【東大地理2023】1970年代以降の日本において災害リスクの高い土地の宅地化が進んだ理由|第3問設問A(4)

東大地理2023第3問設問A(4)1970年代以降の日本で災害リスクの高い土地の 宅地化が進んだ理由 地理

2023年の東大地理第3問設問A(4)では、「1970年代以降に災害リスクの高い土地でも宅地化が進んだ理由」について、2行(≒60文字)で説明する問題が出題されました。
この背景には、日本の高度経済成長期以降の急速な都市化や住宅需要の増加、都市計画の課題が深く関連しています。

この記事では、以下のポイントについて詳しく解説します。

  • 郊外の住宅地開発とニュータウン建設
  • 郊外の無秩序な拡大と災害リスク
  • 広域中心都市(地方中枢都市)の成長
執 筆 者
諏訪孝明

東京大学経済学部卒
1浪・東大模試全てE判定・センター7割台の崖っぷちから世9割、日8割、数2割で文科Ⅱ類に合格。
これまでに1000人以上の受験生を指導。 
直近2年で偏差値70超の学校への合格率が90%を超えている。

諏訪孝明をフォローする
公式LINEでは、国公立大学2次試験の世界史・日本史・地理の論述を攻略するために必須な超有益情報を発信しています。ぜひ友達追加してください!

講義

1:郊外の住宅地開発とニュータウン建設

高度経済成長期に日本の工業化が進展するなかで、農村部から都市部への人口移動が急増しました。
特に東京・大阪・名古屋の三大都市圏では、全国各地からの労働力供給を背景にして都市化が急速に進展しました。
第一次ベビーブーム世代(団塊世代)が進学や就職を機に三大都市圏へ移動したことも、都市部の人口増加を加速させました。

都市への人口集中は住宅需要の急増をもたらし、住宅不足が顕著になりました。
都市部では地価の高騰が進み、河川が形成した沖積平野のような平坦で安全な土地では住宅地が不足しました。
住宅地不足などによる地価高騰や生活環境の悪化により、郊外への住宅地の拡大が進みました。

このような状況のなかで、ニュータウンなどの新たな住宅地の開発が始まりました。
ニュータウンは都心部での住宅需要を補完するために開発された大規模な郊外住宅地です。
日本では居住者が都心部まで通勤する「職住分離型」の特徴を持ちます。

ニュータウン開発とともに鉄道や国道などの交通インフラが整備され、地価の安い地域に上下水道などの基本的なインフラが整えられました。
特に、都心からのアクセスが良い鉄道駅付近の土地が積極的に開発され、利便性が高い住宅地が形成されました。
これにより、大都市圏の郊外地域において大規模な住宅地開発が進行し、人口の急増が見られました。

1960年代には東京都の周辺に位置する神奈川県、埼玉県、千葉県で人口が増加し、都心部の人口減少と郊外の人口増加が顕著になりました。
これを「ドーナツ化現象」と呼びます。
ドーナツ化現象の原因は、都心部での地価高騰や生活環境の悪化による郊外への人口流出です。

2:郊外の無秩序な拡大と災害リスク

都市部の住宅不足を背景に進行した郊外開発は、さまざまな都市問題を引き起こしました。
その代表例が「スプロール現象」です。
スプロール現象とは、市街地が無秩序に拡大して農地や緑地が虫食い状に開発される現象を指します。
このような開発は学校・道路・下水道などの社会資本の計画的・効率的な整備を阻害するため、地方自治体の財政負担を増大させる原因となります。

加えて、郊外の住宅地では交通インフラの整備が追いつかず、慢性的な交通渋滞が発生しやすい状況も見られます。

また、家屋が密集しているため、地震や火災といった災害時には被害が拡大しやすいという問題もあります。

さらに、郊外地域での住宅開発は災害リスクが高い土地にも及びました。
災害リスクの低い平坦な土地には古くからの集落が存在するため、新規開発が難しいことが背景にあります。
そのため、開発可能な土地として土砂災害の危険性が高い山麓や傾斜地、洪水リスクのある低地が選ばれることが多かったのです。
結果として、土砂災害や洪水などの自然災害に対して脆弱な土地が住宅地となってしまいました。

高度経済成長期に建設されたニュータウンでは、別の問題も顕在化しています。
開発当初に同世代の住民が一斉に入居したため、現在では高齢化が急速に進んでいます。
成長した子ども世代が独立してニュータウンから転出したことで、少子化も加速しました。

さらに、人口減少の影響でニュータウンなどの住宅地に空き家や空き地が点在する「都市のスポンジ化」も見られます。
この現象は、地域の魅力低下や治安悪化などの負の連鎖を引き起こす要因となっています。

3:広域中心都市(地方中枢都市)の成長

広域中心都市(地方中枢都市)は、周辺地域に多様なサービスを提供する中心地機能を持ち、商業やサービス業などの第三次産業を中心に多くの雇用機会を創出しています。
そのため、周辺の農村部や地方中小都市からの人口移動が続き、若年層を中心に人口の集中が進んでいます。
これにより地方中枢都市は成長を遂げ、地域経済の活性化に大きな役割を果たしています。

一方で、広域中心都市への人口集中は地域格差を拡大させる要因にもなっています。
農村部や小規模な地方都市では人口流出が進み、過疎化や高齢化が加速しているのです。
特に若年層が流出することで労働力の確保が困難となり、農林業や地域産業が衰退するという課題が顕著に現れています。

石油危機以降には、Uターン現象やJターン現象といった人口移動の変化も見られました。
Uターン現象は、地方から一度大都市へ移住した人々が生まれ故郷に戻る現象です。
これに対し、Jターン現象は地方から大都市に移住した人々が生まれ故郷ではなく、その近隣の広域中心都市に定住する動きです。
これらの現象は広域中心都市の成長に寄与する一方で、農村部のさらなる過疎化を招く側面もあります。

解答例

都市化の進展による人口急増で住宅地が不足し、災害リスクの高い土地も安い地価や交通利便性などを訴求して宅地化したから。
(58文字)

タイトルとURLをコピーしました