「南北問題とは何か知りたい」
「南北問題の歴史的な背景を具体的に書けと言われると何を書いたらいいか分からず困りそう」
「国連貿易開発会議の存在は知っているが取り組みの内容を書くことは出来なさそう」
東京大学は2024年度入試において、世界史第1問の問2で
南北問題の歴史的背景とその解決のために1960年代に国際連合がおこなった取り組みについて5行(≒150字前後)で記述させる問題を出題しました。
南北問題の歴史的背景について、一言でいえば「欧米列強による植民地支配」だというのはわかりやすいと思うのですが、論述問題で説明せよと言われると何を書いたらいいのか悩んでしまいますよね。
そこでこの記事では、
- 南北問題とはなにか
- 南北問題の歴史的背景
- 南北問題解決のために1960年代の国際連合がおこなった取り組み
について解説していきます。
南北問題の歴史的背景に関する疑問はこの記事で解決します。ぜひご覧ください。
構想
論述問題において「何を書くべきか」は問題文が決めます。
今回も、それを読み取る過程から一緒に考えていきましょう。
読み取りに関する解説が不要な人は「構想」をとばして「講義」に進んでください。
問2の設問文
問2の設問文のうち、ポイントとなるのは以下の点です。
演説で述べられている経済的な問題
この箇所から、「与えられている演説は『経済的な問題』に触れている」ということがわかります。
そして、それがこの問題(東大2024大問1問2)のメインテーマです。
では、この「経済的な問題」とは何を指すのか。
それは後ほど演説の内容を解説する際にお伝えします。
歴史的背景
世界史の論述問題で「歴史的背景」を問われたら、「世界史で学んだ知識を生かして原因を答える」問題だと考えてください。
今回で言えば、「この経済的問題はなぜ生じたのか?」「この経済的問題が生じた理由を書きなさい」と問われているということです。
1960年代に国際連合が取り組んだこと
演説で述べられている経済的な問題を解決することを目的として、1960年代に国際連合が取り組んだことが問われています。
国際連合の取り組みといえば、政治的な問題(紛争や戦乱)であればPKOや国連軍の派遣が思いつきます。
今回は経済的な問題なので何らかの機関を設立するか国際会議などの会合を開いて取り組みを宣言するかだと考えられます。
ということで、1960年代に国連が設立した機関はなにか考えてみましょう。
今回は、国連貿易開発会議(UNCTAD)の設立が当てはまります。
これについて説明すればいいとわかります。
資料(ウ・タントの演説)
今回の問題では、国際連合のウ・タント事務総長がおこなった演説の一部が資料として与えられています。
これをヒントとしてフル活用できるよう、読解していきましょう。
第1段落
「重要」という言葉がキーワードです。
世界史に限らず、英語長文や現代文の評論文でも「重要」という言葉が文章内に出てきた際は特段の注力が必要です。
この演説では何が重要かというと
①政治的な変化
②経済的な変化
この2つです。
設問から、今回は経済的な問題についての問題だとわかっていますので②経済的な変化について注目してこの後の文章を読めばいいということがわかります。
第2段落
この段落には「政治的解放」と書かれているとおり政治的な変化が主題となっています。
アジア・アフリカ・ラテンアメリカ諸国の政治的解放=植民地・半植民地からの脱却≒独立について述べられています。
第3段落
この段落を読解するうえで最も重要なパーツは5行目の「…に比べて」という箇所です。
なぜならば、これは対比構造があることを示しているからです。
対比構造は、論理構造のなかでも重要なものの1つです。
対比構造を見かけたら、「何と何を比べているのか」を考えることが大事です。
今回は、
「工業化された社会」(欧米の資本主義社会)⇔「アジア・アフリカ・ラテンアメリカの低開発社会」
という対比がなされています。
第2段落から、今回の演説の主役は欧米ではなくアジア・アフリカ・ラテンアメリカ側であると判断できます。
また、演説のなかで「発展していない」「十分な速さでは発展していません」「深刻かつ持続的な低開発の状態」「遅れ」「生活水準が絶対的に悪化している場合もあります」「期待どおりの経済的な進歩が生じるわけではない」と、再三にわたり発展途上国の経済成長が十分ではないことに言及しています。
そこで、この問題で問われている「経済的な問題」とは
先進国と発展途上国との経済格差の存在および拡大
であると考えられます。
一言でいうと「南北問題」ですね。
構想のまとめ
以上から、今回の問題では
- 南北問題について
- その歴史的背景
- 解決のため1960年代に国際連合が取り組んだこと
