ルール炭田の開発を背景に発展したヨーロッパ最大級の重化学工業地帯です。
この地域は19世紀の産業革命以降に豊富な石炭資源を活用した製鉄・化学工業を中心に発展し、ドイツ経済の中核を担ってきました。
ルール地方の工業発展には、鉄鉱石や原油などの資源供給と輸送インフラが大きな役割を果たしました。
鉄鉱石はライン川の水運を利用して輸入され、原油はロッテルダム港からパイプラインを通じて供給されました。
また、チューリンゲン州からのカリ岩塩も化学工業に活用されました。
さらに、ライン川や運河による内陸水運が発達し、資源の輸送や工業製品の出荷を効率的に行うことができました。
ルール地方にはエッセン、ドルトムント、デュースブルクなどの工業都市が連なり、都市同士が連結することでコナーベーション(都市連接地域)を形成しています。
しかし、20世紀後半になると石炭産業の衰退や産業構造の変化により、一時的に経済が停滞しました。
これを受けて1980年代以降、ルール地方では機械工業・化学工業・ハイテク産業への転換が進み、新たな産業基盤が構築されました。
また、都市の再開発が進められ、商業施設や文化施設の整備が進んだことで、地域経済の多角化が図られています。
地図

解答
アー5、イー16、ウー6