【東大地理2024】東南アジアで乳と乳製品が利用されてこなかった主な理由|第1問設問A(4)

東大地理2024第1問設問A(4)東南アジアで乳と乳製品が利用されてこなかった主な理由 地理

2024年の東大地理第1問設問A(4)では、東南アジアで乳と乳製品が利用されてこなかった主な理由について2行(約60文字)以内で説明させる問題が出題されました。
この問題を解くにあたっては、東南アジアの気候や農業に関する知識が必要であり、表1-1で示されている精白米のアミノ酸スコアの高さに注目する必要があります。

この記事では以下のことについて解説します。

  • 東南アジアの気候の特徴
  • 東南アジアの農業の特徴

この記事を通じて東南アジアの気候と農業の特徴について知識を整理しておきましょう。

執 筆 者
諏訪孝明

東京大学経済学部卒
1浪・東大模試全てE判定・センター7割台の崖っぷちから世9割、日8割、数2割で文科Ⅱ類に合格。
これまでに1000人以上の受験生を指導。 
直近2年で偏差値70超の学校への合格率が90%を超えている。

諏訪孝明をフォローする
公式LINEでは、国公立大学2次試験の世界史・日本史・地理の論述を攻略するために必須な超有益情報を発信しています。ぜひ友達追加してください!

資料の読み取り

リード文

乳と乳製品は、ヒトが体内で合成できず食品から摂取しなければならないアミノ酸(必須アミノ酸)などの栄養素を豊富に含み、栄養学的なメリットが大きい

リード文では乳と乳製品が必須アミノ酸を豊富に含むため、栄養学的に優れていることが述べられています。
必須アミノ酸は人が体内で合成できないため、食物から摂取する必要がある栄養素です。
したがって、乳や乳製品を利用する主な利点として必須アミノ酸の摂取が挙げられます。
このことから、東南アジアの人々が乳や乳製品を利用してこなかった理由として「他の食品から必須アミノ酸を十分に摂取できていた」可能性を考えることができます。

表1-1:主食穀類の栄養成分比較

表1-1では、主要な主食穀類のアミノ酸スコアが示されています。
精白米は他の穀物に比べてアミノ酸スコアが最も高く、必須アミノ酸を豊富に含むことがわかります。
東南アジアは熱帯・モンスーン気候であり高温多雨なため、米を主食として栽培しやすい環境です。
そのため、東南アジアの人々は主食である米から必須アミノ酸を多く摂取しており、乳や乳製品から摂取する必要がなかったと考えられます。

講義:東南アジアの気候と農業

東南アジアの気候と農業

東南アジアは赤道に近い低緯度に位置し、独特な高温多雨の気候とそれに適応した農業が発達しています。
この地域の気候は主に熱帯雨林気候・熱帯モンスーン気候・サバナ気候・温帯冬季少雨気候の4種類に分かれており、それぞれの特徴に応じた農業が行われています。
まず、それぞれの気候の要点をまとめた表を示します。

主な分布気候
熱帯雨林気候(Af)赤道周辺年間を通して高温多雨
熱帯モンスーン気候(Am)マレー半島雨季と弱い乾季
サバナ気候(Aw)インドシナ半島雨季と乾季の区別が明瞭
温帯冬季少雨気候(Cw)ベトナム北部夏は高温多湿、冬は乾燥

次に、各気候の特徴をもう少し詳しく説明します。

1:熱帯雨林気候(Af)

分布:赤道周辺。スマトラ島、カリマンタン島、マレー半島など。
気候:年間を通して高温多雨で、気温の年較差は小さいです。午後にはスコールが頻繁に降ります。
住居:高温多湿に適応するために高床式住居が発達しています。
   高床式住居は風通しを良くし、洪水や動物の侵入から住居を守るという役割を果たしています。

2:熱帯モンスーン気候(Am)

分布:インドシナ半島やマレー半島など。
気候:モンスーン(季節風)の影響で雨季と弱い乾季に分かれています。

3:サバナ気候(Aw)

分布:熱帯雨林気候の周辺、特にインドシナ半島の一部。
気候:雨季と乾季の区別が明瞭な気候。夏が雨季、冬が乾季となります。

4:温帯冬季少雨気候(Cw)

