「キリスト教とローマ帝国との関係を理解したい」
「用語だけでなくフレーズで覚えておきたい」
「指定字数内でまとめる力を向上させたい」
東京大学は2024年度入試において、世界史第2問の問1(a)で
1世紀から4世紀末のキリスト教とローマ帝国の政治権力との関係の推移を4行以内(≒120字以内)で説明させる問題を出題しました。
世界史論述における典型問題なので、確実に得点しておきたいです!
そこで本記事では、1世紀から4世紀末のキリスト教とローマ帝国の政治権力との関係の推移を詳しく解説し、それを指定字数内でまとめる方法を解説します。
- キリスト教とローマ帝国との関係が理解できる
- 覚えるべきフレーズがわかる
- 指定字数内でまとめる方法がわかる
具体例を通じて、実践的な理解を深めましょう。
講義
キリスト教の成立
紀元30年頃にイエスがローマ帝国属州の総督により処刑されます。
なお、このこと自体を「キリスト教とローマ帝国の政治権力との関わり」とする人もいるかもしれませんが、イエスの処刑時点ではキリスト教はまだ成立しておりませんので今回は書かないほうがよいでしょう。
その後、イエスが復活したことをきっかけとして彼への信仰すなわち原始キリスト教が成立します。
そして、パウロらの尽力によりパレスチナ以外の地域にキリスト教が拡大していきます。
1世紀
【政治権力】
ネロ帝がキリスト教を迫害した
ネロ帝以外の政治権力者は基本的に信仰に寛容だった
【民衆】
キリスト教徒は国家祭祀への参加等を拒否した
⇒民衆はキリスト教徒を反社会的集団とみなした
⇒民衆はキリスト教徒を迫害した
権力者は黙認・民衆は迫害と、それぞれ異なる反応だったようですね!
2世紀
(ローマ帝国内の情勢悪化によりキリスト教徒への迫害が本格化しはじめる)
2世紀の情勢については把握しておかなくても大丈夫です!
3世紀
3世紀は「3世紀の危機」と呼ばれる時代です。
- 軍人皇帝の時代になった(政治の不安定化)
- 皇帝が兵士への給与支払を目的として通貨を増発⇒大規模なインフレが発生した(経済の不安定化)
- ゲルマン人の侵入による都市の荒廃(治安の悪化)
- ササン朝ペルシアとの戦い
こういった状況により、ローマ帝国は分裂の危機に陥りました。
(余談ですが、通貨の増発がインフレを招くことについて立命館大学経済学部のページで解説されていましたのでリンクを貼っておきます。)
この「3世紀の危機」と呼ばれる事態がキリスト教に以下のような影響を与えます。
政治権力の反応
ディオクレティアヌス帝が軍人皇帝時代の混乱を収拾した(284年にローマ帝国皇帝に即位)
⇒再発防止のため、皇帝の権威を高めようとした/専制君主制を始めた
⇒皇帝崇拝儀礼を帝国全土の住民に強制した
⇒キリスト教徒はこれを拒否した
⇒ディオクレティアヌス帝がキリスト教徒への大迫害を行った(これ自体は4世紀の出来事とされます)
民衆の反応
不安と混乱の時代
⇒奴隷・女性・下層市民など社会的弱者が、「政治には自分たちの命や財産を守る力がない」と悟る
⇒彼らが宗教への帰依を求めはじめる
⇒彼らを中心としてキリスト教の人数が飛躍的に増加し、帝国全土に拡大する
⇒上層市民にも広がりはじめる
政治権力・民衆ともに1世紀とは対照的な反応ですね!
4世紀
3世紀の動向でみたように、キリスト教は帝国全土に拡大して人々の心に浸透しました。
そこで、政治権力がこれを利用した統治を試みることになります。
313年:コンスタンティヌス帝がキリスト教を公認
コンスタンティヌス帝の目的は帝国統一維持/皇帝権力の回復です。
帝国全土に拡大したキリスト教徒の団結力をローマ帝国の統治に利用するためですね。
公認により、国家がキリスト教を保護するようになります。
それだけではありません。
325年:コンスタンティヌス帝がニケーア公会議を開催する
これが何を意味しているのかを説明します。
政治権力はローマ帝国内の安定化のためにキリスト教を保護しました。
もしキリスト教徒間で目立った対立があるとそれが再び治安を悪化させる可能性があります。
これでは、政治権力がキリスト教を公認した意味がありません。
そこで、政治権力はキリスト教の教義を統一しようと干渉します。
そして、アタナシウス派が正統とされアリウス派が異端となります。
教義が統一されたキリスト教はローマ帝国内を安定化させる役割を強めていきます。
(古来の伝統的宗教を尊重したためキリスト教徒からは「背教者」と呼ばれるユリアヌス帝もいますが。)
そしてついに
392年:テオドシウス帝がアタナシウス派キリスト教を国教とする
国教とする=他の宗教を信仰することを禁止する
ということです。
迫害されていたキリスト教徒は、これをもって他の宗教を迫害する側に回ることになります。
設問条件が「4世紀末まで」となっていれば記述する範囲はここまでですね。
なお、キリスト教のその後の権勢は以下の描写に象徴的です。
教会の組織化がいっそう進み、一般信徒を指導・監督する司教・司祭などの聖職者身分が成立した。都市でも農村でも社会のキリスト教化が進行し、教会は全帝国で組織的に慈善事業をおこなうようになった。教会の地位が高まるとともに、司教は一般社会や政治においても指導的役割をはたすようになった。
出典:『詳説世界史研究』P64
これをもって古代が終わり、中世が始まる感じがしますね!まさに時代の転換点!
