【東大地理2024】アメリカ合衆国と日本の1980年代以降の人口変化率の推移の差異とその背景|第2問設問B(4)

東大地理2024第2問設問B(4)アメリカ合衆国と日本の1980年代以降における人口変化率の推移の差異とその背景 地理

2024年の東大地理第2問設問B(4)では、アメリカ合衆国と日本の1980年代以降の人口変化率の推移にみられる差異とその背景を2行(約60字)以内で説明する問題が出題されました。

この記事では、主に次のポイントについて解説します。

  • 日本の少子高齢化とその背景
  • アメリカ合衆国の移民政策による人口変動の安定化

この記事では、日本とアメリカの人口動態の違いやその社会的背景について詳しく解説します。

執 筆 者
諏訪孝明

東京大学経済学部卒
1浪・東大模試全てE判定・センター7割台の崖っぷちから世9割、日8割、数2割で文科Ⅱ類に合格。
これまでに1000人以上の受験生を指導。 
直近2年で偏差値70超の学校への合格率が90%を超えている。

諏訪孝明をフォローする
公式LINEでは、国公立大学2次試験の世界史・日本史・地理の論述を攻略するために必須な超有益情報を発信しています。ぜひ友達追加してください!

資料の読み取り

表2-1では、2020年時点で人口が1億人を超える世界14カ国の2020年の人口規模(A:10億人以上、B:2億~3億人台、C:1億人台)と、1960年から2020年までの20年ごとの人口変化率が示されています。
この表から、以下のように読み取れます。

サ国・セ国の特定

以下の推論により、「サ国」はアメリカ合衆国、「セ国」は日本と判断できます。

サ国

  • 人口規模:B=2億~3億人台。候補はアメリカ合衆国、インドネシア、パキスタン、ナイジェリア、ブラジル。
  • 2000~2020年の人口変化率:サ国は人口規模がBの国のなかで2000~2020年の人口変化率が最も低い。
  • 人口変化率が低い国は先進国と考えられるため、サ国は経済的に発展しているアメリカ合衆国と特定できる。

セ国

・2000~2020年の人口変化率がマイナス:年々人口が減少している特徴に当てはまる国は日本。

講義

日本の人口変化率とその背景

1:戦後から高度経済成長期にかけての人口変動

  • 1945年〜1946年:戦後直後の混乱期には出産を控える家庭が多く、出生率が低迷。
  • 1947年〜1949年:第一次ベビーブームが到来。
    戦争が終わり復員した男性が家庭に戻ることで多数の子どもが生まれました。
    彼らは団塊の世代と呼ばれています。
  • 1960年代後半:人口が1億人を突破。
  • 1966年:「丙午(ひのえうま)」の迷信の影響で出生数が一時的に減少。
    「丙午(ひのえうま)」の迷信とは、「丙午の年に生まれた女性は気性が激しく夫を不幸にする」というものです。
  • 1971年〜1974年:第二次ベビーブーム。団塊の世代が出産適齢期に達し、出生数が再度増加。

2:少子化と人口減少

高度経済成長期以降、合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の平均数)が急速に低下し、先進国の中でも極めて低い水準になりました。

その結果少子高齢化が急速に進み、2015年には人口がマイナスに転じて人口減少社会へ突入しました。

3:少子化が進む要因

①生活水準と教育費の上昇
経済成長による生活水準の向上と高等教育の普及に伴い、子ども一人当たりの教育費や育児費用が増加しました。
このため、家庭の豊かな生活を維持するために「子どもを持たない」あるいは「少ない人数にとどめる」という選択をする夫婦が増加しています。

②女性の高学歴化と社会進出
高等教育を受ける女性が増えるに伴い、キャリア志向が高まって結婚や出産に対する価値観が変化しました。
女性たちが仕事において自己実現を図る一方で家庭と仕事の両立が難しい状況が続いており、その結果、結婚や出産をためらう傾向が強まっています。
こうした背景から晩婚化・非婚化が進み、さらに既婚女性の出生率低下にもつながっています。

