「1960年代のアジア・アフリカでおきた戦乱が何か知りたい」
「各戦乱の背景や意義を把握しておきたい」
「それらを12行以内で論述する思考プロセスを知りたい」
東京大学は2024年度入試において、世界史第1問の問1で
1960年代のアジア・アフリカにおいて発生した独立を得るための戦乱、独立した国どうしの対立について12行(≒360文字)以内で記述させる問題を出題しました。
2024年の第1問は、苦手とする受験生が多い現代史からの出題でした。
現代は独立国の数が多くなり、国ごとに知識を整理していくのが大変です。
また、国ごとに元首の名前と主な業績や出来事を覚えるだけになってしまいやすいため記憶が定着しづらいです。
この記事では、以下の内容について解説します。
- 1960年代にアジア・アフリカで発生した戦乱や対立の名称
- それぞれの戦乱・対立の背景・経過・結末
- 2024東大世界史大問1・問1の解答例の作成プロセス
現代史に苦手意識がある受験生に向けて、基本から丁寧に解説していくので是非最後までご覧ください!
構想
東大世界史の第1問は大論述で文字数が多いため、「何を書くか」についての構想をきちんと考える必要があります。
以下、各ヒントごとに構想を考えていきましょう。
問1の設問文
設問文からは
- 1960年代のアジアとアフリカについて書く
- 独立を得る過程で起きた戦乱
- 独立した国どうしの対立
について書けばよいことがわかります。
この情報だけだと「書くべき国」「1960年代に起きた戦乱・対立」をピックアップするのが大変ですね。
そこで、指定語句をフル活用していきましょう。
指定語句
今回の指定語句は以下の4つです。
- アルジェリア
- コンゴ
- パキスタン
- 南ベトナム解放民族戦線
すべての指定語句が国名または国名を含みますね。
よって、
①アルジェリア②コンゴ③パキスタン④ベトナム
これらの国で起きた戦乱・対立について書くことが確定します。
もちろん、これら4カ国以外について言及が必要な可能性もあります。
1960年代のアジア・アフリカでは他にもエジプトやイスラエルなどが関わった第三次中東戦争やナイジェリアのビアフラ戦争が起きています。
これらについても、思い出すことができたのであれば書いたほうが良いでしょう。
第1問の全体像
資料(ウ・タントの演説)
2024年の東大世界史では、1964年3月に国際連合のウ・タント事務総長がおこなった演説の一部が資料として与えられています。
そこでは下記のようなことが書かれています。
- 政治:アジア、アフリカ、ラテンアメリカで多くの民族の政治的解放が進んだ
- 経済:発展途上地域の発展が十分に進まず依然として生活水準が低く工業化も未達成である
第3段落に「比べて」という言葉があります。
この言葉は対比構造をつくります。
対比構造は論理的構造のなかでも最も重要なものの1つです。
この演説では、
「工業化された社会」(欧米の資本主義社会)⇔「アジア・アフリカ・ラテンアメリカの低開発社会」
この2つが対比されています。
第二次世界大戦後に独立を達成したアジア・アフリカ・ラテンアメリカ各国において生活水準が良くならないどころか悪化している場合もあることに警鐘を鳴らし、何らかの対策が実施される必要性を訴える演説だと考えられます。
問2の設問
2024年の東大世界史では、第1問が1つの大論述ではなく問1と問2に分かれています。
そこで、問2の内容が問1のヒントになる(問2で問うている内容から問1の出題意図を読み取ることができる)可能性があります。
問2は、演説で述べられている経済的な問題について
- その歴史的背景を答える
- その解決のため1960年代に国際連合が取り組んだことを答える
こういった問題になっています。
この問題における歴史的背景というのは、一言でいうと欧米列強が帝国主義に基づいて行った侵略や自国に有利な国際分業体制の形成です。
つまり先進国のせいで途上国の開発がなかなか進まないということです。
同様に、問1で述べる戦乱・対立についても先進国が介入して長期化・泥沼化の原因になっている場合があります。
例えば、指定語句から述べることが確定しているベトナム戦争にアメリカ合衆国が介入して戦争を泥沼化させたのはとても有名な話です。
そういった話への言及を心がけると良さそうだとわかります。
構想のまとめ
ここまでの話をまとめます。
この問題の構想は以下のとおりです。
- 1960年代のアジアとアフリカについて書く
- 独立を得る過程で起きた戦乱と独立した国どうしの対立について書く
- ①アルジェリア②コンゴ③パキスタン④ベトナムへの言及は確定
