2024年の東大地理第3問設問B(1)では、地下鉄開業当時の東京と大阪での都市交通の問題について2行(約60文字)で説明させる問題が出題されました。
その際、「路面電車」「密度」の2語を用いることが求められました。
この記事では、当時の都市交通の課題を理解するための次の重要なポイントについて詳しく解説します。
- 鉄道と自動車交通の基本的特徴
- 東京・大阪の都市交通の現状
- 明治~昭和初期における都市化と鉄道整備
- 高度経済成長期のモータリゼーションとその影響
- 環境問題に対応した現代の都市交通施策
これらを学ぶことで都市交通の変遷と課題について理解を深め、特に地下鉄開業当時の状況に焦点を当てていきましょう。
講義:東京や大阪の都市交通
1:鉄道と自動車交通の基本的特徴
鉄道輸送
鉄道輸送は長距離・大量輸送、高速輸送に優れており、特に都市部における定時性を活かした移動手段として重要です。
具体的には次のような特徴があります。
- 定時輸送:渋滞が発生しにくく、ほぼ時間通りに運行するため、定刻通りの移動が可能です。
- 大量輸送:多くの乗客を短時間で輸送できるため、都市部の通勤や通学に適しています。
- 経済的効率:長距離の移動であっても運賃が安価に抑えられるため、日常的な大量移動に適応します。
- 天候の影響が少ない:屋根付きの路線や地下路線が多いため、天候に影響されにくい点も魅力です。
ただし鉄道の敷設には多額の初期投資が必要であり、地形制約も大きく、路線が固定されているため柔軟性には欠けます。
また、ドアツードアの移動には適さず、駅から目的地までのアクセスに別の移動手段が必要となる場合も多いです。
自動車交通の特徴
自動車交通は鉄道に比べて小資本で整備が可能であり、地形に制約されにくく、以下の点で柔軟な移動手段です。
- ドアツードア輸送:目的地まで直接移動ができるため、利用者の利便性が高いです。
- 弾力性:自由なルート設定が可能であり、時間帯や目的に応じてフレキシブルに利用できます。
しかし都市部においては、以下のような欠点・課題もあります。
- 道路渋滞などにより定時性が鉄道に比べて劣ります。
- 駐車スペースが不足しがちです。
- 交通事故の原因となります。
- 自動車の排気ガスが大気汚染の原因となります。
2:東京・大阪の都市交通の現状
東京や大阪などの大都市圏では公共交通機関が広く発展しており、鉄道が旅客輸送の中心的役割を担っています。
通勤・通学のほか大都市間の移動においても鉄道が大きく活用されています。
ここでは、東京・大阪の都市交通の特徴について見ていきます。
鉄道への高い依存度
東京や大阪では都市圏内の移動手段として鉄道が大きな役割を果たしています。
通勤・通学の利便性向上のために地下鉄網の整備が進み、都市圏内の鉄道利用が非常に高い水準にあります。
東京・大阪間や東京・名古屋間をはじめとした主要都市間の移動には新幹線が頻繁に利用され、時間の効率化に寄与しています。
このような鉄道中心の交通体系によって、日本は世界の他の先進国と比べて旅客輸送における鉄道の割合が高くなっています。
高架鉄道による渋滞解消
都市部での交通量増加や安全性の向上を背景に、高架鉄道の整備が進められてきました。
高架鉄道により鉄道と道路が立体交差することで踏切渋滞が解消され、通勤・通学の円滑化が図られています。
自動車交通の多さとその影響
東京・大阪では鉄道が主な輸送手段である一方、経済規模の大きさから自動車による旅客・貨物輸送も依然として多く、交通量が非常に多い状況が続いています。
通勤・通学ラッシュや交通渋滞の発生とその影響
東京・大阪の大都市圏では、特に通勤・通学ラッシュが激しく、満員電車による混雑が常態化しています。
また、自動車の渋滞も常態化しています。
これらによるストレスの通勤・通学者の健康への悪影響が懸念されています。
労働生産性や生活の質に関する課題として取り上げられることも多く、通勤・通学の混雑緩和に向けた様々な取り組みが求められています。
また、自動車の渋滞は大気汚染や騒音の増加といった環境問題を引き起こしています。
3:明治から昭和初期にかけての都市化と鉄道整備
蒸気機関車の登場と鉄道網の拡大
日本の鉄道整備は明治時代に始まりました。
蒸気機関車の導入によって都市間の長距離移動が飛躍的に改善され、全国の主要都市間での往来が可能になりました。
1890年頃には東海道線の新橋・神戸間や日本鉄道の上野・青森間が全通し、江戸時代には10~15日かかっていた東京・大阪間の移動時間が約20時間に短縮されました。
このような鉄道網の整備により産業の集積や労働力の流動が加速し、物資の流通も迅速化して日本の経済はより活性化しました。
また、都市間の交流が促進され文化や情報が広範囲で共有されるようになったことで、日本の近代化が大きく進展しました。
都市内交通の発展と市街電車の導入
1890年代から1900年代にかけて、日本の大都市では市街電車(路面電車)が導入されて都市内交通の中核を担いました。
市街電車は当時の主要な交通手段として多くの都市住民の日常移動を支えました。
電車の導入により都市部の移動は効率化され、都市の成長とともに発展していきました。
都市化と地下鉄の整備
