2023年の東大地理第1問設問B(2)では、「パンジャーブ地方において毎年5月と11月に森林や農地における林野火災の発生が極大となる理由を、この地域で行われている人間活動と関連づけて2行(約60文字)以内で述べよ」という問題が出題されました。
この問題に答えるために、パンジャーブ地方の気候や農業サイクルを理解することが重要です。
この記事では、次の3つの点について詳しく解説します。
- 南アジアの気候の特徴
- パンジャーブ地方の気候
- パンジャーブ地方の農業と野焼き
これらを理解することで、パンジャーブ地方における林野火災の発生が特定の時期に目立つ理由を明らかにしていきます。
資料の読み取り:図1-2
図1-2は、森林や農地で発生する林野火災の分布を示した地図です。
地図中の「B」の地域はインド北西部からパキスタン北東部にまたがるパンジャーブ地方です。
この場所に林野火災が頻発する原因を解き明かすには、パンジャーブ地方の気候と農業サイクルに注目する必要があります。
講義:パンジャーブ地方の気候と農業
パンジャーブ地方の気候や農業の特徴を理解するためには、まず南アジア全体の気候特性を押さえておくことが重要です。
南アジアの気候
南アジアは季節風(モンスーン)の影響を大きく受けており、特に雨季と乾季がはっきりと分かれています。
・夏季(5~10月)
この時期はアラビア海から南西モンスーンが吹き、海洋から湿った空気が運ばれてきます。
このため、南アジアの多くの地域が雨季に入り、大量の降雨が見られます。
特に、西ガーツ山脈やインド北東部のアッサム地方では山脈に沿って湿った風が上昇し、集中豪雨が発生します。
また、インド洋で発生するサイクロン(熱帯低気圧)も、沿岸部にさらに多くの降雨をもたらす要因となります。
・冬季(11月~4月)
冬になると、ヒマラヤ山脈から北東モンスーンが吹き込みます。
この風は乾燥した大陸性の空気を運び、南アジア全体が乾季に入ります。
大陸から吹き込む乾燥した風の影響で広い範囲で降水が少なくなり、乾燥した気候が続きます。
インド北西部およびパキスタン北東部の気候:ステップ気候
パンジャーブ地方を含むインド北西部やパキスタンは、亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響を年中受けやすい地域です。
これにより、パンジャーブ地方はステップ気候(BS気候)に分類されます。
ステップ気候は、砂漠気候(BW気候)の周辺に分布する乾燥した気候帯です。
長い乾季が続く一方で、年に一度の短い雨季があります。
この雨季は南西モンスーンの影響で生じ、短期間のみ降水量が増加します。
パンジャーブ地方の農業の特徴
パンジャーブ地方は、インド北西部からパキスタン北東部にまたがるインダス川中流域の農業地帯です。
古代インダス文明の発祥地でもあります。
ステップ気候(BS気候)に分類され、降水量は少ないものの肥沃な土壌と発達した灌漑設備により豊かな農業が行われています。
パンジャーブ地方では、インダス川や地下水を活用した灌漑設備が長年にわたって整備されてきました。
この灌漑網はイギリス植民地時代にも拡張され、現在でも小麦や綿花などの栽培に欠かせないインフラとなっています。
また、パンジャーブ地方は肥沃な黒土を持つため、穀物栽培に非常に適した地域です。
・主要作物
小麦と米の二毛作が一般的で、乾燥に強い小麦が乾季に、米が雨季に栽培されます。
また、綿花の栽培も盛んです。
・緑の革命
1960年代以降、パンジャーブ地方では「緑の革命」と呼ばれる農業技術の革新により高収量品種や灌漑設備、化学肥料・農薬が導入されて穀物生産が飛躍的に増加しました。
パンジャーブ地方の農業サイクルと林野火災の発生
パンジャーブ地方では、5月に小麦、11月に米の収穫期が訪れます。
これらの収穫期の後、次の栽培期に備えるために残った麦わらや稲わらが処分されます。
この地域では、収穫後の麦わらや稲わらの焼却処分(野焼き)が広く行われており、これが5月と11月に林野火災が頻発する主な原因とされています。
・5月(小麦の収穫期)
乾季の終わりに小麦が収穫され、残った麦わらを処理するために野焼きが行われます。
この時期は乾燥しており、火が広がりやすい条件が整っています。
・11月(米の収穫期)
米の収穫後も同様に、稲わらの野焼きが行われます。
冬季の乾燥した気候により、火災のリスクが高まります。
野焼きの延焼は周辺の森林や他の農地にまで火が広がる林野火災の原因となっています。
この時期には煙による大気汚染も発生し、深刻な環境問題となっています。
解答例
5月に小麦を、11月に米を収穫した際に発生するわらを焼却処分するための野焼きの延焼が原因で林野火災が頻発するから。
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