- 欧米が介入したり原因となったりしているなら、それについて言及する
この構想に沿って書きましょう。
講義
アジア・アフリカの国家のうち1960年代に独立を得る過程で起きた戦乱や独立した国どうしの対立を経験した国について解説していきます。
また、2024東大世界史大問1問1とは関係ないのですがおまけとして1960年代にクーデタが発生した国についても解説します。
コンゴ
コンゴは1960年にベルギーから独立しました。
そして独立直後、コンゴ動乱が発生します。
資源に対する権益を保持し続けることを意図した旧宗主国のベルギーが、銅・ウラン・コバルトなどの鉱物資源が豊富なカタンガ州の分離独立を扇動したことで内戦が勃発します。
資本主義国であるベルギーがカタンガ州を支援していることもあり、コンゴの首相ルムンバはソ連に支援を求めます。
するとコンゴの共産化を警戒したアメリカが介入してきます。
その後ハマーショルド事務総長が現地入りするなどして国際連合も介入しました。
このような状況は「米ソなどの干渉で動乱が国際化した」などと書くとよいです。
その後、アメリカの支援を受けた親米軍事政権が成立します。
1960年に独立⇒鉱物資源が豊富なカタンガ州が旧宗主国ベルギーの支援で分離独立運動を起こす
⇒内戦に発展⇒米ソや国際連合が介入⇒米ソなどの干渉で動乱が国際化した
アルジェリア
アルジェリアは1954年からアルジェリア戦争をしていました。
フランスからの独立戦争です。
民族解放戦線(FLN)が独立闘争を展開します。
しかし、アルジェリアにはフランス入植者が多かったため現地駐留軍が独立に激しく抵抗します。
その結果、アルジェリア戦争は長期化してしまいます。
過激化する鎮圧運動に対してフランスの世論は二分されます。
その影響でフランス第四共和政は崩壊し、第五共和政が成立します。
そして1962年、第五共和政のド=ゴール政権がアルジェリアのフランスからの独立を認めます。
アルジェリア戦争でフランスからの独立を目指す⇒民族解放戦線が独立闘争を展開⇒フランス人入植者が多いため現地駐留軍が積極的に介入⇒戦争が長期化した
ナイジェリア
イギリスからの独立後、東部・ビアフラ州のイボ人が独立を宣言し、ビアフラ戦争という内戦が起きます。
ナイジェリアは産油国であるため、石油利権を狙って旧宗主国のイギリス(やソ連)がこれに介入し、ビアフラ戦争は激化します。
イボ人が独立を宣言⇒ビアフラ戦争⇒石油利権を狙った先進国が介入⇒激化
エジプト・シリア・ヨルダン・イスラエル
1948年にアメリカが支援するユダヤ人国家イスラエルがパレスチナに建国されて以来、イスラエルとパレスチナ人・アラブ人の対立が深まります。
1940年代に第一次中東戦争(パレスチナ戦争)が起き、領土を拡大してパレスチナ難民が発生します。
1950年代の第二次中東戦争(スエズ戦争)後、エジプトのナセル大統領がアラブ民族主義の指導的な地位を占め、エジプトとシリアの合邦などを行います。
また、1964年にはパレスチナ難民が反イスラエル武装組織であるパレスチナ解放機構(PLO)を結成します。
こうしたことが背景となり、イスラエルは周辺のアラブ諸国(エジプト・シリア・ヨルダン)へ先制攻撃を行い、第三次中東戦争となります。
この戦争自体は6日間という短期間で終わり、その間にイスラエルはシナイ半島、ガザ地区、ヨルダン川西岸、ゴラン高原を占領します。そして、現在に至るまでイスラエルとパレスチナとの対立は続いています。
こうした状況について、字数がタイトな論述の場合は「パレスチナ問題が深刻化」とだけ記しておけばOKです。
第三次中東戦争で大敗を喫したエジプト・ナセル大統領の威信は大きく低下しました。
アメリカが支援するユダヤ人国家イスラエルと周辺のアラブ諸国とで第三次中東戦争⇒パレスチナ問題が深刻化する
インド・パキスタン
20世紀初めにイギリスはベンガル分割令を発表し、ベンガル州をイスラーム教徒の多い東ベンガルとヒンドゥー教徒の多い西ベンガルの二つに分割しようとします。
また、イギリスは全インド=ムスリム連盟というインドの政治団体を発足させます。
これらの目的はイスラム教徒とヒンドゥー教徒の対立を煽り、反英運動を分断することです。
こうしたイギリスの分割統治の影響で、インドはヒンドゥー教徒の多いインドとムスリム中心のパキスタンとで分離独立することとなりました。
独立後もインドとパキスタンの対立は続き、1947年と1965年にムスリムの多いカシミール地方の帰属をめぐる戦争を起こします。これが第一次・第二次印パ戦争です。
インドとパキスタンの対立は現在も続いています。