を150字前後で書けばいいということになります。
講義
何を書けばいいのかがわかりましたので、それについて解説します。
南北問題とは
まずは「南北問題とはなにか」について解説します。
南北問題とは、一言でいえば発展途上国と先進国との経済格差です。
先進国が北半球に多く、発展途上国が南半球に多いためこの名前がついています。
直接的な背景は、以下のような不均衡な貿易構造が固定化されていることです。
先進国(西欧やアメリカ等):工業製品を輸出する
発展途上国:一次産品を輸出する
一次産品とは、自然の中で収穫や採掘されたもので未加工な状態のものを指します。
例えば小麦、綿花、砂糖、カカオ、原油、鉄鉱石が該当します。
一次産品は市場価格の変動、異常気象や災害の発生による影響を受けやすいです。
したがって、特定の一次産品に依存した経済は不安定とされます。
先進国は発展途上国から購入した一次産品を用いて工業製品を生産します。
それは一次産品よりも高い値段で取引されます。
したがって、発展途上国が先進国から工業製品を輸入した場合は「一次産品を売って得たお金よりも工業製品を買って支出したお金のほうが金額が大きい」状態、つまり赤字となります。
赤字になるということは国単位での貯金ができないということなので自分たちの国が豊かになるような工場の建設や橋・道路の建設に費やすお金がないということになってしまいます。
こうした状態が継続していることを一言でいうと、「不均衡な貿易構造が固定化されている」となります。
では、南北問題が生じた歴史的背景について見ていきましょう。
世界の一体化
15世紀後半、大航海時代が始まります。
この時代に、「世界の一体化」と呼ばれる状況が成立します。
「世界の一体化」とは、地域の垣根を超えた貿易が盛んになり、地域どうしが商業活動を通して結びつきを強めていった状況を指します。
例えば、この頃農場領主制で発展したプロイセンは西欧向けの輸出用穀物の栽培に注力します。
また、南米にあるポトシ銀山から大量の銀がヨーロッパに輸送されます。
(この時点でヨーロッパの人々は南米の銀山から銀を「奪って」いるわけですから、ヨーロッパをはじめとする先進国の繁栄は発展途上国の犠牲のもとで成り立っていることがわかりますね。)
近代世界システム
西欧主導で「世界の一体化」が進むと、17世紀以降プランテーションが南北アメリカやアフリカで展開されます。
プランテーションとは商品作物栽培を行う大農園のことです。
ここでは、サトウキビ・タバコ・綿花などが栽培され西欧に輸出されました。
サトウキビは甘いデザートを楽しむため、タバコは吸って気持ちよくなるため(みなさんは真似しないでね!)、綿花は衣服の材料とするためなどに用いられました。
サトウキビやタバコはなくても生きていけるもの、つまり贅沢品です。
プランテーションの人々は西欧の人々が贅沢な暮らしをするために働かされていたわけです。
鉱山や南北アメリカのプランテーションで働く先住民が不足した場合、西欧はどのように対応していたのでしょうか。
黒人奴隷貿易です。
黒人奴隷貿易とは三角貿易の一種で、
- アフリカ⇒南北アメリカ:奴隷を「輸出」
- 南北アメリカ⇒ヨーロッパ:鉱産資源や農産物を輸出
- ヨーロッパ⇒アフリカ:雑貨や武器を輸出
という取引です。
多くの働き盛りの青年を失ったアフリカは極めて大きな社会的被害を受けました。
このようにして、西欧に大きな利益をもたらすかたちで近代的な国際分業システム、すなわち近代世界システムが誕生します。
第一次産業革命
18世紀後半にイギリスで第一次産業革命がおき、蒸気の力で動かした機械による商品の大量生産が可能になると工業が発展します。
製品を大量に生産するということは、それを販売しなければいけない量も増えるということです。
つまり、自国内での流通に加えて海外向けの販路を確保し輸出を増やさなければなりません。
こうした背景で、第一次産業革命後に「世界のさらなる一体化」が進みます。
ここまで、「世界の一体化」が意味するところを見てきましたから、「世界のさらなる一体化」というのは欧米にとっては喜ばしいことであっても南米やアフリカにとってはたまったもんじゃないということがわかりますね。
第二次産業革命と帝国主義
19世紀後半に第二次産業革命がドイツ・アメリカを中心に始まると「世界の一体化」はさらに加速します。
第二次産業革命により電力や石油が動力源になると水の蒸気には頼りませんので川の近くなど水が大量に手に入らないところでも工場の建設が可能になります。
また、水車ではなく金属製の内燃機関で機械を動かすので鉄鋼・造船などの重化学工業が可能となります。
よって、欧米で
石油などの資源が必要⇒アジア・アフリカに植民地が必要⇒侵略のための武器が必要⇒重化学工業を発展させる必要がある⇒そのためには石油が必要⇒…
