「清朝の中国支配政策について知りたい!」
「設問要求・文字数をヒントに何を書けばよいのかを判断する実例を知りたい!」
「清の中国統治に関連する具体的な書物名を確認しておきたい」
東京大学は2024年度入試において、世界史第2問の問3(a)で
清が従来の制度や慣習を認めつつ満州人による支配を徹底するために行った、書物に関する政策を3行で説明させる問題を出題しました。
征服王朝である清朝は漢民族を支配するために様々な政策を実施しました。
もともとは北方の遊牧民であった女真族が文化の異なる漢民族を支配を徹底するためには、従来の制度を残して融和を図りつつ独自の文化を強制するなどの威圧も必要でした。
これは異文化交流の一種ですので、論述対策として覚えておいて損はありません。
この記事では、以下の内容を解説します。
- 清朝が漢民族に対して行った威圧策
- 清朝が漢民族に対して行った懐柔策
- 懐柔策において言及すべき書物・編纂物の名称
今回の記事を読むと清の中国統治政策が理解できますので、是非最後までお読みください!
構想
今回の設問は、
・何を
・どこまで
書けば良いかの判断が若干悩ましくなっています。
したがって、そこから解説します。
設問文から判断する
世界史の論述問題で一番大切なことは、設問要求にしっかり応えることです。
したがって、「何をどこまで書くべきか」を考える際は設問からヒントを読み取ることを最優先しましょう。
「従来の制度や慣習をみとめつつ」
ここから、清朝が実施した懐柔策への言及が求められていると考えます。
「満洲人による支配の徹底」
「支配の徹底」というフレーズからは高圧的な印象を受けますので、清朝が実施した威圧策への言及が求められていると考えます。
「書物に関して」
この指定があるので、例えば
・辮髪
・満漢併用制
については今回は書いてはいけないとわかります。
「書物や編纂物の名称を挙げながら」
書物または編纂物の名称を挙げることになる清朝による支配政策は「大規模編纂事業」のみです。
よって、大規模編纂事業への言及は確定となりました。
プラスアルファを考える
設問をヒントにして方向性がかなり絞れました。
1つだけプラスアルファとして考えておきたいことがあります。
大規模編纂事業は懐柔策⇒威圧策についても書物が関連するものを1つ述べなくてはならない⇒文字の獄
という思考です。
ここまでのまとめ
これらより、今回は
- 大規模編纂事業について述べる
- そこで編纂された書物・編纂物の名称1つ以上に言及する
- 文字の獄について述べる
この条件を90文字で満たせばよいだろうと判断できます。
講義
ここでは、清朝が漢民族支配のために実施した政策を紹介します。
威圧策
辮髪の強制
「辮髪」という満洲人に独特のヘアースタイルを漢民族の成人男性にも強制しました。
辮髪という満州人の習俗を漢民族に強制しました。
論述で使用する際にはこのように書けるとよいでしょう。
文字の獄・禁書
特定の条件を満たした本を没収して焼却し、著した者を極刑に処したことを指します。
つまり、
反満・反清的な言論を弾圧し、思想を統制した
ということです。
これを実施するには、そういった書物を見つけ出す必要があります。
しかし、当然ながら反清的な内容の書物を書いた人・読む人というのは清朝には見つからないようにします。
そこで、清朝はそういった内容の本があるならそれを見つけ出せる仕組みを整える必要があります。
乾隆帝が編纂を命じた書籍に『四庫全書』というものがあります。
これは当時存在していた書物を網羅し、分類して保存する事業でした。
この事業の目的の1つは、あらゆる書物のなかから反清的な内容のものをみつけだすことでした。
つまり、
『四庫全書』の編纂事業は禁書の捜索を兼ねていた
と言えます。
懐柔策
満漢併用制
中央の要職の人数を偶数人とし、満州人と漢人を併用しました。
科挙
漢民族が伝統的に実施してきた科挙を継承しました。
緑営
緑営は漢民族からなる軍隊で、各地の治安維持にあたりました。
役割は治安維持、というところに注目です。
漢民族は清に反旗を翻す可能性がありますので治安維持以上の役割(隣国を攻めることができるほどの軍備)は持たせなかったと考えられます。
なお、これが懐柔策の1つだと考えられる理由は「自分たちの民族の治安は自分たちで守る」ことを認められたからです。習慣や価値観の異なる民族に治安維持をされたのでは、何がいけない行為なのか分からず不安ですからね。
大規模編纂事業
大量の儒学者を動員して『康煕字典』(漢字辞典)や『古今図書集成』(百科事典)の編纂事業を行わせました。
これは
漢民族の伝統文化を尊重する態度を示した
と表現することができます。
威圧策でもあり懐柔策でもある政策
『四庫全書』の編纂は文字の獄という威圧策の一環として、『康煕字典』『古今図書集成』の編纂は漢民族の文化を尊重する懐柔策の一環として登場しました。
そこで、
大規模編纂事業は懐柔策であると同時に言論統制にも活用された
と言うことができます。
1つの政策が正反対の2つの側面を同時に持ち合わせるというのは非常に興味深いですね。
この二面性について言及しましょう。
講義のまとめ
講義の内容をまとめておきます。
答案作成
字数を気にせず書いてみる
清は書物の編纂事業を行った。漢民族の伝統文化を尊重する態度を示し、儒学者に「康煕字典」「古今図書集成」などを編纂させた。その一方で『四庫全書』の編纂事業は反清的な内容の書物を弾圧し、思想を統制する文字の獄や禁書への利用も兼ねた。
114文字です。
4行程度のボリュームになってしまいました。
今回の問題は「書物」が主役です。
そこを強く意識して書きました。
字数調整
清は書物の編纂事業を行った。漢民族の伝統文化を尊重する態度を示し、儒学者に「康煕字典」「古今図書集成」などを編纂させた。その一方で『四庫全書』の編纂事業は反清的な内容の書物を弾圧し、思想を統制する文字の獄や禁書への利用も兼ねた。
88文字です。ちょうど良い文字数ですね。
どこを削るのかを考える際も、「今回の主役は『書物』である」ということを強く意識しました。
解答例/この記事のまとめ
ということで、解答例は
清は漢民族の伝統文化を尊重する態度を示し、「康煕字典」「古今図書集成」などを編纂させた。その一方で『四庫全書』の編纂事業は反清的な書物を統制する文字の獄や禁書への利用も兼ねた。
とします。
東大世界史2024世界史解説記事リンク一覧
・大問1問1 https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-1-1/
・大問1問2 https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-1-2/
・大問2問1(a)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-2-1-a/
・大問2問1(b)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-2-1-b/
・大問2問2(b)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-2-2-b/
・大問2問2(c)https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-2-2-c/
・大問2問3(a)この記事です