大正から昭和初期にかけて東京や大阪では急速に都市化が進み、人口増加に伴い大都市圏の住宅地が郊外へと広がりました。
これにより、郊外と都市部を結ぶ鉄道の需要が一層高まりました。
しかし、増大する通勤・通学需要に対して市街電車(路面電車)の輸送力は限界を迎えていました。
人口密度の高い都市部での交通需要の急増により、路面電車だけでは十分な輸送力を提供することが難しくなっていったのです。
こうした背景のもと、東京・大阪では地下鉄の整備が進みました。
地下鉄は地上交通の混雑を避け、路面電車を補完する大量輸送手段として大都市圏の通勤・通学輸送の基盤となりました。
この新たな大量輸送手段の導入により、路面電車では対応しきれなかった需要にも対応できるようになりました。
このようにして、地下鉄は都市の発展とともに進んだ交通整備の一環として都市部と郊外の結びつきを強化する役割を担うようになりました。
地価高騰と地下鉄利用の拡大
東京や大阪などの都市部では都市化と人口密度の上昇により土地や住宅の需要が増加し、地価が高騰しました。
この結果、地上に新たな鉄道網を整備することが困難となり、代わりに地下空間の利用が進められるようになりました。
地下鉄はこのような都市の課題に応える形で発展し、都市部の交通インフラとして不可欠な役割を担うようになりました。
地下の活用は交通インフラの一部としてだけでなく、限られた都市空間を効率よく利用するための戦略でもあり、地下鉄は都市の持続的な発展に寄与する重要な柱となったのです。
4:高度経済成長期のモータリゼーションとその影響
関東大震災と自動車普及の契機
東京における自動車の普及が本格化したのは、1923年の関東大震災がきっかけでした。
この災害で鉄道網が壊滅的な被害を受けた際、アメリカから輸入されたT型フォードをベースにしたバスが活躍し、自動車が鉄道の代替輸送手段として重要な役割を果たしました。
これを契機に、日本で自動車利用が広がり始めました。
モータリゼーションの進展
高度経済成長期以降、日本では戸口輸送が可能な自動車の普及が急速に進みました。
自動車は鉄道とは異なり柔軟なルート設定が可能で、特に個人利用や小規模配送に適していたことから、都心から郊外に至るまで利用が拡大しました。
この時期、道路の舗装率が向上するとともに高速道路や主要道路のインフラ整備が進んだため、都市間や長距離輸送にも対応できるようになりました。
さらに、半導体や精密機器といった小型貨物の輸送にも自動車が適しており、この流れにより宅配便事業が急成長を遂げました。
自動車は経済活動を支え、日常生活の利便性も飛躍的に向上させました。
自動車普及による影響と課題
高度経済成長期以降のモータリゼーションの進展により、都市部では自動車の急増が引き起こす諸問題が顕著となりました。
以下にその主な影響と課題を示します。
①交通渋滞と輸送効率の低下
自動車台数が急増するとともに都市部では交通渋滞が深刻化し、輸送効率が低下しました。
渋滞の影響で移動時間が長くなり、定時性が欠如することで都市の交通機能が損なわれました。
②交通事故の増加と駐車場不足
交通量の増加に伴い、交通事故の発生率が上昇しました。
また、特に市街地では駐車場不足も顕在化し、違法駐車が道路を圧迫するなど都市の生活環境にも悪影響を及ぼしました。
③公害問題
自動車からの排気ガスには一酸化炭素や窒素酸化物などの大気汚染物質が多く含まれており、騒音や振動とともに深刻な公害を引き起こしました。
これにより都市部では大気汚染が進み、住民の健康や生活の質に悪影響を及ぼしました。
④路面電車の撤去
自動車の増加による渋滞により多くの都市で路面電車の運行が困難になり、撤去されるケースが増えました。
かつて都市における交通の主力だった路面電車は自動車社会への転換とともに姿を消し、都市交通の形態も大きく変わることとなりました。
5:現代の課題~環境対応とモーダルシフト~
近年、都市交通の持続可能性を高めるために自動車から鉄道や路面電車へのモーダルシフトが求められています。
モーダルシフトとは、エネルギー効率が高く環境負荷が小さい輸送手段への転換を促進する取り組みです。
鉄道は自動車に比べて長距離・大量・高速輸送が可能で二酸化炭素の排出量が少ないため、地球温暖化対策としても重要視されています。
このため、鉄道利用が再評価されているのです。
路面電車の再評価とLRTの導入
環境負荷が小さく、都市内での移動手段として手軽に利用できる路面電車も近年再評価されています。
特に次世代型路面電車システムである「LRT(ライトレール・トランジット)」は、専用軌道を持つため自動車の渋滞に巻き込まれることなく、大量の乗客を効率的に輸送可能です。
また、LRTは乗降しやすい低床設計が進められており、高齢者や幼児にとっても利用しやすいバリアフリーな交通手段となっています。
LRTは既に地方都市を中心に導入が進んでおり、東京でも導入が検討されています。
解答例
都市化の進展で人口密度が上昇し路面電車より輸送力のある輸送機関が必要となり、地上の鉄道敷設用地確保も困難となった。
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