2020年の東大地理第1問A(4)では、北海道の石狩平野と十勝平野で卓越する地形の名称とその地形を活かした農業形態の特徴を説明する問題が出題されました。
本記事では、石狩平野と十勝平野の地形的な特性とそれに基づく農業の特徴について詳しく解説します。
地形が農業形態にどのような影響を与えるのかを理解することで、地理的視点を深めることを目指します。
講義:石狩平野と十勝平野の地形と農業形態
石狩平野の地形的特徴と農業形態
地形的特徴
石狩平野は、石狩川の堆積作用によって形成された沖積平野です。
河川沿いの平坦な地形が特徴で、特に石狩川の蛇行によって広がった後背湿地が広範囲に見られます。
この地形は水利に恵まれた環境を提供しており、農業が盛んに行われています。
農業形態
石狩平野では、水利の良さを活かして水田稲作が主に行われています。
しかし、この地域には泥炭層が堆積しており、土壌が農耕に適していないという課題がありました。
泥炭層とは、寒冷地で植物の分解が不完全なまま炭化した状態で堆積した土壌のことで、水田農業には不向きです。この問題を克服するために、以下のような取り組みが行われました。
- 客土の実施:遠くの山間地域から肥沃な腐植土を運び、泥炭層を覆うことで土壌改良を進めました。
- 耐寒品種の開発:寒冷な気候に適応する稲の品種改良が行われました。
- 用水路建設・治水事業:灌漑設備や治水事業を推進することで、安定的な水田稲作を可能にしました。
これらの努力により石狩平野は寒冷な北海道において日本有数の稲作地帯となり、都道府県別でも全国トップクラスの米生産量を誇る地域へと成長しました。
十勝平野の地形的特徴と農業形態
地形的特徴
十勝平野は「平野」という名称がついていますが、実際にはある程度高原状になっており火山灰が堆積した台地が広がっています。
この火山灰質の台地は、西部の火山地帯(火山前線付近)からの火山灰が降り積もった結果形成されました。
火山灰土壌は排水性が非常に良好で、水はけが良いという特徴を持っています。
農業形態
この地形や土壌の特徴を活かし、十勝平野では以下のような農業形態が発展しています。
畑作農業
排水性の良い火山灰土壌は畑作に適しており、小麦、じゃがいも、大豆、てんさい(ビート)、とうもろこし、あずきなどの作物が栽培されています。
これらの作物は、輪作(同じ土地で異なる種類の作物を一定期間ごとに交代で栽培する方法)によって生産されています。
輪作は土壌の栄養バランスを保ち、収穫量を安定させるための重要な技術です。
酪農
十勝平野では、広大な土地と恵まれた自然環境を活かした大規模な酪農が営まれています。
冷涼な気候は乳牛の健康管理に適しており、北海道の他の地域と同様に乳製品の生産に有利な条件を提供しています。
農業形態以外の特徴
大規模農業
十勝平野の農業は、日本国内でも際立った大規模農業が特徴です。
その背景には、広大な土地と効率的な農業経営を可能にする自然条件が存在します。
十勝平野の農家1戸あたりの平均経営規模は約30ヘクタールと、全国平均の20倍以上に達しています。
この広大な経営面積により、労働生産性が高められています。
広い農地では大型の農業機械を効率的に活用できるため、耕作や収穫の省力化が進んでいます。
例えば、大型トラクターやコンバインを用いることで畑作や牧草地の管理が効率化され、農業の規模が拡大しています。
防風林
十勝平野における畑作や酪農の発展を支える重要な要素として防風林が挙げられます。
この防風林は、一列に並んだ木々からなり、農業経営の基盤を支える役割を果たしています。
十勝平野は広大な台地状の地形をしており、山から吹き下ろす強風が農作物に大きな影響を与える可能性があります。
これを防ぐため、防風林が設けられています。
防風林が風を遮ることで、作物への直接的な被害や、土壌の飛散を防ぎ、安定した農業経営を可能にしています。
現在の防風林は、開拓時代から存在した自然林や樹木を活用して整備されたものです。
これらの防風林は、十勝平野の厳しい自然環境に適応した開拓者たちの知恵の産物ともいえます。
解答例
cは河川沿いの沖積平野で水利に恵まれるため稲作が盛んである。dは火山灰質の台地で大規模な畑作や酪農が盛んである。(56文字)