イギリスの分割統治によりヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立が深まる⇒ヒンドゥー教徒の多いインドとムスリム中心のパキスタンの分離独立後も対立が続く⇒ムスリムの多いカシミール地方の帰属をめぐる対立をきっかけに第2次印パ戦争がおきる
また、インドは1959年から1962年にかけて中国との国境紛争である中印国境紛争を起こし、撤退しています。
ベトナム
1955年、アメリカの支援を受けてベトナム共和国が南ベトナムに成立します。
これにより、中国やソ連の支援を受けている北ベトナムのベトナム民主共和国との南北分裂が決定的となります。
その後、南北統一を目指して南ベトナムに南ベトナム解放民族戦線が成立し、中ソが支援する北のベトナム民主共和国と連携してゲリラ戦を展開します。
ベトナム戦争はアメリカが支援する国と中国・ソ連が支援する国との戦争であるため、米ソの代理戦争とも呼ばれ戦争は激化していきます。
その最も象徴的な出来事が、1965年のアメリカによる北爆の開始です。
1973年にアメリカ軍がベトナムから撤退し、1975年に北ベトナム主導でベトナムは南北統一を実現します。
アメリカが支援する南のベトナム共和国が成立⇒これに対抗し、南北ベトナムの統一を目指して南ベトナム解放民族戦線と中ソが支援する北のベトナム民主共和国とが連携してゲリラ戦を展開⇒米ソの代理戦争となる⇒アメリカが北爆を開始
番外編①1960年代のアジアで発生したクーデタ・独立
今回の論述では、欧米がその発生原因として深く関わっている戦乱・対立を優先的に述べる必要があります。
したがって、字数の関係で登場させることはできませんが1960年代のアジア・アフリカでは多数のクーデタが発生し、独立国も誕生しています。
ちょうどいい機会なので、これらについて確認しておきましょう。
大韓民国
軍人・朴正煕がクーデタを起こし、大統領となります。
彼はベトナム戦争に派兵することでアメリカからの外資導入や軍事援助を実現し、日韓基本条約を締結することで日本から無償資金、借款、技術協力を得ます。
これは、論述では「日米両国との関係を重視して高度経済成長を実現した」と書けばOKです。
シンガポール
中国系住民の多い都市国家・シンガポールはマレー人優遇政策をとるマレーシアからの分離独立を果たし、リー=クアンユーの強力なリーダーシップのもとで自由貿易港・工業都市国家として急速な経済成長を実現します。
インドネシア
インドネシアでは、スカルノ大統領が親中路線をとっていました。
そうしたなかで九・三〇事件(共産党系の軍人がインドネシア軍の将軍6名を殺害する事件)が起きます。
これにオランダからの独立戦争でも活躍した軍人のスハルトが軍を率いて対応し、インドネシア共産党を壊滅させます。
権力基盤を失ったスカルノに代り、スハルトが大統領となります。
スハルトはアメリカなど西側諸国の資本を受け入れての経済成長を図ります。
ビルマ
ビルマ独立運動を推進したタキン党の創設メンバーであったネ=ウィンが軍を率いてクーデタを起こし、ビルマ式社会主義の建設を目指しました。
クウェート
豊富な石油資源を有するため独立が遅れたクウェートは、1961年人イギリスからの独立を達成しました。
その際、隣国のイラクが石油資源獲得を狙ってクウェートを自国の一部と主張し軍を進行させようとしますが失敗に終わります。
シリア・イラク
アラブ民族主義政党であるバース党がクーデタにより政権を握ります。
イスラエルを敵視しているため、反シオニズム・反資本主義を掲げて社会主義経済の建設を目指しました。
イラク大統領としてイラン=イラク戦争、クウェート侵攻、湾岸戦争、イラク戦争を経験したあの有名なサダム=フセインはバース党の党員でした。
番外編②1960年代のアフリカで発生したクーデタ
ガーナ
イギリスからの独立を果たしたガーナの大統領に就任したエンクルマ(ンクルマ)でしたが、1966年の北京訪問中に軍部からクーデタを起こされてその地位を追われました。
(社会主義国と接近していたエンクルマを失脚させるクーデタですから軍部は資本主義陣営の支援を受けていたのではないでしょうか。あくまで私見です。論述では絶対に書かないようにしてくださいね。)
ここまでのまとめ
長くなりましたので、ここまでの内容をいったんまとめておきます。
答案作成
字数を気にせず書いてみる
