2024年の東大地理第3問設問B(2)では、ロサンゼルスでの地下鉄開業が他の欧米大都市と比べてなぜ遅れたのかを2行(約60文字)で説明する問題が出題されました。
この記事では、アメリカの交通の特徴を理解するための次の重要なポイントについて詳しく解説します。
- アメリカの自動車交通の特徴
- アメリカの鉄道輸送の特徴
- アメリカの船舶輸送の特徴
- アメリカの航空機輸送の特徴
講義:アメリカの交通の特徴
アメリカ合衆国は広大な国土をもつため、移動や物流を支える交通手段が発達しています。
自動車、鉄道、船舶、航空のそれぞれが特性に応じて重要な役割を担っており、アメリカの都市構造や経済に大きな影響を与えています。
ここでは、アメリカの交通の特徴を主要な手段ごとに詳しく解説します。
自動車
アメリカのモータリゼーションは、20世紀初頭から始まりました。
特に1920年代以降、T型フォードのような大量生産の車両が一般家庭にも普及して広範囲に自動車が行き交うようになりました。
これに伴い、高速道路網であるインターステート・ハイウェイ・システムが1956年に連邦政府主導で構築され、都市間交通を支える重要なインフラへと成長しました。
こうして自動車の利用が広く普及し、生活や社会のなかで自動車への依存が高まりました。
自動車普及と都市構造への影響
アメリカは他の先進国と比べても自動車保有率が非常に高く、都市構造や生活スタイルにも影響を与えています。
特に以下のような特徴が挙げられます。
・道路網の整備
都市間の幹線道路や主要都市を結ぶ高速道路の整備が進み、全国的なアクセスが向上しました。
・都市の郊外化
広大な土地と自動車の普及により郊外にも住宅地が広がり、特に中高所得者層が郊外に移り住む傾向にあります。
また、企業や商業施設も郊外に立地するケースが増えました。
・大型商業施設の普及
自動車で大量の荷物を運べるためまとめ買いが主流となり、郊外型の大型ショッピングモールが発展しています。
課題と対策
自動車交通が主流となることで都市部では交通渋滞が深刻化し、大気汚染や交通事故の増加といった問題が顕著です。
近年は公共交通機関の充実やエコカー(低公害車)の普及が進められ、環境負荷の軽減が図られています。
鉄道
アメリカは鉄道での貨物輸送が盛んで、国内の物流を支える重要なインフラとして発展してきました。
アメリカは国土が広大で地形が比較的平坦であるため、重量や容積の大きい貨物の長距離輸送に適しています。
鉄道は特に東西間や内陸部での長距離輸送において輸送コストや効率の面で優れているため、現在でも主要な貨物輸送手段として活躍しています。
鉄道貨物輸送の特徴と役割
アメリカ国内では、石炭などの鉱産資源や穀物などの農産物などが鉄道で大量に輸送されています。
19世紀の鉄道網の整備以来、鉄道はアメリカの農業や鉱業の発展に欠かせない輸送手段となり現在も国内全域にわたる鉄道網が機能しています。
鉄道による大量かつ長距離の輸送はコスト効率が高く、アメリカの経済活動の効率化にも大きく貢献しています。
旅客輸送の低迷とその理由
広大な国土をもつアメリカでは、近距離移動には自動車、長距離移動には航空機が主に利用されるため鉄道の旅客輸送の利用は少なくなっています。
日本やヨーロッパ諸国と異なり、アメリカでは自動車業界や航空業界の政治的抵抗もあって高速鉄道の建設が進まず、ほとんど普及していません。
このような背景から、アメリカの都市部でも鉄道を中心とした公共交通機関の整備が進まず、都心部に地下鉄が必要とされるケースは限られていました。
ロサンゼルスでの地下鉄開業の背景
自動車が主流のアメリカですが、移民の流入や人口増加によりロサンゼルスのような大都市ではマイカー以外の交通手段の需要が高まってきました。
例えば1993年にロサンゼルスで地下鉄が開業し、一定の需要を得ています。
とはいえ、他の先進国の大都市と比べて鉄道の利用率は低いままです。
船舶
アメリカは三方を海に囲まれており、豊富な海上輸送網を活用する海洋国家です。
船舶による輸送は、国際貿易と国内物流の両面でアメリカ経済を支える重要な手段となっています。
西海岸のロサンゼルス港やロングビーチ港、東海岸のニューヨーク・ニュージャージー港、南部のヒューストン港などは、アメリカを代表する主要港として国際貿易のハブとなっています。
アメリカの主要港湾と国際貿易
ロサンゼルス港とロングビーチ港は特に中国や日本などアジア諸国との貿易拠点として重要で、アメリカにおける輸入品の大部分がここを経由します。
また、東海岸のニューヨーク・ニュージャージー港はヨーロッパとの貿易において中心的な役割を担い、南部のヒューストン港はメキシコ湾に面し、中南米との物流を支える拠点です。
これらの港はアメリカと世界各地を結ぶ国際物流の要となり、膨大な量のコンテナ船が行き交っています。
国内輸送における船舶の役割
アメリカ国内の物流にも船舶は欠かせません。
特に、ミシシッピ川流域を中心にした河川輸送が盛んで、内陸部から穀物や鉱産資源をメキシコ湾沿岸に運ぶために利用されています。
この河川輸送は大量輸送が可能であることからコスト面でも優れており、アメリカ内陸部の産業と輸出港を結ぶ重要なルートです。
こうした広大な内陸水路網の整備は、アメリカならではの輸送手段といえます。
航空
アメリカは世界でも航空網が非常に発達している国であり、国内の長距離移動や物流において航空便が大きな役割を果たしています。
広大な国土を持つアメリカでは、例えばニューヨークからロサンゼルスまでの距離が約4000キロメートルに及ぶため、都市間の移動や輸送に飛行機が不可欠な手段とされています。
主要都市間では複数の航空会社が頻繁に便を運航しており、移動手段として航空機を日常的に利用する人も多いのが特徴です。
国内航空網の発達と頻繁な運航
アメリカの国内線は非常に充実しており、全国各地に張り巡らされた航空網が大都市間のアクセスを支えています。複数の航空会社が各都市間で競争を繰り広げ、頻繁な便数が提供されているためアメリカ国内における航空機での移動は非常に利便性が高いです。
これにより、ビジネスや観光、物流など多様な分野で航空機が主要な移動手段として利用されています。
貨物航空分野でのリーダーシップ
アメリカは貨物航空の分野でも世界をリードしており、高付加価値製品や緊急性の高い貨物の輸送において航空機が重要な役割を果たしています。
特に半導体や医療機器、ハイテク製品などの輸送は航空機による迅速な移動が求められ、国際的にもアメリカの航空貨物業は高い競争力を持っています。
国内物流網の中でも航空輸送は高い効率を誇り、アメリカ経済の円滑な流通を支える重要なインフラとなっています。
解答例
モータリゼーションの進展に伴い高速道路などの道路網の整備や都市の郊外化が進み、都市機能が分散している都市だったから。
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