2024年の東大地理第1問設問B(1)(2)では、1970年から2021年までの地域別天然ガス年間生産量の推移に関する問題が出題されました。
この問題では、天然ガスの生産量に関する知識が求められました。
この記事では以下のことについて解説します。
- 天然ガスの資源としての特徴
- ロシアの天然ガス生産と輸出
- アメリカ合衆国の天然ガス生産・輸出・輸入とシェール革命
- 中東の天然ガス生産の現状
資料の読み取り:図1-3天然ガスの年間生産量
グラフA
- 特徴:2010年頃から天然ガスの生産量が急増しています。
- 背景:これはシェール革命によるアメリカ合衆国でのシェールガス生産の急増を反映しています。
- 判断結果:北米のグラフと判断します。
グラフB
- 特徴:1990年頃に天然ガスの生産量が大きく減少しています。
- 背景:これはソビエト連邦の崩壊により経済的混乱による生産量の減少を表していると考えられます。
- 判断:独立国家共同体のグラフと判断します。
グラフC
- 特徴:生産量がほぼ一貫して増加しており、これといった特徴がありません。
- 判断:消去法により、中東のグラフと判断します。
講義
天然ガスの特徴
基本特性
- 天然ガスは自然に産出する可燃性の炭化水素ガスで、メタンガスを主成分としています。
- 発熱量が多く、同じ重量で比較した場合に石炭や石油よりも高いエネルギー効率を持っています。
環境負荷の低さ
天然ガスは燃焼時に二酸化炭素や窒素酸化物の排出が少なく、酸性雨の原因となる硫黄酸化物も排出しないため環境負荷が小さいクリーンなエネルギーです。
安定した供給
天然ガスは石油と比べて埋蔵量の中東への偏りが小さく、世界各地に分布しているため供給の安定性が高いとされています。
そのため、1970年代の石油危機以降に石油の代替エネルギーとして注目されており先進国を中心に需要が伸び続けています。
ロシアの天然ガス生産と輸出の特徴
世界的な天然ガス供給国
- ロシアは世界有数の天然ガス埋蔵量を誇り、生産量・輸出量ともに世界トップクラスです。
- 多くの天然ガス田が北極圏に分布しています。
ソビエト連邦の崩壊と経済再建
- 1991年のソビエト連邦崩壊により、中央政府による計画経済から民間主体の市場経済へと移行しました。
- この転換で一時的に経済が混乱し、天然ガスの生産量も減少しました。
- 2000年代に入り原油・天然ガスの価格が高騰すると、天然ガス資源の開発が再び活発化してエネルギー輸出を軸に経済成長を遂げました。
ヨーロッパへの天然ガス輸出とパイプライン網
ロシアはパイプライン網を通じてヨーロッパに天然ガスを供給しています。
旧ソ連時代に敷設されたドルジバパイプラインは東ヨーロッパ諸国への天然ガス供給ルートとして使用され、今もヨーロッパ諸国への天然ガス輸出に活用されています。
ウクライナを経由するルートを含むヨーロッパ向けのパイプラインは、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとしてロシアが天然ガスの供給を停止することでエネルギー供給に混乱をきたしました。
そのため、ヨーロッパ各国はエネルギー安全保障の観点からロシア産の天然ガスへの依存度の見直しが進められています。
アジア市場への展開
シベリア東部やサハリンでの日本との共同ガス田開発も進められていますが、計画当初に期待されたほどの成果には至っていない状況です。
天然ガスのパイプライン輸送が困難な日本などへは液化天然ガス(LNG)として輸出しています。
アメリカ合衆国の天然ガス生産とシェール革命
アメリカの天然ガス生産と輸入
アメリカはメキシコ湾岸を中心に豊富な天然ガス資源を持ち、世界有数の生産量を誇ります。
国内需要が大きいため、カナダからパイプラインでの輸入やLNGの輸入も行われています。
天然ガスの主要な生産国でありながら世界有数の天然ガス輸入国でもあります。
シェール革命
2000年代後半からの技術革新により、地下深くに埋蔵されていたシェール層(頁岩)からシェールガスやシェールオイルを採掘できるようになりました。
これにより、アメリカの天然ガス・石油生産が急増しました。
この生産拡大はアメリカのエネルギー自給率を大きく向上させ、原油価格の急落など世界のエネルギー市場に変革をもたらしました。
この一連の出来事をシェール革命といいます。
シェール層は硬い岩盤で採掘が難しいとされていましたが、高圧水圧破砕法(フラッキング)により地下数千メートルにあるシェール層を破砕して天然ガスや石油を取り出す技術が確立されて生産が飛躍的に拡大しました。
シェールガス・シェールオイルの課題
・環境への影響
シェールガス採掘の際に大量の水を高圧で岩盤層に注入するため、地下水汚染や地盤沈下などの環境問題が懸念されています。
・採算のリスク
脱石油化が進むなどして原油価格が低下すると、採掘コストの高いシェールガスやシェールオイルは価格が採算ラインを割り込む可能性があります。
中東における天然ガスの埋蔵と生産の特徴
中東、特にペルシア湾岸諸国には世界の約40%の天然ガス埋蔵量が集中しています。
このため、将来的な供給源として注目されています。
石油開発に重点が置かれてきたため、天然ガスの生産量シェアは埋蔵量のシェアほど多くありません。
近年、天然ガスの需要が世界的に高まっていることを背景にLNG輸出のためのインフラ整備が進められています。
これにより遠隔地への輸送が容易になり、中東の天然ガスは日本や欧米などへの輸出も増加しています。
中東の中でカタールは大規模なLNG輸出国で、LNGの生産能力を大幅に拡張するプロジェクトを進めています。
これにより日本や欧米の多くの国がカタール産のLNGを輸入しており、国際的なエネルギー市場での影響力を強めています。
解答
(1)Aー北米、Bー独立国家共同体、Cー中東
(2)シェール