中部アフリカでは、1960年に独立したコンゴで鉱物資源が豊富なカタンガ州が旧宗主国ベルギーの支援で分離独立運動を起こすと内戦に発展し、それに米ソや国際連合が介入して動乱が国際化した。北アフリカではアルジェリアの民族解放戦線がアルジェリア戦争でフランスからの独立を目指し、独立闘争を展開した。フランス人入植者が多いため現地駐留軍が積極的に介入し、戦争は長期化した。西アフリカではナイジェリアにおいてイボ人が独立を宣言しビアフラ戦争がおきた。これに石油利権を狙った先進国が介入したため戦争は激化した。西アジアではアメリカが支援するユダヤ人国家イスラエルと周辺のアラブ諸国とで第三次中東戦争がおき、パレスチナ問題がさらに深刻化した。南アジアではヒンドゥー教徒の多いインドとムスリム中心のパキスタンが分離独立後も対立し、ムスリムの多いカシミール地方の帰属をめぐる対立をきっかけに第2次印パ戦争がおきた。東南アジアではアメリカが支援する南のベトナム共和国と南北ベトナムの統一を目指す南ベトナム解放民族戦線と中ソが支援する北のベトナム民主共和国とが連携してゲリラ戦を展開し、米ソの代理戦争となりアメリカが北爆を開始して戦争が激化した。
512文字です。
12行問題なので360字前後まで字数を減らす必要があります。
150字ほど減らさなくてはなりません。
字数調整
中部アフリカでは、1960年に独立したコンゴで鉱物資源が豊富なカタンガ州が旧宗主国ベルギーの支援で分離独立運動を起こすが起きると内戦に発展し、それに米ソや国際連合が介入して動乱が国際化した。北アフリカではアルジェリアの民族解放戦線がアルジェリア戦争でフランスからの独立を目指し、独立闘争を展開した。フランス人入植者が多いため現地駐留軍が積極的に介入し、フランス軍との戦争は長期化した。西アフリカではナイジェリアにおいてでイボ人が独立を宣言しビアフラ戦争がおきた。これに石油利権を狙った先進国が介入したため戦争は激化した。西アジアではアメリカが支援するユダヤ人国家イスラエルと周辺のアラブ諸国とで第三次中東戦争がおき、パレスチナ問題がさらに深刻化した。南アジアではヒンドゥー教徒の多いインドとムスリム中心のパキスタンが分離独立後も対立し、ムスリムの多いカシミール地方の帰属をめぐる対立をきっかけに第2次印パ戦争がおきた。東南アジアではアメリカが支援する南のベトナム共和国とに対し南北ベトナムの統一を目指す南ベトナム解放民族戦線と中ソが支援する北のベトナム民主共和国とが連携してゲリラ戦を展開し戦争をしかけ、それが米ソの代理戦争となりアメリカが北爆を開始して戦争が激化しった。
355文字となりました。
本当は、「このように、アジア・アフリカにおける戦乱や対立の発生や長期化には欧米の思惑が深く関わっており…」といったまとめの表現も書きたかったのですが、各地域の事例だけでいっぱいになってしまいました。
いずれかの地域に言及が出来なかったりして字数が余った場合はこうしたまとめ表現を書くと良いかもしれませんね。
余った字数にもよりますが、例えばこんな感じです。
このように、発展途上国における戦乱や対立は先進国が自らの利益を追求した行動の結果引き起こされたり長期化・大規模化したりすることが多くあった。
これだと70字です。
全ての該当項目を想起できなかった際の対応策として参考にしてください。
解答例/この記事のまとめ
今回の解答例は
中部アフリカでは、コンゴで旧宗主国ベルギーの支援で分離独立運動が起きると内戦に発展し、米ソや国際連合が介入して動乱が国際化した。北アフリカではアルジェリアの民族解放戦線がフランスからの独立を目指した。フランス軍との戦争は長期化した。西アフリカではナイジェリアでイボ人が独立を宣言しビアフラ戦争がおきた。石油利権を狙った先進国が介入し戦争は激化した。西アジアではアメリカが支援するユダヤ人国家イスラエルと周辺のアラブ諸国とで第三次中東戦争がおきた。南アジアではヒンドゥー教徒の多いインドとムスリム中心のパキスタンが対立し、第2次印パ戦争がおきた。東南アジアではアメリカが支援する南のベトナム共和国とに対し南ベトナム解放民族戦線と中ソが支援する北のベトナム民主共和国とが戦争をしかけ、それが米ソの代理戦争となった。
とします。
東大世界史2024世界史解説記事リンク一覧
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・大問1問2 https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-1-2/
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・大問2問2(c)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-2-2-c/
・大問2問3(a)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-2-3-a/