2023年の東大地理第3問設問A(3)では、「山ぞいにせき(砂防ダム)が建設された目的」について、土地被覆や自然災害の特徴とあわせて3行(≒90文字)で説明する問題が出題されました。
この記事では以下の内容を詳しく解説します。
- 土砂災害の発生要因
- 土石流など自然災害による被害
- 土砂災害を防ぐための砂防ダムの役割
資料の読み取り:図3-1地形図
与えられた地形図から、土石流の発生と砂防ダムの設置目的を分析します。
尾根の針葉樹林
北西の山地には針葉樹林が広がっています。
針葉樹林は保水力が乏しいため大雨の際に水分を保持できず、土砂の崩落や土石流を助長しやすいです。
谷の荒地
土石流が発生すると、谷沿いの植生が失われて荒地となります。
地図中の谷には荒地記号が見られ、これは土石流による被害を示唆しています。
谷口の砂防ダム
住宅地の上流にある谷口付近に砂防ダム(せき)が建設されています。
土石流の勢いを抑え、住宅地への被害を防ぐために建設されたと考えられます。
講義:土砂災害と砂防ダム
1:土砂災害とは
土砂災害とは、土砂が崩壊したり流下したりすることで引き起こされる災害です。
日本では、山崩れや崖崩れ、地すべり、土石流などが主な形態として挙げられます。
これらの災害は、集中豪雨や地震、火山活動が主な原因となり発生します。
土砂災害が発生しやすい理由
日本では土砂災害が発生しやすい要因がいくつか挙げられます。
①急峻な地形
日本の国土の約7割を占める山地は急峻であり、地質的にも脆弱であることから、降雨や地震の影響を受けやすい。
②多雨の気候条件
日本の梅雨や台風による降雨量は多く、近年では線状降水帯と呼ばれる集中豪雨も頻発しています。
線状降水帯とは、積乱雲が同じ場所に次々と発生し、大量の雨を降らせる現象です。
③河川の急勾配
山地から平野に流れ出る河川は勾配が急で、雨水が短時間で流れ込みやすいため、洪水や土石流を引き起こすことがあります。
土砂災害の種類
①山崩れ
山地の斜面における基盤岩や風化した砕屑物が、大雨や地震、地下水の影響で急激に崩落する現象です。
②崖崩れ
斜面の表層部分が雨水や地震の影響でゆるみ、突然崩壊する現象です。
斜面の下部に住宅や農地がある場合、大きな被害につながります。
③地すべり
地下水の浸透や重力の影響で斜面の土壌が滑り落ちる現象です。
すべり面に大量の水が浸透した場合に発生しやすく、広範囲でゆっくり進む場合もあります。
④土石流
大量の土砂や岩石が水と混ざり合い、急激に流れ下る現象です。
特に雨量が急増した場合に土砂と水が一体となり、住宅地などに甚大な被害をもたらします。
流れの水分が多い場合は「鉄砲水」、土砂が多い場合は「土石流」と区別されます。
土砂災害の特徴
・集中豪雨による発生
短期間に大雨が降ると地表や地下に水が浸透し、斜面の土砂が不安定になります。
このため、保水力が乏しい地域では土砂災害が同時多発的に起こる場合があります。
・植生への影響
特に人工林の針葉樹林や荒地では保水力が低く、斜面崩壊が起こりやすいです。
これが谷を流れる土石流や崖崩れの発生を助長します。
・被害の広がり
土石流は谷を流れ下るため、その周囲の住宅地や農地が被害を受ける可能性が高いです。
流下後は谷沿いの土地が植生を失い、荒地化することもあります。
2:土石流の被害と特徴
土石流とは、山腹や河川底に堆積した大量の土砂や岩石が、長雨や集中豪雨などの影響で水と混ざり合い、急斜面を高速で流下する現象を指します。
この流れは谷を一気に駆け下り、下流域の集落や農地に甚大な被害をもたらすことがあります。
土石流の特徴
①土砂と水が混ざった高速流下
泥や砂、礫、岩塊が水と一体となり、重く濃密な流体として流れ下ります。
特に土砂成分の割合が高い土石流は、建物や農地に深刻な影響を与える可能性があります。
②発生要因
土石流は、主に集中豪雨や雪解けの急激な進行により発生します。
山地の急斜面で水分が大量に流れ込むと、土砂や岩石が不安定になり、一気に崩れ落ちることで発生します。
③谷沿いへの被害集中
土石流は谷を伝って下流に流れるため、谷沿いの住宅地や農地に被害が集中します。
流下後、谷沿いの植生が失われ、土地が荒地化することもあります。
土石流がもたらす被害
①住宅地への直接被害
土石流が流下すると、流路にある住宅や構造物が破壊されます。
また、土砂が流れ込んで住宅地が埋没する危険性もあります。
②農地や生態系への影響
土石流が農地を覆うと、農作物が壊滅的な被害を受け、土地が再利用できなくなることもあります。
また、流れによって植生が失われ、生態系に深刻な影響を与えます。
③多発性の災害
保水力が乏しい人工林や荒地では雨水が浸透せず一気に流れ込むため、土石流やがけ崩れが同時多発的に発生する可能性が高まります。
3:砂防ダムの役割
砂防ダム(砂防堰堤)は土砂災害の発生を防ぎ、被害を軽減するために山間部の渓流などに設置される構造物です。土石流や斜面崩壊などが発生しやすい地形での災害対策として重要な役割を果たしています。
砂防ダムの基本的な役割
①土砂災害の防止
砂防ダムは、山間部で発生した土石流が下流に流れ込むのを食い止める役割を担います。
ダム内に土砂や岩石を溜め込むことで、流下する勢いを抑え、下流にある住宅地や農地への被害を防ぎます。
・住宅地の被害を最小限に抑える
大規模な土石流が発生した場合でも、砂防ダムが勢いを弱め、土砂の流入を制限することで住宅地への影響を軽減します。
とくに山際にある集落や都市部では、砂防ダムの建設が防災対策の要となります。
・荒地化の防止
土石流が谷を流れ下ると植生が失われ、谷沿いが荒地化することがあります。
砂防ダムを設置することで荒地化を防ぎ、二次災害を抑制します。
②土石流の勢いを弱める
土石流がダムに衝突することで、その速度とエネルギーが大幅に低下します。
これにより、土石流が引き起こす破壊力が減少し、下流地域の安全性が確保されます。
解答例
尾根の針葉樹林が保水力に乏しく、集中豪雨土時の土石流で山麓の住宅地が被災した。その際に谷の一部が荒地となり益々土砂災害が発生しやすくなり、被害最小化を目的に砂防ダムが建設された。
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