講義のまとめ
今回の講義の内容をまとめます。
答案作成
講義が終わりましたので、答案を作成します。
段階的に作成することで、知識を指定字数内でまとめる際の思考プロセスが伝わるかと思います。
骨格
骨格は
迫害⇒公認⇒国教化
となります。
これに肉付けをしていきましょう。
一問一答で得られる知識で加筆
肉付けといっても様々なレベル・段階があります。
まずは一問一答で得られる基礎的な知識を使った肉付けを行いましょう。
皇帝崇拝を拒否したキリスト教徒をネロ帝やディオクレティアヌス帝が迫害した。しかしコンスタンティヌス帝がミラノ勅令でキリスト教を公認し、その後テオドシウス帝が国教化して保護されることとなった。
これで95文字です。
なお、ここにはニケーア公会議関連の記述をしませんでした。
なぜなら、続く設問でニケーア公会議について名称とともに論述させる問題が出題されているからです。
残り20字、書くことがなければニケーア公会議について言及して字数を埋めましょう。
字数を気にせず書いてみる
一問一答レベルの知識でも形にできそうなことがわかりました。
しかし、ここではもう1歩上の答案を目指してみましょう。
講義での説明を参考に、まずは字数を厳密には意識せず書いてみます。
1世紀、ネロ帝がキリスト教徒を迫害した。その後4世紀にディオクレティアヌス帝が大迫害を行ったが信者が増加したキリスト教の勢力を政治権力は利用しようとし、コンスタンティヌス帝が公認しまた教義の統一を図るなどの干渉も行った。その後テオドシウス帝が国教とし体制側の存在となった。
136字です。
4行におさめるには無理がありそうです。(なんとかなりそうではありますが。)
そこで、不要な表現を削ることになります。
なお、ここでも「ニケーア公会議」という名称やその中身については触れませんでした。
続く設問がそれを問うているからです。
しかしながら、「体制側の教義への干渉」は不可欠と考えて言及することにしました。
不可欠だと考えた理由は以下の3点です。
①干渉は
・迫害
・公認
・国教化
のいずれとも異なる4つ目の政治権力とキリスト教の関係性です。
②権力と結びついたものが保護されると、権力の意向で硬直化しやすい
公認、国教化ともにキリスト教徒へ「信仰の自由」を与えるものですが自由は往々にして責任を伴います。
キリスト教には「ローマ帝国を安定に導く責任」が生じ、それを果たすために教義を統一しなければならなくなった(多様な考え方を包摂する自由を奪われた)ことになります。
他に、例えば儒学も権力と結びつくことで硬直化することになります。
③差別化したい
「迫害」「公認」「国教化」これらはすべて東大受験生であれば誰でも思いつくものです。
これ以外に何か「プラスワン」を書くことができると他の受験生と1つ差をつけることができます。
以上の理由で、今回は「干渉」への言及が不可欠ではないかと考えました。
字数調整
1世紀、ネロ帝がキリスト教徒を迫害した。その後4世紀にディオクレティアヌス帝が大迫害を行ったが信者が増加したその後キリスト教の勢力を政治権力は利用しようとし、コンスタンティヌス帝が公認しまた教義の統一を図るなどの干渉も行った。その後テオドシウス帝が国教とし体制側の存在となった。
これで118字です。
4行にちょうどいい文字数となりました。
解答例/この記事のまとめ
そこで、今回の解答例は
1世紀にネロ帝が迫害し、4世紀にディオクレティアヌス帝が大迫害を行った。その後政治権力はキリスト教の勢力を利用しようとし、コンスタンティヌス帝が公認しまた教義の統一を図るなどの干渉も行った。その後テオドシウス帝が国教とし体制側となった。
とします。
東大世界史2024世界史解説記事リンク一覧
・大問1問1 https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-1-1/
・大問1問2 https://ronjyutu-taisaku.com/todai-2024-1-2/
・大問2問1(a)この記事です
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