2024年の東大地理第2問設問B(1)(2)では、ナイジェリアの人口変化率や人口と経済に関わる社会状況の推移に関する問題が出題されました。
特に設問(2)では、1980年以降のナイジェリアの人口変化率と、人口と経済に関わる社会状況について、インドネシアやブラジルと比較しながら「経済発展」「生活水準」の2語を用いて3行(約90字)以内で説明する問題が出題されました。
この問題を解くには、ナイジェリアの経済構造と人口動態についての理解に加え、新興国の経済と人口変化に関する知識が必要です。
この記事では、次のポイントについて解説します。
- ナイジェリアの人口と経済に関わる社会状況
- 新興国の人口と経済に関わる社会状況
- 経済・社会の構造が人口増加率に与える影響
これらを理解することで、人口増加における経済発展と生活水準の関わりを整理できるようになります。
ぜひ最後までご覧ください。
資料の読み取り
表2-1では、2020年時点で人口が1億人を超える世界14カ国の2020年の人口規模(A:10億人以上、B:2億~3億人台、C:1億人台)と、1960年から2020年までの20年ごとの人口変化率が示されています。
この表から、以下のように読み取れます。
ア、イ、ウ
- 特徴:これらの国の人口増加率は非常に高く、人口爆発とよばれる現象が生じている。
- 推定:アフリカ大陸は人口増加率が非常に高いため、アフリカ大陸にある国と考えられる。
- また、ア~ウのなかで唯一人口規模がBのイはナイジェリアであると考えられる。
ケ、コ
- 特徴:ケとコの国の人口規模は2億~3億人台
- 候補国:アメリカ合衆国、インドネシア、パキスタン、ナイジェリア、ブラジル
- 人口増加率の順位:イ>エ>ケ>コ>サ
- この順位から、イがナイジェリア、エがパキスタン、サがアメリカ合衆国と推測できます。
- 人口増加率は発展途上国で高く、先進国で低くなっているからです。
残るケとコはインドネシアとブラジルですが、この設問ではどちらがインドネシアでどちらがブラジルかを判断する必要はありません。
講義
ナイジェリアの人口と経済に関わる社会状況
ナイジェリアは人口約2億2920万人を抱えるアフリカ最大の人口大国で、急速な人口増加が続いています。
この背景には、高い出生率を維持したまま医療の進展や衛生環境の改善によって死亡率(特に乳幼児死亡率)が低下し、いわゆる「人口爆発」が進行していることがあります。
これは20世紀後半から発展途上国、とりわけアフリカ地域で顕著に見られる現象です。
高い出生率の背景
ナイジェリアは合計特殊出生率が高いです。
これは1人の女性が一生に産む子どもの平均数が多いことを示します。
以下はその要因です。
前提:ナイジェリアの経済状況
ナイジェリアは依然として石油依存のモノカルチャー経済が続き、資源輸出に大きく頼っています。
この経済構造により多様な産業が育たず、工業化も進んでいないため経済発展のスピードが遅れています。
そのため農村社会が依然として経済の中心を占めており、生活水準の向上も進んでいません。
貧困層が多く国民全体の生活水準が非常に低い状態が続いているため、経済的な自立性や国際競争力のある産業を育成することが課題となっています。
①農村社会と労働力としての子ども
農業を中心とした労働集約型の産業が主流で、子どもは家計を支える貴重な労働力とみなされています。
②未整備な社会保障制度
社会保障が整っていないため親は子どもに老後の生活を支えてもらうことを期待する傾向が強く、多くの子どもを持つことが望まれます。
③医療衛生環境の不備
十分な医療サービスが行き渡らず乳幼児死亡率が依然として高いため、子どもをたくさん産む傾向が続いています。
家族計画の浸透の難しさ
ナイジェリアでは「家族計画」(出産を計画的に行い、家庭の経済的安定や人口抑制を目指す政策)が十分に浸透していません。
これは、女性の教育水準や識字率の低さ、社会的地位の低さが主な原因です。
出産に関する自己決定権が制限されており、女性が出産の時期や子どもの数について意思を反映することが困難な状況です。
持続可能な人口抑制のための対策
出生率の抑制には、以下のような取り組みが求められます。
①貧困の解消と母子保健の整備
乳幼児死亡率を下げることで、出生率を抑制することができます。
②教育とジェンダー平等の促進
女性の教育水準を上げ、出産や保健に対する知識を深めることで家族計画が浸透します。
リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と権利)の確立により、女性が自らの意思で出産のタイミングや子どもの数を決定できるよう、社会環境を整備する必要があります。
人口爆発が引き起こす課題
ナイジェリアの人口増加は、
- 食料生産が需要に追いつかないという食料問題
- 食料増産のための熱帯林の伐採や砂漠化といった環境問題
を引き起こし、深刻な影響をもたらしています。
新興国の人口と経済に関わる社会状況
新興国とは経済成長の著しい国々であり、その成長は工業化と都市化の進展を伴うことが一般的です。
これにより生活水準の向上がもたらされ、それが出生率の低下に大きく寄与します。
生活の質の向上に伴い家族計画が積極的に推進されることが多いです。
この家族計画は単なる産児制限ではなく、家庭の経済的安定や子どもの福祉を重視したものです。
これらの要素により、新興国では合計特殊出生率や人口変化率の低下が進み、人口増加が抑えられる傾向にあります。
解答例
(1)アフリカ大陸
(2)
ケ国・コ国は工業化を伴う経済発展により人口変化率が低下したが、イ国では石油の輸出に依存した経済が続き、農業中心の社会で生活水準は向上せず出生率が高く、人口変化率は高いままである。
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