2022年の東大地理第1問設問B(2)では、「20世紀後半にすたれた航路の例とすたれた理由」を2行(≒60文字)で説明する問題が出題されました。
この記事では、以下のテーマに基づいて詳しく解説します。
- パナマ運河の概要
- パナマ運河が船の航路に与えた影響
- スエズ運河の概要
- スエズ運河が船の航路に与えた影響
講義:運河の開通による航路の変化
運河とは、陸地を掘削して作られた人工的な水路のことです。
運河は船舶の移動を効率化し、新たな航路を提供する役割を果たします。
ここでは、パナマ運河・スエズ運河の建設とその影響について解説します。
1:パナマ運河
概要
パナマ運河は、パナマ地峡を横断して太平洋と大西洋・カリブ海をつなぐ運河です。
海抜26mに位置するガトゥン湖を経由するため、水位を調節する3か所の水門が設置されています。
こういった構造の運河を閘門式運河(こうもんしきうんが)といいます。
パナマ運河の歴史は以下のとおりです。
西暦 | 出来事 |
1881年 | フランスのレセップスが建設を開始したが、失敗に終わった |
1903年 | アメリカ合衆国がレセップスから会社の権利を買い取り、独立後のパナマ政府と運河条約を結んで運河の工事権と運河地帯の恒久的管理権を獲得した |
1904年 | アメリカ合衆国が着工 |
1914年 | 開通 |
1977年 | アメリカ合衆国からパナマへ返還されることを定めた条約が締結された |
1999年 | アメリカ合衆国からパナマへ返還された |
2016年 | 拡張工事が完了し、大型船の通航が可能になった これにより液化天然ガス(LNG)の輸送船が通行できるようになった |
パナマ運河の開通がもたらした効果
①航路の短縮と効率化
パナマ運河開通以前は、太平洋と大西洋を行き来するには南アメリカ大陸の南端にあるマゼラン海峡やドレーク海峡を回航する必要がありました。
パナマ運河の開通によって南米南端経由の航路が不要になったため航海距離と日数が大幅に短縮しました。
北米東岸と西岸の輸送も効率化しました。
アメリカ大陸を横断する従来の陸路を使用することなく、東西岸間を運河経由でつなぐことが可能になりました。
②輸送コストの削減
航海距離や日数の大幅短縮により、燃料費や船員の労務費などが大幅に削減されました。
③新たな物流の流れ
アジアから北米・中南米東岸への輸送が急増しました。
鉄鉱石、石炭、穀物などを輸送するバルカーと呼ばれるばら積み貨物船の通航が最も多いです。
製品輸送などを行うコンテナ船や化学品を輸送するタンカーも多いです。
2:スエズ運河
概要
スエズ運河は、地中海と紅海を結ぶことでヨーロッパとアジアの間の輸送距離を大幅に短縮する運河です。
地形が平坦なため、水門を必要としない水平式運河です。
スエズ運河の歴史は以下のとおりです。
西暦 | 出来事 |
1859年 | フランス人のレセップスが着工 |
1869年 | 完成 |
1875年 | イギリスがエジプトから株式を購入 |
1956年 | エジプトのナセル大統領が国有化を宣言 |
スエズ運河の開通がもたらした効果
①航路の短縮と効率化
ヨーロッパと南アジア・東南アジア・東アジアとの貿易がより効率的に行われるようになりました。
アフリカ大陸南端の喜望峰を回る必要がなくなり、距離と時間が大幅に短縮されたからです。
②輸送コストの削減
航海距離や日数の大幅短縮により、燃料費や船員の労務費などが大幅に削減されました。
③貿易の活発化
地中海諸国やヨーロッパ諸国とアジアとの貿易が活発化しました。
スエズ運河開通後の喜望峰経由の航路について
喜望峰を経由してヨーロッパとアジアを結ぶ航路はスエズ運河の開通により需要が激減しました。
しかし、根強い需要が一部存在しています。
その理由は以下のとおりです。
- スエズ運河を航行できない大型船舶が利用
- スエズ運河周辺の政治的不安定や紛争回避を目的とする船舶が存在
- 南アフリカとの貿易に従事する船舶が引き続き利用
解答例
パナマ運河の開通により移動距離や所要時間が大幅に短縮したため、太平洋と大西洋を結ぶ南米大陸の南端を回る経路がすたれた。
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