2022年の東大地理第3問設問A(2)では、高速道路のインターチェンジ付近に建設される新たな施設とその理由について2行(≒60文字以内)で説明する問題が出題されました。
この記事では、以下のテーマごとに詳しく解説します。
- 自動車輸送の特徴
- 高速道路の開通とその影響
- インターチェンジ付近に建設される主な施設(工業団地、物流センター、ショッピングセンター)
講義
1:自動車輸送の特徴
①自動車輸送の利点
自動車交通は鉄道に比べて整備の初期投資が少なく、地形に左右されにくい柔軟な移送手段です。
その特性から、以下の利点があります。
・ドアツードア輸送:目的地まで直接移動ができるため、利用者の利便性が高いです。
・弾力性:自由にルートが設定でき、時間帯や目的に応じてフレキシブルに利用できます。
・多頻度小口配送:交通・通信技術の発達により少量の商品を高頻度で配送できる輸送形態となりました。
②自動車輸送の欠点と課題
一方、自動車輸送は以下のような欠点・課題を抱えています。
・都市部での道路渋滞:定時性が鉄道に比べて劣り、特に都市部では混雑が深刻化します。
・駐車スペースの不足:駐車場不足が慢性的な問題となり、都市計画において課題となっています。
・環境問題:排気ガスによる大気汚染や二酸化炭素の排出が環境に悪影響を及ぼします。
・交通事故:交通事故が社会に悪影響を及ぼします。
・長距離・大量輸送に不向き:鉄道や船舶に比べ、エネルギー効率が低いため、大量輸送には適しません。
③モータリゼーションの進展と影響
自動車利用の普及(モータリゼーション)は利便性の向上をもたらしましたが、多くの課題も浮き彫りにしました。
・利便性
自家用車の普及により日常生活が便利になり、地方に住む人々の移動手段として重要な役割を果たします。
・問題点
- 大気汚染:排気ガスが都市環境に悪影響を及ぼします
- 中心市街地の衰退:郊外型の大型店舗が普及し、都市の中心部が衰退しました
- 交通弱者の増加:公共交通が廃止される地域で移動が困難になる人々が増えています
④自動車保有率と経済水準
自動車の保有率は、国の経済水準を示す指標の一つとされています。
・先進国
日本は経済水準が高いものの、鉄道利用率の高さから自動車保有率は他の先進国より低いです。
・発展途上国
中国やインドでは経済成長に伴い、自動車の普及率が急激に上昇しています。
国内外の自動車メーカーが生産を拡大し、モータリゼーションが進展しています。
2:高速道路の開通とその影響
①高速道路とは
高速道路は時速100km以上の安全な走行が可能な自動車専用道路です。
以下のような特徴があります。
設計特徴
- 片側2車線以上、信号や交差点がなく、カーブや勾配を緩やかに設計。
- 中央分離帯や立体交差が設けられ、交通の流れを分離・円滑化。
- インターチェンジを介して一般道路と接続。
付帯施設
サービスエリアやパーキングエリアが設置され、長距離移動中の休憩や食事が可能です。
②高速道路の開通による影響
・輸送効率の向上
地方の生産地と都市部の消費地が高速道路で結ばれることで、物流の利便性が飛躍的に向上しました。
長距離輸送が効率化され、時間短縮が実現しました。
・物流・農業への影響
高速道路の整備に伴い、トラック輸送量が増加しました。
高速道路による交通結節点(インターチェンジ)が地方経済の拠点となります。
地方でも高速道路を活用して新鮮な農産物を迅速に都市部へ届ける輸送園芸農業が発達しました。
③高速道路沿いのインターチェンジ付近の土地利用
インターチェンジは交通の結節点としての機能を持つため、物流・商業・工業において非常に利便性の高い場所です。
また、地方では地価が安く広大な敷地の確保が容易であるため以下のような施設が集中して立地します。
1:工業団地
・立地の背景
高速道路のインターチェンジ付近はトラック輸送の利便性が高いため、製品や原材料の輸送を効率的に行える地理的条件に恵まれています。
これにより、輸送コストを大幅に削減することが可能です。
また、地方に立地する場合は広大な土地を確保しやすく、地価も都市部に比べて安価であることが工業団地の立地を後押ししています。
特に交通指向型の立地として、原材料や製品の物流効率化を追求する企業に適しています。
・立地する産業
インターチェンジ付近には以下のような産業が立地しています。
- 金属工業:自動車部品や金属加工品の製造
- 機械器具工業:産業用機械や装置の製造
- 電気機械工業:電子部品、半導体、家電製品などを製造
- 食品製造業:広域配送を必要とする加工食品などを製造。
特に、製品が小さく高付加価値なエレクトロニクス工業などが立地する傾向があります。
・代表例