③家族構成の変化と核家族化
核家族化が進展するなかで、育児の負担が主に母親に集中する傾向が強まっています。
従来の大家族では祖父母や親族も子育てを支える役割を果たしていましたが、核家族ではこれが難しくなり、母親が抱える育児負担が増大しています。
この状況が出産や育児に対する心理的・物理的な負担感を増幅させ、子どもの数を減らす一因となっています。

④雇用の不安定化
若者の雇用が不安定化するなかで、収入面の不安から結婚や子育てに慎重になる傾向が強まっています。
特に非正規雇用の増加や低賃金労働の広がりが安定した生活基盤の確立を難しくし、結婚や出産に対して心理的な障壁となっています。

⑤子育て支援の不備
日本では子育てを支援する環境の整備が遅れており、共働き夫婦にとって子どもを持つことが困難な状況が続いています。
仕事と育児を両立しやすい制度の整備が進んでいないため、保育施設の不足や柔軟な勤務制度の欠如が課題となっています。
これにより、多くの夫婦が子どもを持つことをためらう傾向が強まり、少子化の進行に拍車をかけています。

4:少子高齢化による社会的影響と課題

少子化と医療技術の進展によって高齢化も生じています。
高齢化とは、全人口に占める高齢者人口の割合が増加することです。
これは生産年齢人口(15~64歳)の割合が低下することを意味します。
それにより、以下のような社会問題の発生が危惧されています。

①労働人口の減少
少子化が進むことで将来的な労働力人口が減少し、労働力不足が深刻化することが予想されています。
また、消費者数の減少によって国内市場の規模が縮小し企業の売上や利益も落ち込みやすくなるため、経済全体の成長が停滞するリスクが高まります。

②社会保障費の増加
少子高齢化によって税金や年金を負担する若年層が減少する一方で高齢者の割合が増加するため、医療・介護・年金などの社会保障費が増大します。
これにより政府や自治体の税収が追いつかず、高齢者を支えるための財源が不足して財政の悪化が深刻化するリスクが高まっています。

③社会保障費の負担増による悪循環
高齢者の年金や医療サービスを維持するために増税や社会保険料の引き上げが必要となり、労働者の負担が増加しています。
この負担増が家計を圧迫し、経済的理由から結婚や出産をためらう人が増えることで少子化が進行する悪循環が生じています。

5:解決策と将来の展望

①女性が出産・育児しやすい環境整備
出生率の上昇には、女性が仕事を続けながら出産・育児できる環境を整えることが不可欠です。
具体的には、育児休暇制度の充実、休業中の所得補償、保育施設の拡充、そして男女が育児や家事を平等に分担できる仕組みの推進が求められます。
また、ジェンダー格差の是正やワークライフバランスの実現により、女性が社会生活で不利にならない制度を整えることも重要です。

②経済支援と教育費負担の軽減
子育て世帯への経済支援として、育児手当の支給や家族構成に応じた税制優遇、さらに教育費に対する政府負担割合の増加が重要です。
特に子どもを育てる家庭が経済的に安定し、子どもを持つことで生活が向上するような政策が求められます。
政府が子育てや教育における費用負担を軽減することで安心して子育てができる環境が整い、少子化対策にも効果をもたらします。

アメリカ合衆国の人口変化率とその背景

アメリカでは移民の積極的な受け入れによって人口の社会増加がみられます。
特に若い世代の移民が多く、子どもを産む年齢層の人口割合が高いことから全体的な出生率も維持されています。
移民の中でも、ヒスパニック系の出生率が高いことが全体の出生率を底上げする要因となっています。
カトリック教徒が多いヒスパニック層は、生命を神聖視する教義の影響から人口抑制に否定的であることも出生率の低下を緩やかにする要因です。
このように、アメリカは日本やヨーロッパ諸国に比べ高齢化の進行が緩やかで、一定の人口増加率を維持しています。

解答例

サ国は若い世代の移民が多いため人口増加率があまり低下せず、セ国は少子高齢化で人口変化率が大きく低下しマイナスとなった。
(59文字)

タイトルとURLをコピーしました