2020年の東大地理第2問A(1)では、人々の食生活に占める動物性食品の割合が増えることで陸上の自然環境に及ぶ悪影響について説明する問題が出題されました。
本記事では、動物性食品の生産と自然環境との関係を、具体例を交えながら解説します。
畜産業の拡大がもたらす環境問題を理解することで、持続可能な社会の実現に向けた課題にも目を向けることができます。
講義:動物性食品の生産と自然環境への影響
動物性食品とは
動物性食品とは、牛肉や豚肉、羊肉、乳製品などの畜産品を指します。
これらの食品の生産には大量の資源(飼料、水、土地)が必要であり、そのために自然環境に多大な影響を及ぼすことがあります。
牧畜業の自然環境への影響
1:牧畜による森林破壊
牧畜業の拡大は森林破壊の主な原因の一つとなっています。
特にブラジルのアマゾン熱帯雨林では、牧場の開発や飼料作物の生産を目的とした森林伐採が深刻な問題となっています。
2:過放牧による砂漠化の進行
牧畜業の拡大は砂漠化の進行にも大きく影響を及ぼしています。
家畜の飼育頭数が増加すると、牧草地が過放牧の状態に陥ることがあります。
過放牧とは、家畜が植物を過剰に食べることで植生が失われ、土地が回復不能な状態にまで劣化する現象を指します。
これにより、土壌を覆う植生が減少して土壌がむき出しになってしまうため、雨風による土壌流出が進行します。
その結果、土地の肥沃度が低下し、次第に砂漠化が進むのです。
このような問題は特にアフリカのサヘル地域や東アジアの内陸部などで深刻化しています。
これらの地域では動物性食品の需要の増加に伴い家畜頭数が増え、牧草地が過度に利用されることで砂漠化が加速しています。
この砂漠化は農業や牧畜そのものを困難にするだけでなく、地域の生態系や人々の生活基盤にも深刻な影響を及ぼしています。
3:飼料作物の生産による土壌の劣化
家畜の飼育に必要な飼料作物の大量生産は、土壌の劣化を引き起こす重要な要因となっています。
動物性食品の需要が拡大する中で、家畜用のトウモロコシや大豆などの飼料作物の栽培が大規模に行われていますが、この過剰な生産は土壌に深刻な悪影響を及ぼします。
飼料作物の栽培では土壌から養分が大量に吸収されるため、土壌の栄養分が失われやすくなります。
さらに、農業生産性を維持するために化学肥料や農薬が大量に使用されることが多く、これが土壌の汚染や地下水の汚染を引き起こす原因となっています。
また、耕作地が過剰に利用されると、土壌の構造が破壊され、雨水による土壌流出が進行することもあります。
4:水資源の大量消費
動物性食品の生産、とりわけ肉牛の飼育は水資源の大量消費を伴い、その結果として地下水の枯渇という深刻な環境問題を引き起こします。
牛肉1kgを生産するのに必要な水の量は約15,000Lとされており、畜産業は他の農業分野と比較しても非常に多くの水を必要とする産業です。
このような膨大な水資源の使用は、地域の水供給に深刻な負担を与えるだけでなく、地下水の過剰な取水による枯渇を引き起こします。
特に、乾燥地帯や水資源がもともと限られている地域では、この問題が一層顕著です。
また、肉牛の飼育においては飼料作物の栽培も必要であり、これらの作物の灌漑用水の使用も水資源の大量消費につながっています。
5:温室効果ガスの排出
動物性食品の生産、特に肉牛の飼育は、温室効果ガスの排出という形で地球温暖化に大きな影響を与えています。
牛の消化過程で発生するげっぷやふん尿の処理に伴い、強力な温室効果ガスであるメタン(CH₄)が多量に放出されます。
メタンは二酸化炭素(CO₂)と比較して温室効果が約25倍も高いため、その影響は極めて深刻です。
畜産業全体で見ると温室効果ガス排出量の大きな割合を占めており、特に牛の飼育がその主要な原因となっています。
このガスの排出による温暖化の進行は、気候変動による自然災害の増加や生態系の破壊をもたらすことが懸念されています。
6:生物多様性の減少
牧畜の拡大や飼料用作物の大規模栽培は、生物多様性の減少を招く大きな要因となっています。
家畜の放牧地や飼料作物を育てる農地を確保するために多様な生物が生息する森林や草原が開発され、大規模な農地へと転換されるケースが増加しています。
このような土地利用の変化は生物の生息地を直接的に破壊し、種の絶滅リスクを高める結果を招いています。
例えば、熱帯雨林や草原地帯では土地開発によって生息地が分断され、動植物の生息可能範囲が狭められることで固有種や希少種の個体数が減少します。
特に熱帯雨林においては動植物の生物多様性が非常に高いため、牧場開発や農地造成が進むほど多くの種が絶滅の危機に直面することになります。
解答例
家畜飼育頭数を増やすための牧場開発で熱帯雨林破壊が進む。(28文字)