2023年の東大地理第1問設問A(2)では、「人新世の開始時期を18世紀後半とする意見が依拠した人間活動と証拠」について2行(約60文字)以内で説明する問題が出題されました。
この記事では、背景知識として以下の重要なポイントを解説し、人新世と産業革命の関係について理解を深めます。
- 産業革命が地球環境に与えた影響
- 大気汚染の原因と影響
- 酸性雨の原因と影響
- 地球温暖化の原因と影響
講義:産業革命の環境への影響
産業革命と化石燃料の消費増大
産業革命は18世紀後半にイギリスで始まり、欧米各地に広がりました。
この革命は蒸気機関の発明を契機とし、綿工業における手工業が工場制機械工業へと移行する技術革新を指します。綿工業だけでなく、鉄鋼業や機械工業、さらには鉄道や蒸気船などの交通機関の発展も見られました。
この一連の技術発展は人類の経済活動を飛躍的に拡大させ、社会全体の生活水準を向上させました。
しかし、この発展に伴って石炭や石油といった化石燃料の消費量が急増しました。
化石燃料の大量消費は地球環境に大きな影響を及ぼすことになります。
また、産業革命後は食糧やエネルギーの増産を目的として持続可能でないペースでの耕作、灌漑、放牧、森林伐採などが行われるようになり、環境破壊が進むようになりました。
このような変化は後の大気汚染、酸性雨、地球温暖化といった多くの環境問題の出発点として考えられています。
大気汚染
大気汚染は、大気中の微細な粒子や有害な気体成分が人間の健康を脅かすほどに増加する現象です。
大気汚染は特定の地域にとどまらず、国境を越えて広がるため世界的な環境問題として注目されています。
その背景には産業革命以降の化石燃料消費量の増加があります。
化石燃料の燃焼によって大気中の窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素の濃度が急速に上昇しました。
硫黄酸化物は主に火力発電所や工場の排煙から発生し、窒素酸化物は自動車の排気ガスから多く排出されます。
経済発展を急ぐ新興国の都市では特に深刻な問題で、これが多くの人々に喘息などの健康被害をもたらしています。
また、都市部では光化学スモッグが発生します。
これは自動車や工場からの排ガスが紫外線と反応し、有害物質を生成してスモッグを生じさせる現象です。
光化学スモッグは目やのどの痛みといった急性の健康被害を引き起こし、越境大気汚染の原因としても問題視されています。
酸性雨
酸性雨は、pH5.6を下回る酸性度の高い雨や雪を指します。
酸性雨は、化石燃料の燃焼によって生じる硫黄酸化物や窒素酸化物が大気中の水蒸気と反応して硫酸イオンや硝酸イオンを生成し、これらが雨滴に溶け込むことで発生します。
この酸性の雨は生態系を中心に、さまざまな被害をもたらします。
・湖沼の魚類の死滅や生態系の破壊が発生し、淡水の生態系が大きな打撃を受けます。
・森林の枯死も深刻で、樹木が酸性雨によって栄養を失い、弱体化して枯れることがあります。
・大理石や青銅製の歴史的建造物が酸性雨によって溶解や腐食の被害を受けます。
・土壌の酸化により農作物の生育が妨げられ、農業生産に悪影響をもたらします。
酸性雨の被害は、特に北東ヨーロッパや北アメリカ大陸の五大湖沿岸地域で顕著です。
また、石炭を多く消費する中国などでも問題が深刻化しています。
さらに、酸性雨の原因物質は風で運ばれることがあり、越境汚染として他国にも影響を及ぼすことがあります。
このため、酸性雨は国際的な協力で解決することが必要な環境問題として認識されています。
地球温暖化
地球温暖化は、化石燃料の大量消費に伴って大気中の二酸化炭素やメタン、フロン類などの温室効果ガスが急速に増加し、その濃度が上昇することで生じます。
これにより地球から放射される赤外線(熱エネルギー)が温室効果ガスに吸収されて再び地表に戻されるため、宇宙空間への熱の放出が妨げられます。
この過程が温室効果と呼ばれ、地球の表面温度が上昇する原因となります。
温室効果ガスの増加によって気温の上昇が引き起こされ、様々な環境問題が顕在化します。
具体的には、以下のような問題が代表例として挙げられます。
・氷河の縮小・後退や海水温の上昇による海面の膨張がもたらす海面上昇
・海面上昇を原因とする低地の洪水リスクや島国の水没リスクの増大
・サンゴ礁の死滅などの海洋生態系への影響とそれによる水産資源の減少
・異常気象の頻度増加による干ばつなどの増加
・台風やハリケーンなどの勢力が強まることによる被害の拡大
・積雪面積の減少による生態系や水資源への影響
地球温暖化は気候や自然環境、さらには経済活動や社会基盤にも影響を及ぼす大きな問題です。
解答例
イギリスで起こった産業革命をきっかけに化石燃料の消費量が増加し、二酸化炭素などの排出量が増加した痕跡が地層中に残った。
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