北関東工業地域が高速道路沿いに立地する工業団地の代表例です。
この地域では以下の特徴がみられます。
- 首都圏へのアクセスが良く、広域物流の中継拠点として機能
- 電気機械産業や自動車関連産業など、多様な工業が集積
- 高速道路の利便性を活かし、輸送効率を高めることで競争力を確保
2:物流センター
物流とは
物流とは、生産された商品を消費者に届けるまでの輸送・保管・荷役・包装・流通加工・情報管理といった一連の流れを指します。
この過程は、現代の消費生活を支える重要な役割を果たしており、特に近年では以下のような背景から物流センターの整備が進んでいます。
立地の背景
・モータリゼーションの進展
かつて物流は鉄道輸送が中心であり、倉庫は駅周辺に立地していました。
しかし、モータリゼーションが進むにつれて輸送手段の中心がトラック輸送に移行し、高速道路のインターチェンジ付近に立地する物流施設が増加しました。
・高速道路の利便性
高速道路のインターチェンジ周辺は主要都市や大消費地へのアクセスが良く、広域物流の中継拠点として最適です。また、地方では広い土地を安価に確保できるため、大規模な施設の建設が容易です。
・ネット通販の普及
近年、インターネット販売(ネットショッピング)の普及に伴い少量多品種の貨物輸送が急増しています。
これに対応するため、効率的な物流センターが必要とされています。
物流センターの特徴
物流センターは単なる倉庫としての役割に留まらず、以下の機能を持つ多機能施設です。
- 保管と荷役:商品の保管と、出入庫や仕分けなどの荷役作業を行います。
- 流通加工:包装、値札付け、ラベリングなどの加工を行い、出荷準備を整えます。
物流センターは効率的な構造をしています。
物流センターの設計は大型トラックの積荷スペースや荷物の搬入経路に配慮されており、らせん状のランプウェイを備えた多層階構造が特徴です。
これにより、どの階からでもトラックが搬入・搬出可能です。
物流センターは物流活動の中枢として機能し、配送センターやトラックターミナルが集積するハブ拠点となっています。
オンラインショッピングと物流センター
ネット通販の拡大により、消費者が商品をクリック一つで購入して翌日には手元に届く仕組みが日常化しています。これを支えているのが、高速道路沿いに立地する物流センターです。
地価の安い郊外に施設を設けることで、コスト削減が可能となっています。
また、配送拠点として全国に迅速な配送を実現しています。
事例
・Amazonや楽天などのネット通販大手企業が、広大な物流センターをインターチェンジ付近に設置しています。
・関東地方の高速道路沿いに大規模物流施設が集中しています。
3:ショッピングセンター・アウトレットモール
・背景
郊外への人口拡散とモータリゼーションが進んだ結果、都市中心部では駐車スペースの確保が難しくなり、都心部の商店街は集客力を失いつつあります。
その一方で、広い駐車場を確保できる郊外にショッピングセンターやアウトレットモールといった商業施設が進出しています。
また、1991年に大規模小売店舗法が改正されて大型店の郊外進出が規制緩和されたことで、こうした施設の開発が本格化しました。
・ショッピングセンター
ショッピングセンターとは、広大な敷地を活かして駐車場を設けて小売業、飲食店、サービス業など多種多様な店舗を集積させた商業施設を指します。
高速道路のインターチェンジ付近に立地することで、車で訪れる消費者に便利なアクセスを提供しています。
そのため、広域から多くの集客が可能となっています。
また、地方では用地取得が容易で土地代も安いため、大規模な駐車場を併設しやすいです。
ショッピングセンターにはスーパーマーケット、ドラッグストア、家電量販店、アパレルショップなど多様な業種が集まり、ワンストップで買い物が完結する利便性を提供します。
・アウトレットモール
アウトレットモールは、メーカーがシーズンオフや流行遅れの在庫商品を安価に販売する直営店を中心にした商業施設です。
アウトレットモールは都心部の商店街との競合を避けるため、地価の安い郊外や観光地付近に立地することが多いです。
高速道路のインターチェンジに近い立地は、広域からの集客を可能にします。
商品の価格が安く、コストパフォーマンスを求める消費者に人気です。
広い駐車場やフードコートなどの施設が併設されており、長時間滞在型の買い物体験を提供しています。
事例
①御殿場プレミアム・アウトレット(観光地型)
②三井アウトレットパーク木更津(都市近郊型)
解答例
大消費地である東京へのアクセスが高速道路で良くなりネット通販が普及したため地価の安い地に物流センターが建設されている。(59文字)