という、アジア・アフリカの国々にとっては迷惑極まりないスパイラルが完成します。
こうして、欧米各国は帝国主義を掲げ、植民地獲得に乗り出します。
欧米にとって植民地は
原料や資源の供給地
自国製品の市場(=販売先)
という意味合いを持っていました。
こうした国際分業体制のなかで、多くの非ヨーロッパ地域はモノカルチャーとなります。
モノカルチャーとは、単一の作物だけを栽培する農業や特定の農産物や鉱産資源の生産と輸出に依存する経済構造を指します。
先ほど学んだとおり、特定の一次産品に依存した経済は不安定です。
この時期に形成されたモノカルチャーは、現在でも発展途上国経済における諸問題の原因となっています。
戦後世界秩序の形成
先進工業国による植民地獲得合戦は第一次・第二次世界大戦という悲劇をもたらします。
その後、反省をふまえて帝国主義からの脱却が目指されて多くの植民地が独立を果たします。
しかしながら、経済の面では改善が進まなかったといえます。
なぜならば、
国際的な自由貿易体制
が成立したからです。
自由に貿易をしていい、となるとこれまで工業を発展させてきた先進国が圧倒的に有利です。
言い換えれば、新たに独立した発展途上国にとっては不利な条件での貿易といえます。
この状況を表現すると、
- 先進国に有利な自由貿易体制が成立した
- 途上国には従属的な経済構造が残った
- 途上国はモノカルチャーから脱却できなかった
- 途上国は工業化が進まなかった
となります。
こうして、独立を達成しても発展途上国の経済は発展せず人々の暮らしは豊かになりませんでした。
国連貿易開発会議の設置
こうした事態をうけて、国際連合が動きます。
南北問題の解決のために1964年に国連貿易開発会議を設立します。
具体的な活動内容は、
- 先進国に貿易条件の改善を求めた
- 先進国に、途上国への開発援助を求めた
つまり、一次産品の価格安定化や向上、そして工業化のための投資を求めたということです。
これは一定の成果をあげ、一部の途上国は工業化に成功します。
すると今度は、工業化に成功したまたは豊富な石油資源を有する途上国とそうでない途上国との格差が拡大していきます。これを南南格差といいます。
わたしたちは、これの解決に向き合っていかなければいけません。
講義のまとめ
ここまでの内容を整理するために、大まかな流れをまとめておきます。
答案作成
字数を気にせず書いてみる
発展途上国と先進国との経済格差を指す南北問題は、不均衡な貿易構造の固定化によって生じている。先進国が工業製品を輸出し、途上国が一次産品を輸出するこの構造は大航海時代以来の世界の一体化や二度にわたる産業革命などで強化されてきた。植民地となり先進国の原料や資源の供給地や製品の市場となった地域の多くはモノカルチャーとなり経済の安定性を失った。第二次世界大戦後、多くの植民地が独立を達成するも先進国に有利な自由貿易体制が成立し多くの途上国はモノカルチャーから脱却できず工業化が進まなかった。こうした事態をうけて1960年代に国際連合は国連貿易開発会議を設立して先進国へ貿易条件の改善や途上国への開発援助を求めた。
303字です。
いくらなんでも気にしなさすぎました。
ここから半分削ります。
字数調整
発展途上国と先進国との経済格差を指す南北問題が生じた背景は、不均衡な貿易構造の固定化によって生じている。先進国が工業製品を輸出し、途上国が一次産品を輸出するこの構造は大航海時代以来の世界の一体化や二度にわたる産業革命などで強化されてきた。植民地となり先進国の原料や・資源の供給地や製品の市場となった地域の多くがモノカルチャーとなって経済の安定性を失ったことだ。第二次世界大戦後、多くの植民地が独立を達成するも先進国に有利な自由貿易体制が成立し多くの途上国はモノカルチャーから脱却できずで工業化が進まなかった。こうした事態をうけて1960年代に国際連合は国連貿易開発会議を設立して先進国へ貿易条件の改善や途上国への開発援助を求めた。
150字です。
泣く泣く削った箇所がいくつかありますが、これにより端的な記述になったのではないでしょうか。
解答例/この記事のまとめ
今回の解答例は次のようになります。
南北問題が生じた背景は、途上国が先進国の原料・資源の供給地やモノカルチャーとなって経済の安定性を失ったことだ。第二次世界大戦後、先進国に有利な自由貿易体制が成立し多くの途上国は工業化が進まなかった。1960年代に国際連合は国連貿易開発会議を設立して先進国へ貿易条件の改善や途上国への開発援助を求めた。
以上で今回の解説を終わります。
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