「マキァヴェリが『君主論』で述べた主張を知りたい」
「マキァヴェリが近代政治学の祖と呼ばれる理由を知りたい」
「ルネサンスに関連する人物は芸術家が多いのに、なぜ政治家・思想家であるマキァヴェリが重要人物の1人とされているのだろうか」
東大は、世界史2022第2問・問2(b)でマキァヴェリが『君主論』で述べた主張を2行(≒60字)以内で説明させる問題を出題しました。
この記事では、以下のことを説明します。
- マキァヴェリが『君主論』で述べた主張
- マキァヴェリが述べた主張の背景
- マキァヴェリがルネサンスの重要人物の1人とされる理由
マキァヴェリについてだけでなく、イタリア戦争やルネサンスについてもわかりやすく解説していますので是非最後までお読みください。
講義
マキァヴェリ
マキァヴェリは、16世紀前半のフィレンツェで活躍した政治家・思想家です。
著書『君主論』でイタリア統一を実現するために政治と宗教的・道徳的理想を切り離すことの必要性を主張したため「近代政治学の祖」とされています。
これに由来して、現代でも「目的のためには手段を選ばない人」のことをマキャベリストと呼ぶことがあります。
マキャベリストには権謀術数主義者という別名があります。
権謀術数とは、人を欺く策略のことです。
目的のためには手段を選ばない人は他人を欺くことを厭わないのでこの名がついたようです。
イタリア戦争(15世紀末~16世紀中頃)
イタリア戦争とは、15世紀末から16世紀中頃に発生したフランスと神聖ローマ帝国によるイタリアの覇権争いです。
当時のフランスはヴァロワ朝、神聖ローマ帝国の皇帝はハプスブルク家の人間が続いていましたので、
「ヴァロワ家とハプスブルク家の勢力争い」という構図でもあります。
マキァヴェリはこのような分裂状態のイタリアに周辺の中央集権国家が介入する状況を憂い、対抗の必要性を主張しました。
開戦(15世紀末)
フランスのシャルル8世がナポリ王国の王位継承権を主張してイタリアに侵入し、神聖ローマ帝国がこれに対抗してイタリア戦争が開戦しました。
激化(16世紀前半)
フランス・フランソワ1世、神聖ローマ帝国・カール5世のときにイタリア戦争が激化します。
終結(16世紀中頃)
フランスと神聖ローマ帝国ともに君主の代替わりがあったこととどちらも戦費の調達に窮したことを背景に、講和条約が締結されます。
カトー=カンブレジ条約です。
- フランスはイタリア進出を断念
- ハプスブルク家はミラノ、ナポリ、シチリアを領有
という結果でイタリア戦争が終結します。
ルネサンス(14世紀~16世紀)
ルネサンスは、14世紀のイタリアではじまりその後西欧各地に広がった文化運動です。
ルネサンスの精神の基本はヒューマニズム(人文主義)です。
ヒューマニズムは、キリスト教が学問・思想・生活等を抑圧する中世ヨーロッパの価値観を批判し人間の理性や意志の力を尊ぶ思想です。
神ではなく人間が中心である、ということで「人間中心主義」とも呼ばれます。
このように、政治や文化や生活への宗教の影響力を低下させることを世俗化といいます。
ルネサンスでは、キリスト教が西欧で広まる以前に栄えたギリシア・ローマ文化を模範としました。
マキァヴェリの政治を宗教から切り離す思想はヒューマニズムを体現したものであるといえます。
中世から近代への過渡期
中世から近代にかけて、西欧社会の様々なことが変化します。
マキァヴェリが『君主論』で行った主張には、それらのうち政治面と文化面でみられた大きな変化が表れています。
①政治面
中世の西欧では地方において荘園を所有する領主の権力が強く、国王に対して不輸不入権を認められていました。
このような国家のありかたを「地方分権的」といいます。
それに対して、近代の西欧では王権が伸長して強大な中央集権国家が次々と誕生しました。
マキァヴェリが活動した16世紀前半の西欧では、イギリスやフランスが強力な王権のもとで中央集権化に成功する一方で、イタリアではヴェネツィア・ミラノ・フィレンツェ・ローマの教皇領・シチリアなど小国の分裂状態が続いていました。
そこで、マキァヴェリはイタリアでも強力な君主による統一と中央集権国家の建設が必要であると主張しました。
②文化面
中世の西欧ではキリスト教の教義が人々の生活、政治、文化、学問のありかたを決めていました。
キリスト教の教えに反する行動をすると教会により罰せられることもありました。
これに対して、近代の西欧では人間が理性に基づいて判断や行動をすることが許されました。
したがって、国家や個々人がそれぞれの利益や理想を追求することが可能となりました。
マキァヴェリが主張した、政治をキリスト教的道徳と切り離して権謀術数を用いるべきだという思想は西欧が「中世」から脱却し「近代」に向かっていることを示す内容となっています。
答案作成
字数を気にせず書いてみる
周辺国によるイタリアの覇権争いを終わらせるために、権謀術数を用いる強力な君主によるイタリア統一の必要性を主張した。
57字です。
2行問題なので、ちょうどいいですね。
このまま解答例にしましょう。
解答例・まとめ
今回の解答例は
周辺国によるイタリアの覇権争いを終わらせるために、権謀術数を用いる強力な君主によるイタリア統一の必要性を主張した。
とします。
東大世界史2022世界史解説記事リンク一覧
・第1問 https://ronjyutu-taisaku.com/todai-w-2022-1
・第2問問1(a)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-w-2022-2-1-a/
・第2問問1(c)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-w-2022-2-1-c/
・第2問問2(a)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-w-2022-2-2-a/
・第2問問2(b)この記事です。
・第2問問3(b)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-w-2022-2-3-b/