2024年の東大地理第3問設問Aでは、アメリカ合衆国南部の代表的な港湾・工業都市であるニューオーリンズについての問題が出題されました。
この記事では、主に次のポイントについて解説します。
- ニューオーリンズの立地
- ニューオーリンズの歴史
- ニューオーリンズの産業
- ニューオーリンズの文化
これらの内容を通じて、ニューオーリンズの都市的特徴や背景について学び、地理的知識を深めていきましょう。
資料の読み取り:表3-1ハリケーンによる被害の状況
表3-1に示されているハリケーン被害状況のデータを読み解くと、ハリケーンが直撃した直後の自宅浸水人口と、1週間後においても依然浸水状態が続いている自宅人口の割合を比較した際、黒人の被災宅の多くが長期にわたって浸水被害を受けていたことが分かります。
これは、黒人住民の多くが家賃の安価な低平地に居住していたためと推察されます。
このような低地は排水が悪く、浸水後も水が引きにくい傾向にあります。
講義
1:ニューオーリンズの立地
ニューオーリンズはアメリカ南部のルイジアナ州に位置し、メキシコ湾に注ぐミシシッピ川の河口に広がる港湾都市です。
ミシシッピ川が流域から運んできた土砂が堆積してできた鳥趾状三角州に発達しており、自然堤防の上に市街地が形成されています。
この立地によりミシシッピ川を活用した内陸水運の要衝となり、物流拠点として発展してきました。
アメリカ中西部の穀物や農産物がこの川を通じて運ばれ、ニューオーリンズで輸出されるため貯蔵地や積出港としての役割を果たしています。
2:ニューオーリンズの歴史と産業の発展
ニューオーリンズはもともとフランスの入植者によって築かれましたが、後にスペイン、アメリカへと統治者が変わりました。
1803年のルイジアナ買収によりアメリカ合衆国の一部となった後、ミシシッピ川流域で生産される綿花や穀物などの輸出拠点として急速に発展しました。
イギリスの産業革命以降は西アフリカから多数の黒人奴隷を連行して酷使し、イギリス綿工業の原料供給地として発展しました。
20世紀以降はメキシコ湾での石油産業が発展し、石油精製や石油化学工業の拠点ともなりました。
このように農産物輸出から石油産業へと経済基盤を多様化し、アメリカ南部を代表する工業都市へと変貌を遂げています。
3:ニューオーリンズの文化的多様性
ニューオーリンズはフランス、スペイン、アメリカの文化が交錯するユニークな歴史を持ち、さらにアフリカ系住民の音楽や食文化も融合した多文化共存の都市として知られています。
西洋音楽とアフリカ音楽の融合によってジャズが誕生した地としても有名で、音楽や芸術の盛んな地域です。
こうした特色の文化が観光資源となり、世界中から観光客を引き寄せています。
4:ニューオーリンズにおける近年の災害と環境問題
ニューオーリンズは低湿地帯に位置し、洪水や地盤沈下のリスクが高い地域です。
特に2005年のハリケーン・カトリーナでは高潮により堤防が決壊し、市内の広範囲が浸水しました。
所得水準の低い多くの黒人が居住する低平地は水が引くまでに時間を要し、被害が長引く要因となりました。
近年、気候変動による海面上昇やハリケーンの頻発により、防災対策が一層重要となっています。
また、ミシシッピ川の水位低下が物流に影響を与えるほか、海水の逆流による水質悪化も懸念されており、都市機能や観光業にも打撃を与える可能性が指摘されています。
これらの課題に対処するため、ニューオーリンズは災害対策やインフラ整備を進めていますが、依然として脆弱性が残っているのが現状です。
解答例
(1)ニューオーリンズ
(2)アーミシシッピ、イー三角州、ウー自然堤防
(3)流域で生産される穀物や綿花の貯蔵地や積出港となったから。(28文字)
(4)
所得水準が低い黒人の居住地は地価が低く洪水のリスクが高い地域がほとんどであり、高潮による水没被害が大規模だった。(56文字)
(5)
内陸水路交通が阻害されて農産物が集積せず、港湾都市としての機能が低下する。また、工業用水の取得にも支障をきたす。(56文字)