2020年の東大地理第2問Bでは、東南アジア主要国であるベトナム、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアの米の生産量や自給率に関する問題が出題されました。
この問題では、各国の地理的条件や経済的背景が米の生産・消費バランスにどのように影響しているかを分析することが求められます。
本記事では、東南アジア諸国の稲作の特徴や米の自給率の推移に見られる各国の取り組みについて詳しく解説します。
講義:東南アジア主要国の米の生産量や自給率
米は東南アジアにおける主食であり、各国の農業と経済において極めて重要な役割を果たしています。
しかし、国ごとの地理的条件や経済発展の状況によって生産量や自給率には大きな差が生じています。
これらの背景を理解することで、各国の農業政策や経済状況の特徴を把握することができます。
ベトナム:米の自給率が高い
ベトナムでは、メコン川の下流域に広がる三角州(メコンデルタ)が形成されており、この地域の豊富な降水量と肥沃な土壌を活かして稲作が盛んに行われています。
メコンデルタはベトナムにおける主要な米生産地で、効率的な水利用と伝統的な農業技術が結びついて高い生産量を支えています。
ベトナムでは1980年代後半から開始されたドイモイ政策(社会主義下での市場経済導入)によって農業生産に大きな変化がもたらされました。
この政策により農民の生産意欲が高まり、米の生産量が飛躍的に増加しました。
ドイモイ政策の成功によりベトナムは世界有数の米輸出国となり、国内消費を満たすだけでなく大量の米を海外市場に供給しています。
タイ:米の自給率が高い
タイは伝統的な米輸出国であり、現在も世界有数の米輸出国として知られています。
タイでの稲作は主にチャオプラヤ川の下流域に広がる肥沃な沖積平野で行われており、この地域では商業的稲作が盛んです。
タイでは灌漑の整備が進んだことで米の二期作(年に二度の収穫)が可能になり、生産量が大幅に増加しました。
また、かつて粗放的な浮稲栽培が行われていた地域でも灌漑施設の整備による乾田化や農業の機械化が進み、稲作の効率と生産性が向上しました。
フィリピン:他の東南アジア主要国と比べて米の自給率が低い
フィリピンは人口が1億人を超える多人口国家で、国内での米の需要量が非常に多いです。
その一方で米の自給率は他の東南アジア主要国に比べて低い傾向があります。
米の生産自体は盛んで増産にも成功していますが、急速な人口増加により消費量が生産量を上回る状況が続いています。
そのため、国内での需要を賄うために多くの米を輸入しているのが現状です。
また、フィリピンでは中国やベトナムに比べて米の単位収量が低く、生産コストが高いという課題も存在します。
これにより国内での生産だけで需要を満たすことが難しくなり、輸入依存度が高まっています。
マレーシア:米の生産量が少なく自給率が低い理由
生産量が低い理由
マレーシアは人口約3500万人の国であり、他の東南アジア主要国に比べると米の国内需要量が少ないのが特徴です。
また、国土が半島部と島嶼部から構成されていて大河川が乏しいため水田に適した平地が限られています。
これらの要因により、他の国と比較して米の生産量が少なくなっています。
自給率が低い理由
マレーシアでは工業化が進んでおり、農村人口の減少や稲作の停滞が顕著です。
そしてプランテーション作物として油ヤシの栽培が盛んに行われています。
こうした要因が稲作の停滞を招き、経済成長と人口増加に伴い国内の米の需要が大幅に増えているにも関わらず、生産量の伸びがそれに追いつかずに米の自給率低下を引き起こしています。
そのため、マレーシアは輸入に頼ることで国内の米需要を満たしている状況にあり、政府は米の自給率を引き上げることを重要な目標としています。
インドネシア:米の自給率100%を達成した
インドネシアは人口約2.8億人を抱える東南アジア最大の人口大国であり、他の東南アジア主要国と比べて米の生産量が非常に多い特徴を持っています。
平地の少ない島嶼国であるものの、ジャワ島やバリ島では棚田を活用した稲作が盛んであり、農地の有効活用が進められてきました。
もともと米の輸入国であったインドネシアですが、緑の革命の進展によって状況が大きく変化しました。
高収量品種の導入や灌漑施設の整備、農業技術の改善が行われて米の生産性が飛躍的に向上しました。
これにより急増する人口と国内需要の増加に対応できるだけの生産量を確保し、米の自給率100%を達成するに至りました。
解答例
(1)
Aーマレーシア、Bーベトナム、Cータイ、Dーインドネシア、Eーフィリピン
(2)
米の生産量は増えているが、経済成長や人口増加により国内供給量がそれ以上の割合で増えているため自給率は低下を続けている。(59文字)
(3)
人口増加で国内供給量が増加したが、高収量品種導入や灌漑施設整備を進める緑の革命で生産量も増加して自給を達成した。(56文字)
東南アジア各国の農業の特徴については東大地理2024年の第1問設問A(4)を解説したこちらの記事で詳しく紹介しております。是非ご覧ください。