分布:ベトナム北部
気候:モンスーンの影響で夏は高温多湿、冬は乾燥する気候。冬の降水量が少なく、夏の降水量が多いです。

東南アジアの農業

東南アジアの農業は主にモンスーン(季節風)を利用した稲作と植民地時代に始まったプランテーション農業が中心です。

稲作

東南アジアの高温多雨な気候が稲作に適しています。
稲作は自給作物として主に単作で行われ、特に年降水量1000mm以上の多雨地域における沖積平野の三角州や丘陵地の棚田における小規模経営でのアジア式稲作農業が特徴です。

・沖積平野での稲作
大河川の下流域では三角州が発達しており、稲作が広く行われています。
メコン川やチャオプラヤ川の下流域での稲作が特に有名です。
・棚田の利用
インドネシアのジャワ島やバリ島などでは丘陵地を切り開いて階段状の水田である棚田で稲作が行われています。
・米の輸出
米は自給的作物であり自国内での消費が盛んですが、タイやベトナムは世界有数の米の輸出国となっています。
タイやベトナムでは米の生産量が国内需要を超えるからです。

プランテーション農業

プランテーション農業とは、熱帯・亜熱帯にみられる大規模な商業的農園農業のことです。
欧米の資本・技術と地元民や移民の安価で豊富な労働力を利用して特定の商品作物を大量に単一耕作します。

東南アジアでは欧米諸国の植民地支配の影響で始まり、現在も東南アジア経済に大きな影響を与えています。
東南アジアでは特に天然ゴムや油やしの生産が盛んです。

・天然ゴム
タイやインドネシアで特に生産が盛ん。
近年、中国の自動車生産量増加によるタイヤ向けの需要増と合成ゴムの原料である原油価格高騰により天然ゴムの価格が上昇しています。
・パーム油
インドネシアやマレーシアでの生産が盛んです。
油やしから精製されるパーム油はバイオディーゼルの原料として注目されています。
また、先進国での健康志向の高まりにより植物性油脂に注目が集まり、パーム油の需要が増加傾向にあります。

プランテーション農業の拡大により熱帯林の伐採が進み、環境破壊が問題となっています。
特に天然ゴムや油やしのプランテーション開発が進むことで、東南アジアの森林破壊や生態系への悪影響が指摘されています。

国別

①インドネシア
・米の生産:ジャワ島やバリ島で棚田を活用した稲作が盛ん。
・プランテーション農業
人口が密集するジャワ島ではコーヒーやサトウキビの栽培が盛ん。
ジャワ島以外の島では豊富な土地資源を利用した天然ゴムや油やしの栽培が盛ん。
②マレーシア
・油やし生産
天然ゴム栽培のモノカルチャー経済からの脱却とより収益性の高い作物栽培への変更を志向して1980年代以降に天然ゴムから油やしへの転換が進行しました。
現在は油やしから精製されるパーム油が主要な輸出品目となっています。
③タイ
・米の輸出
チャオプラヤ川の下流域では商業的稲作が盛ん。
インドに次いで世界第2位の米輸出国。
灌漑の整備により二期作が拡大。
④ベトナム
・米の輸出
メコン川の下流域では商業的稲作が盛ん。
生産量が国内消費量を上回るため輸出量が多い。
・コーヒー豆
世界第2位の生産量。
ただし、高価なアラビカ種は標高が足りないため栽培できない。
安価なロブスタ種が中心のためコーヒー豆の価格急落を機に他の農作物に転作する農家もある。
・ドイモイ政策の影響:1980年代後半以降農民の生産意欲が高まり、米やコーヒー豆の生産量が飛躍的に増加。
⑤フィリピン
・バナナ栽培:世界有数のバナナの輸出国。バナナプランテーションが発達。
・米の生産と輸入
稲作が盛んで増産にも成功しているが、人口増加に伴い消費量が生産量を超過しているため輸入量が多くなっている。
中国やベトナムより単位収量が少なく、生産コストが高い点が課題。
⑥カンボジア
・浮き稲の栽培:トンレサップ湖周辺での浮き稲栽培が特徴。水位の変動を利用した稲作が行われている。
⑦ミャンマー
・エーヤワディー川の下流域では三角州が発達しており、稲作が盛ん。
⑧東ティモール
・米やトウモロコシ、コーヒー豆などの栽培が行われている。

解答例

高温多雨な気候を活かして稲作が盛んであり、主食とする精白米に必須アミノ酸が他の主要穀類に比して豊富に含まれているから。
(59文字)

タイトルとURLをコピーしました